お金がモチベーションを下げるって本当なのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- お金がモチベーションを下げる「モチベーションのクラウディングアウト」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
モチベーションについて考えてみよう
「モチベーションのクラウディングアウト」の脳科学
- モチベーションには、お金によって生み出される「外発的モチベーション」と、誇りや喜びなどによって生み出される「内発的モチベーション」があります。
- お金が登場すると、「内発的モチベーション」が排除される「モチベーションのクラウディングアウト」が発生します。
- 「モチベーションのクラウディングアウト」が起こると、お金に関係ないことには見向きもしなくなり、最終的にモチベーションはゼロになってしまいます。
- お金に釣られて「モチベーションのクラウディングアウト」を起こさないようにご用心ください。
数か月前に友人が引っ越して行きました。
引っ越した後に、友人が大切にしていた釣りざおを借りっぱなしであることに気づきました。
宅急便で送っても良かったのですが、万が一傷がついたり壊れたりしたら申し訳ないので、遠路はるばる車で返しに行きました。
友人がその釣りざおにどれほどの愛着を持っているかを知っていたからこそ、自分の手で返したかったのです。
友人はわざわざ手渡しで返しに来てくれたことをとても喜んでいました。
その2週間後、友人から感謝の手紙が届きました。
そしてその手紙には1万円が添えられていました。
ある都市では、ごみ処理場を建設する予定がずいぶん前からありました。
さまざまな場所が候補地に上がりましたが、なかなか決まらずに時間ばかりがたっていました。
そしてついにある空き地が、ごみ処理場の候補地に決まりました。
役所の担当者や建設業者の関係者たちがその地区にやって来て、ごみ処理場についての説明会を開きました。
説明会の最後に参加した住民たちに、ごみ処理場の建設に賛成するか反対するかのアンケートが配られました。
結果は参加者の50%…つまり参加者の半数は賛成と答えました。
1か月後に再度説明会が開かれました。
何とかして賛成の人数を過半数以上にしたかったからです。
その説明会では、「賛成してくれた住民全員に10万円の補償金を出す」という提案がされました。
補償金の財源はその都市の納税者たちがおさめた税金です。
そして再度、住民たちにごみ処理場の建設に賛成するか反対するかのアンケートが配られました。
結果はどうだったでしょう。
賛成と答えたのは参加者の25%…つまり前回の説明会から半減してしまったのです。
世界中の保育園が悩まされている問題があります。
それは、あずかり時間を過ぎても子どもをなかなか迎えに来ない親がいることです。
職員たちは親が来るまでは待つしかなく帰れません。
その対策として、ある保育園では罰則を設けました。
「あずかり時間を過ぎて迎えに来た親には罰金を科す」という制度です。
職員たちは「これでどの親もちゃんと迎えに来るようになって、自分たちも時間通りに帰れる…」と期待しました。
しかし結果は予想外のものでした。
遅刻して迎えに来る親は、罰金制度によって減るどころか逆に増えてしまったのです。
共感した人もいれば、信じられない人もいるでしょう。
お金がモチベーションを下げている
それは「お金がモチベーションを上げることにつながっていない」ということです。
それどころかお金が逆効果を生み出しています。
1つ目の話では、釣りざおをわざわざ自分の手で返しに行ったのは自分の好意と誠意です。
しかしそれに対して、友人は1万円という値をつけました。
これによって自分の好意は価値が下がり、友情に水を差す形になってしまったのです。
2つ目の話では、ごみ処理場の建設に最初賛成していた住民の意見には、「ごみ処理場の建設は生きていくうえで仕方ないことであり、公平さの観点から社会的義務を自分たちが払う必要がある」という誇りがありました。
しかし補償金の提示によって、住民たちは役所や建設業者から買収されたと考え、さらにはお金で自分たちの誇りが傷つけられた感じたのです。
3つ目の話では、保育園が提示した罰金は、親と保育園との関係を人間同士の関りから金銭を介したつながりに変化させてしまいました。
つまり遅刻して迎えに来ることが正当な行為になったわけです。
お金さえ払えば遅刻して迎えに行っても構わない…そのように多くの親たちは考えたのです。
いずれもお金で解決しようとしたことが裏目に出て逆効果になってしまっています。
モチベーションはどうやって生み出される?
