銭湯でよく見かける電気風呂って何なのでしょう?
電気風呂にはどのような効果があって、どのようなことに注意すべきなのでしょうか?
電気風呂は脳にどのような影響を与えるのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
電気風呂を脳科学で説き明かします。
銭湯と電気風呂
電気風呂の脳科学
- 電気風呂とは、浴槽内に電極が設置され、低電圧の電流が流れているお風呂のことです。
- 電気風呂の発祥の地はアメリカで、日本で初めて登場したのは昭和8年(1933年)です。
- 電気風呂の主な効果は、血行促進、疲労回復、筋肉のリラクゼーションです。
- 電気風呂に長く入っていると、筋肉が破壊され横紋筋融解症を発症する可能性があるので注意が必要です。
- 電気風呂に特化した脳への効果で科学的に証明されているものはほぼないと言っていいでしょう。
- 電気風呂を楽しむことは良いですが、脳への過度な期待は避けるべきでしょう。
現代の日本では第3次サウナブームによって多くの施設がにぎわっています。
“サウナブームの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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サウナの醍醐味(だいごみ)は何と言っても、サウナトランス=「サウナでととのう」でしょう。
温かいサウナと冷たい水風呂、休息タイムを繰り返す温冷交代浴では徐々に体の感覚が鋭敏になってトランスしたような状態になっていきます。
トランス状態になると、頭からつま先までがジーンとしびれてきてディープリラックスの状態になり、得も言われぬ多幸感が訪れます。
これがいわゆるサウナトランスであり、そして「サウナでととのう」の状態です。
”サウナでととのうの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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サウナ―達は至高のサウナトランスを味わうためにサウナに通うわけです。
そしてサウナでととのった後の〆は電気風呂でゆっくり疲れた体をほぐす…なんて人も少なくないのではないでしょうか。
多くの銭湯で電気風呂を見かけますが、中には「ビリビリして痛いし怖い…」など思っている人もいるでしょう。
しかし、最近電気風呂は結構人気があり、時には電気風呂待ちも発生するほどです。
では電気風呂にはどのような効果があって、どのようなことに気をつける必要があるのでしょう?
また電気風呂は体だけではなく脳にも影響があるのでしょうか?
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電気風呂とは?
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銭湯に行くとよく見かけるビリビリするお風呂です。
電気風呂は、電源装置から電極板へ配線がされていて、浴槽内に電極が設置され、低電圧の電流が流れています。
浴槽内に設置された電極板間に微弱な電流を流すことで、全身に電気の刺激を与えます。
電気風呂に入ると、体内に電流が流れてイオンを調節するためビリビリするわけです。
電気風呂にはいろいろは種類があり、ベーシックタイプ、マッサージタイプ、タタキタイプ、マルチタイプ(前述3つを組み合わせたもの)などがありますが、最近では浴槽全体に電流が流れる「マルチタイプ」が主流となっているようです。
電気風呂の歴史
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電気風呂の起源は意外にも日本ではなく、アメリカにあります。
アメリカの医師であるジョン・ハーヴェイ・ケロッグ博士(コーンフレークで有名なケロッグ社の創設者)によって、1876年にサナトリウムでホリスティック療法の一環として電気風呂は開発されました。
日本で初めて電気風呂が設置されたのは、昭和8年(1933年)のことです。
京都府の船岡温泉に最初の電気風呂が導入されました。
これは、日本の銭湯文化に新しい要素を加える革新的な出来事でした。
1950年代から1960年代にかけて、日本の経済成長とともに、銭湯や公衆浴場の設備も進化していきました。
この時期に、電気風呂は徐々に人気を集め、より多くの施設に導入されるようになりました。
1970年代から1980年代にかけて、電気風呂の技術は大きく進歩しました。
安全性の向上や、より効果的な電流の制御方法が開発され、利用者にとってより快適で安全な入浴体験が可能になりました。
現在の電気風呂は、かつてのシンプルな設計から進化し、多様な機能を備えるようになりました。
マッサージ効果を高めたタイプや、電流の強さを調整できるタイプなど、様々な種類の電気風呂が開発されています。
