サウナに入ると睡眠の質が改善するって本当なのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
サウナと睡眠の関係を脳科学で説き明かします。
サウナと睡眠の関係
サウナと睡眠の関係の脳科学
- 睡眠はいまだ解明されきっていない謎で未知の領域です。
- 睡眠の中でもノンレム睡眠の時間は、脳はデータ整理、知識の定着、記憶の書き換えなどのメンテナンスを行っています。
- 脳に睡眠をうながすのは睡眠物質です。
- サウナに入った後は、深部体温と末梢体温の差であるDPGによって睡眠物質が刺激されて質の良い睡眠をとることができます。
- サウナに入った後は、眠りはじめの「黄金の90分」を熟睡することが可能となり睡眠の質を上げることができます。
- サウナで自律神経を鍛えて、ぜひ良質な睡眠を体感してみてください。
現代の日本では第3次サウナブームによって多くの施設がにぎわっています。
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サウナの醍醐味(だいごみ)は何と言っても、サウナトランス=「サウナでととのう」でしょう。
温かいサウナと冷たい水風呂、休息タイムを繰り返す温冷交代浴では徐々に体の感覚が鋭敏になってトランスしたような状態になっていきます。
トランス状態になると、頭からつま先までがジーンとしびれてきてディープリラックスの状態になり、得も言われぬ多幸感が訪れます。
これがいわゆるサウナトランスであり、そして「サウナでととのう」の状態です。
”サウナでととのうの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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サウナ―達は至高のサウナトランスを味わうためにサウナに通うわけです。
なんて人も少ないくないでしょう。
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サウナに入ったあとはよく眠れる、寝つきが良くなった、ぐっすり眠れて夜中に起きることが少なくなった
そのような声をよく聞きます。
では実際にサウナによって睡眠の質は改善するのでしょうか?
ただの気のせいなのでしょうか?
脳と睡眠の関係
まずは睡眠とは何なのかについて考えてみましょう。
睡眠の謎
私たちは生まれてから毎日毎晩寝ています。
たまに徹夜ということがあるかもしれませんが、1日24時間のおよそ3分の1を睡眠に費やしているといっていいでしょう。
では、なぜ必ず寝るのでしょうか?
なぜ眠くなるのでしょうか?
実は睡眠はいまだ100%完璧には解明されていない謎の領域とされています。
「よく寝たなあ」と言われても、その人が本当にぐっすりよく眠れたのか、第三者が客観的に判断するのは困難です。
また、眠っている間は「自分が眠っている」という自覚がありませ ん。
起きてはじめて「自分は今まで眠っていたのだ」とわかります。
ですからこれだけ時代が進歩しても、睡眠はいまだに解明されきらず謎が残っている不思議な領域なのです。
しかし脳から生じる電気活動を記録する脳波の登場によって睡眠の謎はかなり解明されました。
今ではよく知られていますが、睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠の2種類で構成されていることがわかっています。
“脳と睡眠”についてはこちらの記事もご参照ください。
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レム睡眠では、眠っている間も脳の一部が活動しています。
一方で、レム睡眠以外の睡眠はノンレム睡眠と呼ばれ、脳の活動は著しく低下 します。
よく誤解されがちですが、この2種類の睡眠の違いは、睡眠の深さにあるのではなく睡眠の質にあります。
短時間の仮眠でもノンレム睡眠が主体であれば、頭がスッキリするので、脳疲労の回復には有効とされています。
睡眠中の脳活動
睡眠中も脳からの指令によって、わたしたちは呼吸をして心臓を動かしています。
つまり脳は24時間休まずに働き続けています。
ですから脳は膨大なエネルギーを消費しています。
栄養学的には摂取する全エネルギーの約24%を脳だけで消費していると言われています。
そこでうまくエネルギーを節約するために睡眠システムが出来上がったのではないかと考えられています。
睡眠中に省エネモードになるノンレム睡眠の時は、当然外からの情報が入ってこないように視覚も聴覚もシャットアウトしています。
しかし脳は休んでいてまったく働いていないわけではありません。
ノンレム睡眠中に脳は、起きている間に入ってきた情報を整理して取捨選択して、自分に必要な情報だけを選択して記憶として保存し不要なものは消去しています。
大量のデータが脳に流入してくる覚醒中にはこれらの作業を行うことは難しいため、データ整理を行うには睡眠の時間が必要なわけです。
睡眠中に脳の中でデータの整理・選択と保存・消去が行われるからこそ、知識が定着したり、ストレスが取り除かれたりするのです。
“睡眠の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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それ以外にも睡眠中に脳はさまざまな活動をしています。