モチベーションを生み出すものは、ずばり「インセンティブ」です。
インセンティブ
『インセンティブ』
インセンティブとは、意欲を引き出すことを目的として外部から与えられる刺激のこと。
インセンティブは、ビジネスシーンにおいては目標やノルマを達成した際に支給されるボーナスや報奨金という意味でよく用いられている。
そのため、インセンティブの語は成果報酬と捉えられることが多い。
インセンティブと聞くと「お金」がもっとも重要という印象があるかもしれません。
お金のように具体的な数字で提示されると客観性があり説得力が上がります。
なんて有名なセリフがありますが、これこそ「インセンティブ=お金」と思われている証拠でしょう。
実際にモチベーションを生み出しているのは、多くの場合「お金」です。
世の中金銭的インセンティブで支えられているものは多く存在します。
多くの人はモチベーションを上げて成果を出すことの対価として金銭的報酬を求めます。
先ほどご紹介したような非金銭的報酬がインセンティブとなり、モチベーションを生み出すことはよくあることです。
一生懸命働くことや他人に尊敬されるような仕事をすることで得られる社会的報酬や、ボランティアなどのように、金銭的報酬がなくても自分の好きなことをすることでモチベーションを上げている人もいます。
このようにモチベ―ションは、お金と関係するような「外発的モチベーション」と、お金と関係しない「内発的モチベーション」に分けられます。
“やる気を出してモチベーションを上げる方法”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考やる気を出してモチベーションを上げる方法を教えます~マズローの欲求の法則における内発的動機づけを脳科学で探る
やる気を出してモチベーションを上げるにはどうしたらいいの? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳 ...
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外発的モチベーション
「外発的モチベーション」とは、自分自身の外部に存在するインセンティブから生み出されるモチベーションです。
たとえば他人にお願いされて本来はやりたくないことをやらされる状況を考えてみてください。
そのような時に、わたしたちのモチベーションを上げるのは何らかの外発的インセンティブです。
そして最も一般的で強力な外発的インセンティブは「お金」です。
わたしたちはお金をもらえるからこそ働きます。
お金以外でも外発的モチベーションは刺激されます。
たとえば表彰されることやご褒美をもらうことなどはいずれも外発的インセンティブとなり得ます。
内発的モチベーション
一方で、「内発的モチベーション」とは、自分自身の内なる目標や姿勢から生じるインセンティブから生み出されるモチベーションです。
わたしたちは時として、何らかの報酬のためではなく、自分自身の誇り、義務感、忠誠心、快楽などの、いわゆる「やる気スイッチ」である内発的インセンティブが引き金となってモチベーションを生み出します。
このような時には、外発的インセンティブは必要ありません。
自分の好きなことに打ち込んだり、大切な他人のために何かを成し遂げようとしたりする時などは、自分の内なる何かがモチベーションを湧きたてていきます。
「外発的モチベーション」と「内発的モチベーション」の説明を聞くと、それぞれ独立したモチベーションのように思えてしまいます。
しかし2つのモチベーションは密接に関係していて、時に「外発的モチベーション」が「内発的モチベーション」を排除するように働いてしまいます。
モチベーションのクラウディングアウト
モチベーションのクラウディングアウト
『モチベーションのクラウディングアウト』
モチベーションのクラウディングアウトとは、外発的な報酬が、労働者などに代表される個人の勤労意欲や社会倫理に関する内発的動機付けを駆逐し、そのパフォーマンスを低下させてしまうという、心理学の研究から得られた知見。
クラウディングアウトとは「駆逐(くちく)」という意味です。
金銭的な理由で行っているわけではないこと(=「内発的モチベーション」)に金銭を介在させると(=「外発的モチベーション」)、自ら進んでものごとを行おうとする意欲を減退させてしまいます。
つまり「金銭的なモチベーション」を持つと、その人の「非金銭的なモチベーション」が駆逐されてしまうのです。
たとえ少額であっても金銭的報酬を受け取ってしまうと、その人の意欲は低下し、まったく報酬を支払わない場合よりもパフォーマンスは低下してしまいます。
しかもそれだけではありません。
人間は欲深いもので、金銭的報酬は多ければ多いほどうれしい一方で、いったん少ないと感じてしまうとインセンティブが不十分となり「外発的モチベーション」が働かなくなり、モチベーションをすべて消し去ってしまうのです。
お金でモチベーションが上がる人と下がる人の違いはどこにある?