電気風呂の歴史は、日本の入浴文化の変遷と技術の進歩を反映しています。
今日では、多くのスーパー銭湯や温浴施設で人気のある設備として定着し、健康増進や疲労回復を目的とする多くの人々に利用されています。
ちなみに、電気風呂が普及した背景には、以下のような要因があります。
戦後の銭湯の差別化戦略
第二次世界大戦後、自宅に風呂を持つ家庭が増加し、銭湯は経営的な打撃を受けました。
そのため、銭湯は他の施設との差別化を図るために、電気風呂を競って導入するようになりました。
健康効果への注目
電気風呂の血行促進効果や疲労回復効果が認識され、健康増進を目的とする人々の関心を集めました。
技術の進歩
1970年代から1980年代にかけて、電気風呂の技術が大きく進歩し、安全性の向上や効果的な電流制御方法が開発されました。
これらによって、電気風呂はより快適で安全な入浴体験が可能になりました。
日本の電気風呂
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小西電機株式会社(大阪府東大阪市)
機種名:らくらく
小西電機株式会社は、1974年に通商産業省(当時)から日本で初めて電気風呂装置製造認可を取得し、製造・販売を開始しました。
有限会社水野通信工業(愛知県名古屋市)
機種名:揉兵衛(じゅうべえ)
水野通信工業は、電子マッサージ風呂「三代目揉兵衛」を製造・販売しています。
この製品は、単なる電気刺激だけでなく、「おす」「もむ」「たたく」の3つの刺激を提供する革新的な電気マッサージ風呂です。
電気風呂の効果と注意点
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電気風呂にはどのような効果が期待できるのでしょうか?
またどのような点に注意が必要なのでしょうか?
電気風呂の効果
電気風呂の主な効果には以下のようなものがあります。
血行促進
電気風呂の電流刺激により筋肉が収縮と弛緩を繰り返し、血液循環が促進されます。
これにより、酸素や栄養が体中にスムーズに運ばれます。
疲労回復
血行促進により新陳代謝が活発になり、疲労物質の排出を助けます。
筋肉のリラクゼーション
電気刺激により筋肉の緊張がほぐれ、全身のリラックス効果が得られます。
また、血行促進効果により、肩こりや腰痛の緩和が期待できます。
その結果、関節痛や神経痛の緩和の効果も期待できます。
冷え性の改善
体が内側から温まるため、冷え性の改善に効果的です。
ストレス軽減
心地よい刺激により自律神経のバランスが整います。
むくみの解消
血行改善により老廃物の排出が促進されます。
美容効果
肌のターンオーバーが整い、くすみが軽減され、透明感のある肌が期待できます。
また、新陳代謝の向上により、ハリやツヤのある健康的な肌を保つことができます。
ちなみに、電気風呂で筋肉をトレーニングする効果を期待する人が稀にいますが、これには科学的根拠はありません。
電気風呂では、低周波の電流が流れることで筋肉に刺激を与えますが、これはEMS(電気筋肉刺激)とは異なる周波数で行われます。
そのため、筋力トレーニングで得られるような筋肉の成長や強化の効果は期待できません。
電気風呂での電気刺激は、筋肉トレーニングというよりも、むしろ筋肉の回復や緊張緩和に寄与します。
ですから、電気風呂は筋力アップを目指すものではなく、むしろ日常的な疲労やストレスの軽減、全身のリラックスを促進するものと考えた方が良いでしょう。
電気風呂の注意点
電気風呂の注意点にはさまざまなものがありますが、もっとも注意すべきは“横紋筋融解症”です。
長時間の入浴により筋肉が破壊され血液中のクレアチンキナーゼ値が上昇します。
クレアチンキナーゼとは、生体内で重要な役割を果たす酵素で、主に骨格筋、心筋、脳などの組織に存在し、エネルギー代謝に関与しています。
クレアチンキナーゼは筋肉や心臓の損傷を示す重要な指標として使用されていて、クレアチンキナーゼが上昇すると重症の場合は腎機能障害を引き起こす可能性があります。
横紋筋融解症はさまざまな状況で発生します。
たとえば、交通事故などによる外傷、過度の運動、薬物。毒物の影響、感染症、極端な体温変化、長期の不動状態などです。
電気風呂では筋肉に電流が流れ、筋肉の緊張がほぐれリラックス効果が期待できますが、筋肉がほぐれすぎると、筋肉の損傷が発生し、クレアチンキナーゼが上昇、そして最悪の場合腎臓の機能が低下する場合があるので注意が必要です。
そのため、電気風呂の長時間の入浴は避け、3分程度を間隔を空けて2〜3回繰り返すのが良いとされています。
電気風呂は適切に利用すれば血行促進や疲労回復などさまざまな効果が期待できますが、過度の利用はとても危険ですので、適切な利用方法を守ることをお勧めいたします。
電気風呂を脳科学で探る
電気風呂は、その独特な刺激と効果で多くの人々に親しまれています。
そしてその効果を脳科学的な観点から解析してさまざまなことが言われています。
しかし、これらは本当なのでしょうか?
