あなたは自分よりも優れているライバルを応援できますか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 自分よりも優れているライバルを応援することが得であることを理解するために「社会的比較バイアス」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
ライバルを嫌う「社会的比較バイアス」
「社会的比較バイアス」の脳科学
- 脳は自分よりも優れているライバルに対して「社会的比較バイアス」を働かせて不安や嫉妬を抱きます。
- 日常生活においても知らず知らずのうちに「社会的比較バイアス」によって他人を応援しようとはしなくなります。
- 「社会的比較バイアス」にとらわれライバルを敵視していても何もいいことは起こりません。
- 自分よりも優れているライバルを応援することは長い目で見れば自分にとっては得なことです。
- あなたも悪あがきはせずぜひライバルを応援してみてください。
社会的比較バイアス
『社会的比較バイアス』
自分よりも肉体的または精神的に優れているとみなされている人に対しては嫌悪感や競争力を抱きやすくなる傾向。
現代社会に生きる大多数の人々は自分と他人を比較して“自分がどれだけうまく生きているか”に基づいて気分や感情といったメンタルを維持して生きています。
“比較癖の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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自分では気づいていない人も多いかもしれませんが、ほとんどの人は無意識的に他人と比較して自分が優れていることを探し出して安心感を得ます。
もしそれを揺るがすような存在があらわれると、途端に不安になりメンタルが崩壊していきます。
メンタルが崩壊する過程で最初に起こるのは不安です。
しかし時にその感情は怒り、恨み、嫉妬などライバルを攻撃するような感情に変わっていきます。
これこそが「社会的比較バイアス」の根源になっています。
自分よりも優位に立つかもしれない人、つまりライバルが現れるとその存在を嫌がる傾向が「社会的比較バイアス」です。
能力のある人を嫌ったところで長い目で見れば得になることなど何もありません。
そんなことは誰もが知っていることでしょう。
しかし「社会的比較バイアス」はどのような世界にも存在します。
「社会的比較バイアス」はどこにでも存在する
「社会的比較バイアス」と言われてもまだピンとこない人もいるでしょう。
しかし知らず知らずのうちに「社会的比較バイアス」はわたしたちの生活のあらゆるものに関わっています。
現代社会においてSNSは重要な情報源であり世界中の人と繋がることができます。
多くの人はSNSを通じて私生活を公開し、誰もが他人の日常生活を覗き見ることができます。
最初は“いいね”のボタンを押して多くの人と繋がれたことに喜びを感じます。
しかし他人の成功や新しい持ち物などを自慢している姿を見ていると、だんだん気分が滅入ってきて自尊心が低下してきます。
心理的に多くの人は現実の画像を加工したり編集したりしてフィルターをかけることでライバルと差があることを誇張しようとします。
するとそれを見た人は自分より優れている存在に対して敵意を抱くようになります。
するとそれまで楽しかったSNSが見るのもつらくなり、そしてついには攻撃的なコメントをするようになることもあるかもしれません。
テストの前にはよく次のような会話が聞こえてきます。
ノートを貸すことは自分にとっては何の得もありません。
それどころか場合によってはノートを貸した友人が自分よりもテストでいい点数をとって自分の順位が下がるかもしれません。
わざわざライバルに手を貸す必要がどこにあるのでしょう?
研究をしていると誰もが自分の専門分野の有名な雑誌にできるだけ多くの論文を発表することを目標にしています。
だんだん名前が知られるようになると雑誌社から他の研究者の論文の評価を依頼されるようになります。
そんな時に若い研究者がその分野の常識を覆(くつがえ)すような画期的な研究をして論文を執筆したとします。
そしてその論文を評価しなくてはならなくなった時、あなたならどうするでしょうか?