営利目的では仕事をしていないので、従業員たちに支払われる給料は世間一般の平均以下です。
それでも従業員たちは自分達の仕事に誇りを持っているので、一生懸命働いています。
たとえば他社と契約を結ぶごとにボーナスとして報奨金を与えます。
一見するとボーナス目当てに、従業員たちはますます一生懸命働くように思えてしまうはずです。
「モチベーションのクラウディングアウト」が発生して、金銭的なモチベーションが非金銭的なモチベーションを排除してしまいます。
つまり従業員たちはボーナスに直結することには一生懸命になるかもしれませんが、一方でボーナスに直結しないことには無関心になっていきます。
たとえば新入社員を育ていることや、会社の雰囲気や評判を良くするようなことには目も向けなくなります。
そしてついには「自分はこんなにがんばったのにボーナスが少ない」と嘆くようになり、仕事へのモチベーションはゼロに急降下していきます。
あなたは何らかの報酬のためではなく、自分自身の誇り、義務感、忠誠心、快楽などの「内発的インセンティブ」のためだけに一生懸命に働く人をどれくらい知っているでしょうか?
たとえばあなたが経営している会社が、従業員たちが自分の関心や意欲から進んで仕事をこなすような会社であるのならば、「内発的インセンティブ」のためだけに一生懸命に働く人はいるでしょう。
“楽しく努力してモチベーションを上げるための脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考努力したくない、苦手、続かない…そんな人が楽しく努力してモチベーションを上げるための脳科学
努力したくない、苦手、続かない…そんな人でも努力できるようになりますか? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として20 ...
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しかしそのような人はごく限られた人たちだけで、ほとんどの人はボーナス目当てで仕事をしているはずです。
もし今後あなたが会社を立ち上げようと考えていて、今まさに従業員を探しているというのであれば、多額のボーナスをちらつかせるよりも、あなたの会社で働くことの誇りや喜びを伝えて共感してくれる人を雇うべきでしょう。
時々子どもをお金で釣ろうと考える人がいます。
風呂掃除をしたら100円
食器を洗ったら100円
買い物に行ってくれたら100円
しかしそのようなことをしていると、もしかしたら
100円くれないと宿題はやらない
100円くれないと早く寝ない
100円くれないと家事は手伝わない
なんて事態が起こるかもしれません。
お金は一時的にはモチベーションを上げるかもしれません。
しかしそれを続けいていると「モチベーションのクラウディングアウト」が起こり、モチベーションは必ず下がっていきます。
“「モチベーションのクラウディングアウト」の脳科学”のまとめ
お金がモチベーションを下げる「モチベーションのクラウディングアウト」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- モチベーションには、お金によって生み出される「外発的モチベーション」と、誇りや喜びなどによって生み出される「内発的モチベーション」があります。
- お金が登場すると、「内発的モチベーション」が排除される「モチベーションのクラウディングアウト」が発生します。
- 「モチベーションのクラウディングアウト」が起こると、お金に関係ないことには見向きもしなくなり、最終的にモチベーションはゼロになってしまいます。
- お金に釣られて「モチベーションのクラウディングアウト」を起こさないようにご用心ください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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