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脳の活性化
電気風呂の刺激は、脳の活動に直接的な影響を与えるという報告があります。
うつ病治療に用いられる電気けいれん療法(ECT)と同様のメカニズムで、電気風呂の刺激が脳波の周波数を変化させ、これにより低下していた脳の機能が正常化され、認知機能や気分の改善につながる可能性があるというものです。
はたしてこれは本当なのでしょうか?
電気風呂の主な効果は血行促進や筋肉のリラックスです。
しかし、電気風呂が直接脳の活性化…つまり脳波に影響を与えるという確固たる科学的証拠はありません。
ただし、入浴と脳波の関係については、いくつかの知見が示されています。
大きな浴槽(銭湯など)での入浴は、小さな浴槽に比べてアルファ波の発生が3〜6倍多くなることが実験で示されています。
アルファ波は、リラックスした状態で優勢になる脳波です。
また、入浴自体が心身をリラックスさせ、その結果としてアルファ波が増加する可能性があります。
ある研究では、41-42°Cの高温入浴中に脳波のβ-1帯域(13-20Hz)の活動が増加したことが報告されています。
しかし、これらの知見はあくまでも温かい湯につかることによる効果であり、電気風呂の効果ではありません。
神経系への影響
電気風呂の刺激は、痛みを感じる神経、特に細いC線維の閾値を上昇させ、痛みの感覚を軽減させる効果があるという報告があります。
これは温泉療法と同様の効果であり、慢性的な痛みの緩和に寄与する可能性があるというものです。
はたしてこれは本当なのでしょうか?
この報告は部分的に正確と言えますが、電気風呂と温泉療法を直接的に同等視することには注意が必要です。
痛みを感じる神経には、主に2種類あります。
太いA線維と細いC線維です。
C線維は主に鈍い痛みや温度感覚を伝達しますが、温泉療法では、このC線維の閾値が上昇し、痛みの感覚が軽減されることが知られています。
この効果は主に温熱によるものです。
一方で、電気風呂は主に血行促進や筋肉のリラックス効果があり、これにより間接的に痛みの緩和につながる可能性があります。
しかし、電気刺激が直接C線維の閾値を上昇させるという明確な科学的証拠はありません。
電気風呂の血行促進効果により、筋肉の緊張が緩和され、結果として慢性的な痛みが軽減される可能性はあります。
ただし、これは温熱効果と電気刺激の複合的な結果であり、電気刺激単独の効果とは言えません。
結論として、電気風呂は温熱効果と電気刺激の組み合わせにより、痛みの緩和に寄与する可能性はありますが、その効果のメカニズムは温泉療法とは異なります。
血行促進と脳機能
電気風呂による血行促進効果は、脳への血流量増加につながるという報告があります。
脳への血流増加は、酸素や栄養素の供給を促進し、脳機能の向上…記憶力や集中力の向上につながる可能性があるというものです。
はたしてこれは本当なのでしょうか?