たとえば、認知症の発生要因となるタンパク質は脳が活動している時にどんどん産生されて蓄積していきます。
このタンパク質は睡眠中に覚醒時の倍以上のスピードで排出されます。
このように睡眠中だからこそできる脳活動によって脳疲労は回復するわけです。
睡眠物質と脳活動の関係
それに関係しているのが睡眠物質です。
睡眠物質は脳内で産生され、覚醒時にどんどん蓄積していきます。
ですから起き続けていると必ず眠くなるわけです。
そして睡眠をとると、睡眠物質の産生は低下して逆にどんどん排出されていきます。
ですからある程度睡眠をとると、脳内の睡眠物質が減少して覚醒するわけです。
つまり脳内で睡眠物質がたくさん産生されたり、睡眠物質と似た働きを持つ物質を摂取したりすれば、睡眠が促進されて眠くなり、睡眠の質が向上するわけです。
現在、睡眠物質と似た成分を持ち、脳の睡眠中枢を活性化させノンレム睡眠を誘発させる睡眠改善サプリメントが数多く発売されています。
逆に睡眠物質の働きを低下させることが証明されているのがカフェインです。
カフェインを含むコーヒーやお茶などをたくさん飲むと眠れなくなるのはこのためです。
睡眠をとるといってもただ眠ればいいというものではありません。
質の良い睡眠をとることによって初めて脳疲労は回復するのです。
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最初にも言いましたが、睡眠に対する感覚はあくまでも睡眠をとる本人の主観によるものです。
このような感覚を科学的、客観的に証明することはなかなか難しいことです。
しかしだからこそ、現在販売されている睡眠改善サプリメントにおいてもさらなる科学的検証が必要とされています。
脳とサウナと睡眠の関係
ここまでは睡眠の謎とメカニズムについて説明してきました。
では脳とサウナと睡眠の関係を探ることで、「サウナに入ると睡眠の質が改善するって本当?」の質問に答えていきましょう。
サウナに入った後に眠くなる一般的な理由
サウナの効果で最も代表的なのは、運動後に得られるのと同じ爽快感、リフレッシュ効果です。
サウナに入ることによって心臓にかかる負荷は、中程度の強度のエアロバイクをこいだ人にかかる負荷に相当し、サウナには軽いトレーニングと同程度の心臓や血管を鍛える効果があると報告されています。
サウナが他の運動と異なるのは、1時間程度というごく短時間の間に運動と同様の効果を得られる点と、ただサウナや水風呂に入って休憩するだけでよいので、特別な身体能力や技能や努力を必要としないことです。
サウナでは実際に筋肉を使うわけではないので疲労物質は溜まりませんが、脳は「肉体がものすごく疲れている」と勘違いを起こします。
つまりサウナに入ることは、脳に誤解させるだけの肉体的負荷が積み重ねられているということです。
ですからサウナに入った後は、脳から「体を休めなさい」というシグナルが出て、たっぷり運動した時のようによく眠れるわけです。
サウナは、汗をかく機会の少ない現代人がしっかり汗をかいて身体の調節機能を保つための運動以外の唯一の方法であるかもしれません。
またサウナに入ることで体内ではHSP(ヒートショックプロテイン)が分泌されます。
HPSとは、細胞の損傷を防ぐタンパク質一群のことで、ストレスに立ち向かい損傷を受けた細胞をストレスがかかる前の状態に修復、整備する働きを持っています。
そしてHPSはインシュリンというホルモンの感受性を高めるので、血糖値を下げて食事による糖分の吸収を促進し、食欲を増進させます。
”サウナ飯の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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そしてサ飯を食べると血糖値が上がり睡眠が誘発されます。
サウナに入らなかった日の夜は、脳や体の疲労を回復させる深い睡眠の割合が全体の14%程度だったのに対して、サウナに入った日の夜は約28%と、全体に占める深い睡眠の割合が2倍近くになったという報告もあります。
サウナに入った後はあまりによく眠れてしまうので、帰りの電車を乗り過ごしてしまうこともしばしばで、しかも深い眠りなのでなかなか起きれない…なんてこともありますので注意が必要ですね。
サウナに入った後に眠くなる脳科学的な理由
睡眠で重要なのは睡眠時間ではなく、眠りはじめの90分(睡眠第1周期)の睡眠の質と言われています。
この「黄金の90分」と呼ばれる時間にいかに良質な深い睡眠をとるかで睡眠の質は大きく変わってきます。
人は眠るとまずノンレム睡眠に入ります。
そしてノンレム睡眠は90分続きます。
その後に体が眠るレム睡眠に変わります。
その後またノンレム睡眠になりレム睡眠に変わる、これを一晩にだいたい3~4回繰り返します。
ですから「黄金の90分」は先ほど説明した脳疲労の回復にとって大切なノンレム睡眠の最初の時間なのです。
サウナに入った後は、布団に入ってから眠りに入るまでの時間が短くなり、さらに睡眠の最初の「黄金の90分」の熟睡時間と熟睡度が向上すると報告されています。
そのためしっかりとしたノンレム睡眠をとることができ、睡眠の質が改善するわけです。
その理由は先ほど説明した睡眠物質にあります。
そして睡眠物質を刺激するのがDPG(distal-proximal skin temperature gradient)です。
