優柔不断で決断力がないのはどうしてなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 優柔不断で決断力がない理由を探るため意思決定の意味を脳科学で説き明かします。
意志決定と脳の関係
意思決定の脳科学
- もともと脳は複雑な情報をまとめあげて効率の良い意思決定ができる作りにはなっていません。
- なかなか決断できない優柔不断な人もいれば即断して満足する人もいます。
- 訓練すれば決断力をアップさせることもできます。
- 決断力はそもそも脳が生み出した直感にすぎません。
- しかし直感に頼りすぎず感情によって決断がゆらいで優柔不断であっても良いのです。
意思決定の脳科学-その1
脳の神経はさまざまな情報をかき集めて十分な証拠がそろったところで最終的な選択をして意思決定の決断を下す。
意思決定までのプロセスは一見するととても単純に思えます。
しかし実際にはそう単純ではありません。
意思決定の脳回路はとても複雑です。
仕事での重大な決断から夕食に何を食べるかという簡単な些細な決断までいろいろな決断があります。
わたしたちの脳はさまざまなまったく違うタイプの情報をまとめて決断することを常に求められています。
しかしもともと脳は複雑な情報をまとめあげて効率の良い決断をするようにはできていません。
脳が進化したのはそもそも多様な社会状況を切り抜けて自然の驚異から生き残るためであり夕食のメニューを決めるためにはできていません。
なんて言っている人もいますが現実的は実に疑問です。
宝くじは冷静に考えれば極端に当選確率の低く損をする確率が極めて高い商品です。
しかし大当たりをした話を聞いたり想像したりするとどんな合理的な理論も太刀打ちできないくらいの動機づけがされて宝くじを買ってしまいます。
“宝くじの脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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なんて人もいますがこちらもはなはだ疑問です。
ヒトの決断力は推測で考える時経験則に頼りがちです。
しかし外部からちょっと雑音的な情報を流すとたちまち決断力が鈍り判断を誤りがちになります。
“経験則の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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ではわたしたちの意思決定は脳の中でどのように行われているのか、どんな傾向があるのかを探っていきましょう。
意思決定には種類がある
意思決定のスタイルには2種類あります。
1つは「マキシマイザー=最大化人間」です。
たとえば旅行に行く前にどこのホテルを予約するかを考えている時のことを想像してみてください。
マキシマイザーの人は調べられるだけ調べつくします。
どんな些細なものであれ違いがあれば徹底的に調べて延々と悩み続けます。
自分の目的を満たすものが「最大化」していないと気が済まないのです。
ですから最終的に決断を下したあとでも「本当にこれで良かったのか?」といつまでも悩み続けます。
そもそも経済的観点からすれば時間そのものにも金銭的価値はあるわけですから決断を下すまでに余計な時間を費やすこと自体が無駄になっているのですがそれにも気付きません。
いわゆる「優柔不断」なタイプです。
もう1つは「サティスファイサー=満足人間」です。
サティスファイサーの人はまあまあなモノを見つけるとそこで思考をストップさせて決断します。
自分のもともとの目的がある程度満たされれば良いわけでそこそこのところで妥協して決断し「満足化」するわけです。
いわゆる「決断力がある」タイプです。
一度決断してしまえば後ろは振り返らずたとえ間違えていたとしてもほとんど後悔はしません。
そんな考え方です。
ここには正解はありません。
どちらにも利点も欠点もあります。
しかし世の中両者が混在しているからこそうまくいっているところも大いにあります。
ただしサティスファイサーの人はマキシマイザーの人よりも幸せを感じやすいことは確かなようです。
決断力は鍛えられる?