この報告は、電気風呂の効果を過大に評価していると言えます。
電気風呂の主な効果は血行促進です。
血行促進により、体全体の循環が改善されることは事実です。
しかし、これが直接的に脳への血流量増加や脳機能の向上につながるという明確な科学的証拠はありません。
また、電気風呂が直接的に脳機能を向上させるという科学的根拠も現時点で不十分です。
しかし、全身の血行が良くなることで、間接的にリラックス効果を生み出し、その結果として、ストレス軽減や集中力が向上する可能性は考えられるでしょう。
また睡眠の質の向上によって脳機能が向上する可能性はあります。
結論として、電気風呂は血行促進効果があり、全身の健康に寄与する可能性はありますが、直接的に脳機能を向上させるという主張には科学的根拠が不足しています。
ストレス軽減と脳の可塑性
電気風呂によるリラックス効果は、ストレスホルモンの減少をもたらし、脳の可塑性を高めるという報告があります。
脳の可塑性によって新しい神経回路の形成を促進し、学習能力や適応能力の向上につながる可能性があるというものです。
はたしてこれは本当なのでしょうか?
この報告は科学的根拠が不十分であり、電気風呂の効果を過大評価している可能性があります。
電気風呂には血行促進、疲労回復の効果はありますが、リラックス効果はあくまでも入浴による効果であり、電気風呂に限った効果ではありません。
脳の可塑性や神経回路の形成に関する直接的な影響は、現時点で科学的に証明されていません。
また、学習能力や適応能力の向上についても、電気風呂との直接的な関連を示す研究結果はありません。
結論として、電気風呂には血行促進や疲労回復の効果が期待できますが、脳機能や学習能力への直接的な影響を主張するには科学的根拠が不足しています。
HSP70タンパク質の産生
温熱刺激によって誘導されるHSP70(ヒートショック・プロテイン70)タンパク質は、電気風呂でも産生されるという報告があります。
このタンパク質は疲労回復や健康増進に寄与し、脳細胞の保護にも関与する可能性があるというものです。
はたしてこれは本当なのでしょうか?
この報告には科学的根拠が不十分な部分があり、電気風呂の効果を過大評価している可能性があります。
HSP70は、熱などのストレスに応答して細胞内で産生されるタンパク質です。
主な機能は、細胞の損傷を防ぐ、ストレスに対抗し損傷を受けた細胞を修復する、自律神経やホルモンの調整に関与する、などがあるとされています。
40°Cの湯に20分つかると、2日後の血中HSP70が有意に増加することが確認されています。
しかし、これは一般的な入浴による効果であり、電気風呂に特化したものではありません。
結論として、電気風呂が直接的にHSP70の産生を促進するという科学的証拠は現時点で証明されていません。
ここまで読んでみておわかりいただけたと思いますが、現在まで報告されている電気風呂特有の脳への効果のほとんどすべてにおいて科学的根拠は極めて乏しく、絶対的な効果とは言えません。
ですから、電気風呂を楽しむことは良いですが、脳への過度な期待は避けるべきと言えるでしょう。
しかし今後の研究次第ではこれらの効果が科学的に証明される日が来るかもしれませんので、すべてを否定しているわけではありません。
今後の研究により、電気風呂が脳に与える影響が解明されていくことに期待しましょう。
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“電気風呂の脳科学”のまとめ
電気風呂を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 電気風呂とは、浴槽内に電極が設置され、低電圧の電流が流れているお風呂のことです。
- 電気風呂の発祥の地はアメリカで、日本で初めて登場したのは昭和8年(1933年)です。
- 電気風呂の主な効果は、血行促進、疲労回復、筋肉のリラクゼーションです。
- 電気風呂に長く入っていると、筋肉が破壊され横紋筋融解症を発症する可能性があるので注意が必要です。
- 電気風呂に特化した脳への効果で科学的に証明されているものはほぼないと言っていいでしょう。
- 電気風呂を楽しむことは良いですが、脳への過度な期待は避けるべきでしょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
最後にポチっとよろしくお願いします。