情報は多い方が良いのでしょうか?
それとも最低限の情報さえあればよいのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 脳に疲れとストレスを与える「情報過多」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
情報過多の落とし穴
「情報過多」の脳科学
- 「情報過多」とは必要以上の情報によって脳の判断力が低下した状態です。
- すでに手に入れている情報に満足せず、情報集めに時間と労力を要しても得をするとは限りません。
- 「情報過多」の状況の中で生きていると、情報を失うことに恐怖を感じるFOMAにおちいり、疲労とストレスを生み出します。
- 「情報過多」に振り回されないようにするためには、デジタルツールを遮断するデジタルデトックスがもっとも有効です。
現代ではGoogleマップに代表される地図アプリを用いれば、周辺の施設を調べたり、目的地への道順を調べたりすることがとても簡単になりました。
地図にどのくらいの情報を求めるでしょうか?
おおよその情報があればよいでしょうか?
それとも極限まで精緻を極めた地図が必要でしょうか?
アルゼンチンの作家であるホルヘ・ルイス・ボルヘス氏は、たった一つの段落からなる短編『学問の厳密さについて』で次のように記しています。
「あの王国では、地図学は完璧の極限に達していて、一つの州の地図はある都市の、また王国の地図はある州の広さを占めていた。
時代をへるにつれて、それらの大地図も人びとを満足させることができなくなり、地理院は一枚の王国の地図を作製したが、それは結局、王国に等しい広さを持ち、寸分違わぬものだった。地図学に熱心な者は別であるが後代の人びとは、この広大な地図を無用の長物と判断して、無慈悲にも、火輪と厳寒の手にゆだねてしまった。
西方の砂漠には、ずたずたに裂けた地図の残骸が今も残っているが、そこに住むものは獣と乞食、国じゅうを探っても在るのは地図学の遺物だけだという。
『学問の厳密さについて』J・L・ボルヘス/鼓直訳
『創造者』東京 : 国書刊行会, 1975.5.2 (世界幻想文学大系 / 紀田順一郎, 荒俣宏責任編集 ; 第15巻), p.224-225
究極の地図とは、縮尺が一対一、つまり国そのものと同じ大きさの地図ということになります。
しかしそのような地図からは、情報は得られず使い物にはなりません。
なぜならそのような地図はその国のただのコピーにすぎないからです。
『情報が多ければ、おのずと良い決断を導き出せる。』
そのような思考の誤りが「情報過多」を生み出します。
「情報過多」の弊害
情報過多
『情報過多』(情報オーバーロード information overload)
情報オーバーロードとは、情報過多によって必要な情報が埋もれてしまい、課題を理解したり意思決定したりすることが困難になる状態を指す。
初出はバートラム・グロス(英語版)の1964年の著書である。
アルビン・トフラーが1970年のベストセラー『未来の衝撃』で一般化させた概念。
情報洪水、多すぎる情報などともいう。
いろいろと調べて、ホテルの候補を5つまで絞り込み、その中から第一印象で最も気に入ったホテルに決めました。
“第一印象の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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しかしあなたは自分の直感をそのまま信じてよいのか迷いはじめます。
そこで決断の質を上げようと、もっと情報を手に入れることにしました。
さまざまなホテルについてのコメントや評価やブログの書き込みを読んで、無数の写真や動画をせっせとクリックしました。
そして2時間後、あなたは結局最初に気に入ったホテルに予約しました。
つまり洪水のような大量の追加情報は、決断の質を上げるには何の役にも立たなかったわけです。
それどころか逆効果でした。
情報集めにかかった時間をお金に換算すると、あなたはそのお金でもっと高級で金額の高いホテルに泊まることができたかもしれなかったのですから…
ある患者が80%の確率でAという病気だと思われる症状を訴えています。
もしその患者がかかっている病気がAでないとすると、その病気はBあるいはCということになります。
治療法は当然病気によって異なります。
AもBもCも病気としてはどれも同じくらい深刻であり、どの治療にも同じくらい大きな副作用がともないます。
あなたは医師として、どの治療を提案するでしょうか?
当然、あなたはその患者の病気をAと推測して、Aに対する治療をすすめるでしょう。
ただしこれらの病気には「診断をより確実にする検査」が存在します。
その検査をすると、病気がBの場合は陽性となり、病気がCの場合には陰性となります。
しかし病気がAの場合には、陽性になる確率は50%、陰性になる確率も50%です。
あなたは医師として、この検査を患者にすすめるでしょうか?