優柔不断なマキシマイザーの人はぜひ自分の決断力を鍛えて優柔不断を克服したいと思っていることでしょう。
意思決定の脳科学-その2
脳の中で選択や決断をする意思決定のためのエネルギーは基本的に消耗品です。
しかもどんな意思決定においても使うエネルギーは一緒です。
たとえばある1つの意思決定の必要な作業を行うとします。
夕食に何を食べるかを考え食材をどこで買うかを考えそれぞれについて決断をしていき最終的に夕食が完成しそれを食べ終えます。
これで一連の作業は終了です。
すると意思決定のためのエネルギーは消耗しほとんど使い果たされてしまいます。
そのため夕食後にパズルを解こうとすると意思決定をするエネルギーが残っていないためにすぐにあきらめてしまいます。
このように2つの作業がまったく無関係の場合でも意思決定のためのエネルギーは脳の中では共通です。
ですから連続して作業を行うとどんどん作業効率は低下していくのです。
ひたすら動き続けて筋肉を使い続けるとどんどん筋肉が消耗してうまく動けなくなります。
ですから筋力トレーニングをして筋力を増やして蓄えるのです。
意思決定の脳科学-その3
意思決定においては目的のある一連の行動を計画し実行するための能力は使えば使うほどその効率はアップすることが分かっています。
つまりエネルギーさえ蓄えておけば意思決定の能力をフル稼働させることができるようになるはずです。
意思決定の能力を鍛えるためには…たとえば好きでない人に親切にするような心理的には難しい作業をひたすら積み重ねることが必要でしょう。
意思決定の脳科学-その4
自分にとっては厳しい状況下での意思決定を繰り返して作業を完結させるような訓練を続けることで決断力はアップして持続力が養われるのです。
嫌なことから目を背けてばかりではますます優柔不断になってしまいます。
意思決定の脳科学
ここまで意思決定について説明してきました。
最後は意思決定の脳科学について探ってみます。
最初にも説明しましたがもともと脳は複雑な情報をまとめあげて効率の良い意思決定をすることはできません。
意思決定の脳科学-その5
意思決定は決して高度な知能などではなく生物が進化する初期の時代から存在している脳の「癖」であり本能的な直感…つまり動物的な勘にすぎません。
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自然界では直感的な判断は命に関わります。
たとえばライオンに追われたシカは逃げる方向を瞬時に決定します。
理詰めで熟慮する時間などありません。
しかも判断を誤ればライオンの餌食となります。
野生の世界では瞬発的な直感が正しかった動物だけが生き延びることができるのです。
そんな厳しい環境の中で自然淘汰されて洗練されてきた直感からくる意思決定は進化的に正しさが保証されているに違いありません。
ヒトはつい自分の意思決定の能力に動物とは異なる大層な「知性」を求めがちです。
しかしわたしたちの意思決定の能力は生物の進化の産物そのものです。
あなたの決断力は昔の時代から生物が築き上げてきた力強い生命プロセスによって成り立っていることを忘れてはなりません。
意思決定の脳科学-その6
ヒトの意思決定は直感だけでなく「感情」によっても左右されるということです。
直感はなんとなくの決断にもかかわらず多くの場合正解にたどり着くことが多いとされています。
直感に関して脳はとても優れた能力を発揮します。
しかし脳は自分で導き出した直感に対して「本当にそれで大丈夫?」と意思決定に揺さぶりをかけてきます。
しかしこの「感情論」は一方的にバカにすることはできません。
なぜなら現実の世界では状況は一定ではなく常に変化しているからです。
今は得策と考えられる選択肢でも知らぬ間にもう1つの選択肢の方がより有効に変化することもあるかもしれません。
もし生命にかかわるような重要な意志決定であればなおさら決断にゆらぎが出てあたりまえです。
つまり大人になるほど感情に流された非論理的な意思決定をしがちになり優柔不断になりやすくなるのです。
しかし一見理不尽とも思える感情的で非論理的な意思決定が時には救いの決断となることもあります。
そうやってヒトは進化を続けてきたのです。
優柔不断で決断力がなくても排除されることは決してありません。
逆に優柔不断であることが愛すべき「人間味」という絶妙な魅力を醸し出すことだってあるのです。
“意思決定の脳科学“のまとめ
意思決定の意味を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- もともと脳は複雑な情報をまとめあげて効率の良い意思決定ができる作りにはなっていません。
- なかなか決断できない優柔不断な人もいれば即断して満足する人もいます。
- 訓練すれば決断力をアップさせることもできます。
- 決断力はそもそも脳が生み出した直感にすぎません。
- しかし直感に頼りすぎず感情によって決断がゆらいで優柔不断であっても良いのです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
最後にポチっとよろしくお願いします。