DPGとは、体の中心部の深部体温と手足の先などの末梢体温の差のことです。
通常は深部体温は末梢体温よりも0.5~1℃ほど高く、37℃前後に保たれています。
この温度が、体内で生命維持や生存活動のための内臓の働きを最も活発にさせる温度とされています。
ところが体を水平に横にした寝た状態になると、末梢体温が深部体温よりも高くなります。
そして末梢体温と深部体温の差が大きいほど睡眠物質は刺激され眠くなることが報告されています。
サウナ室は100度近い高温なので、交感神経が活性化して体の中心まで温まります。
ちなみに交感神経は自律神経の1つで、自律神経は交感神経と副交感神経の2つの神経回路から成り立っています。
一般的に交感神経は「闘争と逃走の神経」と呼ばれていて、敵と闘い狩猟をする、敵から逃げる、といった緊張時に働きます。
一方で副交感神経は寝る、食べる、休息する、といったリラックスする時に働きます。
“自律神経と脳の関係”についてはこちらの記事もご参照ください。
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サウナ室を出て水風呂と外気浴では、自律神経が切り替わり、今度は副交感神経が活性化し、末梢の血流が増加して温まり、手足の先端はぽかぽかした状態が続きます。
一方、サウナによって上がった体の中心部の体温は末梢に熱を奪われていくため徐々に低下します。
つまり、サウナ、水風呂、外気浴によって「体の中心部の深部体温は低下して末梢体温は温かい」という状態=DPGが拡大した状態になります。
すると睡眠物質が活性化して睡眠のスイッチが入るのです。
ノンレム睡眠は副交感神経が優位に働いている状態です。
起きている状態では基本的に交感神経は優位に働いている状態なので、睡眠をとるためには交感神経から副交感神経への切り替えが大切になります。
自律神経をうまく切り替えることができないと質の高い睡眠をとることができません。
そのため推奨されるのがサウナに入った後、2時間後に寝ることです。
サウナ後2時間経過するころがもっとも体の中心部の深部体温が低下し手足の先などの末梢体温が上昇しDPGが拡大した状態となります。
サウナによって自律神経をうまく切り替えることで、寝入りばなの「黄金の90分」を熟睡することが可能となり、質の高い睡眠をとることができるようになるのです。
サウナに入って睡眠の質を改善しよう!
睡眠はいわば脳のメンテナンスの時間です。
言うならば脳の大掃除の時間であり、睡眠をおろそかにすると脳に老廃物がどんどんたまってしまい、ついには脳の働きが低下し物忘れや認知症の原因になります。
ですからいかに質の高い睡眠をとるかが大切なのです。
睡眠と言うと体の疲労がとれているかどうかに注意が集まりがちです。
しかし睡眠が脳疲労を回復させることは数々の研究からも証明されていて、「グリンパティック・システム」とも呼ばれています。
起きた時に「頭がスッキリしてさえている」と感じた時は、質の高い睡眠がとれた何よりの証拠です。
忙しい現代において、時には睡眠時間を削ってまで仕事や勉強に打ち込んでしまうのは日本人の悪いクセとも言えるでしょう。
睡眠を1日に8時間とると考えると、人生の1/3は睡眠に費やしていることになります。
それだけの時間を睡眠に使うのにも関わらず、睡眠に関心を持っている人はあまりいないのが現実です。
例えば、「睡眠中に靴下をはく」という行為。
結構実践されている方も多いかもしれません。
しかし睡眠中に足から熱を放散させて深部体温を下げるというDPGの観点から考えると睡眠中に靴下をはくことはお勧めできません。
正しい知識なしに日常的に行っていることが、逆に睡眠の妨げになっていることもあるので注意が必要です。
「サウナに入ると睡眠の質が改善する」…これは正しい知識でありエビデンスとして証明された事実です。
しかしどうしてサウナに入ると睡眠の質が改善するのかを知っているのと知らないのとでは大違いです。
睡眠域は最初に記したようにまだまだ未知のことが多い謎の領域です。
しかしだからこそこれから、今後新しい知識がどんどん明らかになる可能性がある魅力あふれる領域とも言えます。
「体が疲れているから寝よう」と考えていたのに加え、「脳が疲れているから寝よう」となる…体だけでなく脳もしっかりと休めてメンテナンスする「脳眠」を意識してみてください。
“サウナと睡眠の関係の脳科学”のまとめ
サウナと睡眠の関係を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 睡眠はいまだ解明されきっていない謎で未知の領域です。
- 睡眠の中でもノンレム睡眠の時間は、脳はデータ整理、知識の定着、記憶の書き換えなどのメンテナンスを行っています。
- 脳に睡眠をうながすのは睡眠物質です。
- サウナに入った後は、深部体温と末梢体温の差であるDPGによって睡眠物質が刺激されて質の良い睡眠をとることができます。
- サウナに入った後は、眠りはじめの「黄金の90分」を熟睡することが可能となり睡眠の質を上げることができます。
- サウナで自律神経を鍛えて、ぜひ良質な睡眠を体感してみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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