この質問をすると、ほとんどの医師は「その検査をすすめる」と答えます。
少しでも診断が確実になるのであれば検査はするべきでしょう。
しかし今一度落ち着いて考えてみてください。
その検査で得られる情報は、この場合の診断結果にはなんの影響もおよぼしません。
仮に検査結果が陽性だったとしても、その患者の病気がAである確率はBである可能性よりもずっと高いといえます。
陰性の場合も同じです。
病気がAである確率はCである確率よりもずっと高いはずです。
検査でもたらされる追加情報は、まったく診断の役には立たないのです。
それでも多くの場合は、医師のみならず患者もその検査をすることを望みます。
少しでも情報を得ることで、より確実な診断と治療が可能になると信じているからです。
しかし実際は検査にかかる時間と費用が無駄になるだけで、患者にとっての利益はゼロです。
多くの人は情報集めがほとんど癖になっているとも言えるでしょう。
重要な事実はすでに目の前にあるというのに、さらなる情報集めに時間とお金と労力を要することは決して珍しいことではありません。
しかし追加される情報の多くは無駄なだけでなく、時にマイナスにも働くのです。
「情報過多」がもたらす疲労とストレス
現代社会ではインターネットやSNSの普及によって、わたしたちは知りたい情報を簡単に手にいれたり、興味ある話題について最新の動向をいつでも把握したりすることができるようになりました。
一方で、大量の情報を前に多くの人が振り回され、集中力を削がれているのも事実です。
自分の処理能力を超える量の情報に直面する、いわゆる 「情報過多」の状態です。
このような状況では、インターネットやSNSではもはや決して追いつけないと思うほどのお知らせやメールや最新情報が続々と送信されてきます。
当然すべてに目を通して確認することは不可能です。
しかし大量の情報に囲まれている「情報過多」の状況の中で生きていると、最新の情報に触れ続けていないと何かを見落とすのではないか、世界からおいていかれるのではないか、成功のチャンスを逃すのではないかといった恐怖を感じるようになります。
FOMAでは、インターネットやSNSに限らず常に最新の情報を追い続けていないと、不安や心配にさいなまれ、それがいつの日かストレスとなり、作業効率を低下させ、最終的には身も心も疲弊していきます。
FOMAによって、そもそも取り組むべき肝心の要件をこなすことができなくなり、生産性が低下するという悪循環を招くことも決して少なくありません。
情報が氾濫(はんらん)する現代社会では、不要な不安感を持たずに健全な精神状態を保つために、自分にとって何が大切な情報なのかを見極める力が必要なのです。
「情報過多」にいかに対応すればよいのか?
サンディエゴとサンアントニオでは、どちらの街の人口が多いでしょうか?
このような質問をアメリカとドイツの学生にたずねた実験があります。
どちらもアメリカにある街です。
そして正解はサンディエゴです。
アメリカの学生の正答率は62%でした。
一方でドイツの学生の正答率は100%でした。
ドイツの学生は全員サンディエゴという街の名前を聞いたことがありましたが、サンアントニオを知っている学生はほとんどいませんでした。
そのためドイツの学生は全員サンディエゴの方が人口が多いと答えました。
ドイツ人でも知っている街なのですから人口が多いに決まっています。
一方アメリカの学生は全員両方の街を知っていました。
しかし知っているがゆえに、どちらの街の人口が多いのかを真剣に悩み、そして回答がわかれたのです。
情報の神とも言うべき専門家が発する予測が今までどのくらい当たったでしょうか?
きっとそのほとんどは外れているはずです。
“予測の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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情報を集めることは決して悪いことではありません。
しかしどんどん流れ込んでくる情報を集めたとしても、それを脳の記憶に刻み込まなければ知識となって脳内に留まることはありません。
また情報の中には多くのフェイクが紛れ込んでいます。
フェイクニュースに振り回されていると何が本当で、何が嘘なのかがわからなくなってしまいます。
“フェイクニュースの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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では情報があふれかえる「情報過多=情報の洪水状態」から身を守りつつ、大切な情報を見逃さずに拾い出すにはどうすればよいのでしょう?
「情報過多」の対策でももっとも有効な方法は、なんといっても「デジタルデトックス」でしょう。
「デトックス」とは「detoxification(解毒)」という英単語の短縮形で、「体に溜まった毒素を体外へ排出する」という意味の言葉です。
わたしたちは日頃から食事や呼吸などによって、無意識に体内に毒素を溜め込んでいます。
この溜め込んでしまった毒素を排出して、健康体を取り戻そうとすることを「デトックス」と呼びます。
情報に関してもこれと同じです。
情報過多で脳の中が整理できていない状態が続くと、脳は容量オーバーとなり働きが極端に低下してしまいます。
特に世界中とつながってリアルタイムに情報が舞い込んでくるスマホやパソコンをシャットダウンして、デジタルツールから情報が入ってこない環境を作ってみてください。
”ニュースダイエットの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考ニュースは見ない、聞かない、読まない方が得なのか?「ニュースダイエット」の意味を脳科学で探る
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デジタル情報に頼って生きている人にとって、スマホやパソコンから完全に切り離された生活を送ることは、はじめはとても不安でしょう。
そのことが逆にストレスを生み出す原因になるかもしれません。
しかしデジタルデトックスに慣れてくると、いつも見過ごしていたことがよく見えるようになってきます。
情報よりも、あるがままのモノ、コトをしっかりと感じ取れるようになり、今まで感じたことのない幸福感や安心感を得られるはずです。
完全にデジタルツールから遮断できなくとも、自分なりに最低限の情報だけで生活するように心がけてみるだけでも、脳の判断力は大きく変わります。
“判断力の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考【すぐ活用できる!】インバスケット思考を習得して判断力を鍛える方法を脳科学で探る
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知らなくてもいいことに価値はないのです。
たとえそれを知ったところで自分にとって無価値なものは無価値なままなのです。
“「情報過多」の脳科学”のまとめ
脳に疲れとストレスを与える「情報過多」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「情報過多」とは必要以上の情報によって脳の判断力が低下した状態です。
- すでに手に入れている情報に満足せず、情報集めに時間と労力を要しても得をするとは限りません。
- 「情報過多」の状況の中で生きていると、情報を失うことに恐怖を感じるFOMAにおちいり、疲労とストレスを生み出します。
- 「情報過多」に振り回されないようにするために、はデジタルツールを遮断するデジタルデトックスがもっとも有効です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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