それまであぐらをかいていた研究者たちの地位を失墜(しっつい)させるような世界を揺るがす論文です。
もしその論文をことのほか厳しく評価して非難するようなことがあれば、それは「社会的比較バイアス」の影響と言えるでしょう。
「社会的比較バイアス」は実は逆効果
「社会的比較バイアス」は一見すると理解できるように思えてしまいます。
自分よりも優位に立つかもしれないライバルに手を貸すなどもってのほかで、嫌うことは当たり前。
短期的に見れば確かにそうかもしれません。
しかし長い目で見れば「社会的比較バイアス」は逆効果でしかありません。
若い研究者が書いた優秀な論文が世に出ることを妨害すれば自分の地位は一時的に保たれるかもしれません。
しかし若く才能のある研究者はきっとその後他の研究グループに入り自分の能力を別の研究のために活かすはずで、「社会的比較バイアス」はただそのことを後押ししただけにすぎません。
Appleでチーフ・エバンジェリストを務め、現在はオンラインデザイン作成ツールである“Canva”のチーフ・エバンジェリストであるガイ・カワサキ氏は次のようなことを言っています。
Aクラスの人はAプラスの人を採用する。
つまり自分よりももっと優秀な人を雇おうとする。
しかしBクラスの人は自分の部下としてCクラスの人を採用する。
そのCクラスの人は自分の部下にDクラスの人を採用し、そのDクラスの人は自分の部下にEクラスの人を採用する。
そうすると結局その会社は数年後にはZクラスの社員ばかりになってしまう。
人を雇う時には自分よりも優秀な人を採用すべきで、そうしなければ最終的にはあなたの会社には能力の低い人しかいなくなってしまいます。
しかもそのような人たちの脳には総じて「ダニング=クルーガー効果」が働いています。
「ダニング=クルーガー効果」とは知識のない人ほど自分には能力があると過大評価する傾向です。
“ダニング=クルーガー効果の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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ダニング=クルーガー効果が生じる最大の理由は自分の能力の程度を認識する“メタ認知”ができていないことです。
自分のことさえもよく分かっていないのに、“ライバルだから…”という理由だけで他人を非難することがいかに愚かなことかお分かりいただけるでしょう。
自分よりも優れているライバルを応援することが得である理由
微分積分学、光学、万有引力の三大業績で有名なアイザック・ニュートンは余暇を過ごしていた1年半のあいだにこれらの研究を行いました。
そのためこの期間は“驚異の諸年”や“創造的休暇”と呼ばれています。
その研究成果を当時の大学教授に見せると、教授は自らの職を辞して教え子であるニュートンを後任の教授に指名しました。
しかも躊躇(ちゅうちょ)することなく即座に決断しました。
「社会的比較バイアス」を無視したこの教授の行動こそが後の世にニュートンを有名にした要因の一つになっていることは間違いないでしょう。
みなさんは自分より適任者がいたからという理由で教授が自ら進んで辞職して後進に教授の席を明け渡したという話を聞いたことがあるでしょうか?
会社の社員の中に自分よりも経営の素質があるという人を見つけたからといってトップの座を明け渡したCEOの話を聞いたことがあるでしょうか?
きっとそんな話はないはずです。
しかし脳科学的には自分よりも優れた才能を持った人を支援することは自分にとって間違いなくプラスに働きます。
その時点では自分の地位が脅かされて不安や嫉妬が生まれるでしょう。
しかし長い目で見れば優秀なライバルはどのみちあなたを追い越していきます。
だからこそライバルとは良い関係を築き、自分よりも優秀なライバルから少しでも多くのことを学んだ方が得なのです。
あなたも目の前にいるライバルが自分よりも優秀であればそのことに気づいているはずです。
ただ認めたくないだけなのです。
しかし悪あがきをしていても何もいいことはありません。
さっさとライバルの能力を認めて応援してみてください。
そうすれば自分にもきっといいことが降り注いでくるはずです。
“「社会的比較バイアス」の脳科学”のまとめ
自分よりも優れているライバルを応援することが得であることを理解するために「社会的比較バイアス」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 脳は自分よりも優れているライバルに対して「社会的比較バイアス」を働かせて不安や嫉妬を抱きます。
- 日常生活においても知らず知らずのうちに「社会的比較バイアス」によって他人を応援しようとはしなくなります。
- 「社会的比較バイアス」にとらわれライバルを敵視していても何もいいことは起こりません。
- 自分よりも優れているライバルを応援することは長い目で見れば自分にとっては得なことです。
- あなたも悪あがきはせずぜひライバルを応援してみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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