脳にとって温度ってどんな影響があるの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い、勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 脳の温度センサーの意味を脳科学で説き明かします。
ヒトにとっての適温って何度なの?
温度の脳科学
- ヒトにとっての適温は夏は25~28度で冬は18~22度とされています。
- 温度は体の化学反応に関係しており生命活動に影響を与えます。
- ヒトは恒温動物なので温度で寿命は変わりませんが快適に生活するための適温があります。
- 脳の温度センサーの適温は世界共通で13度で体感の適温よりも低めに設定されています。
- あなたも自分の適温を理解しておきましょう。
「温度」と聞いてまず思うのは生きていくための適温です。
適温とは心地よく快適にすごすことのできる温度のことです。
部屋の温度を適切に保つことは生活の質の向上にもつながります。
一般に室温は体温-10度が適正と言われますがそう単純ではありません。
夏と冬では室温の適温は違っていてだいたいの基準が決まっています。
一般的に夏は25~28度で冬は18~22度が適温とされています。
つまり季節に関係なく常に一定の温度に保たれていればいいというわけではありません。
適温には湿度も関係してきます。
湿度にも基準があり一般的に夏は45~60%で冬は55~65%とされています。
このように適温にはある程度の基準はありますがこれらは決して絶対的なものではありません。
人によって快適な温度というものは様々です。
同じ温度でも「暑い」という人もいれば「寒い」という人もいます。
ですから厚着の人もいれば薄着の人もいるのです。
では脳にとって温度はどんな影響を与えているのでしょうか?
酵素の力って知ってる?
ほとんどの方の家には冷蔵庫があります。
職場に冷蔵庫があるなんて方も少なくはないでしょう。
正解です。
ではさらに質問です。
この答えに困る方いらっしゃいますよね…
食品を冷却すると長持ちする理由はずばり「化学反応」にあります。
食べ物が傷んだり腐ったりする原因の多くは食べ物に含まれる酵素や食べ物に付着した微生物の酵素が食べ物を変性させたり毒素を合成するためです。
その結果美味しさが損なわれるだけでなく時に食中毒を引き起こすような劇的な変化を生じさせるのです。
酵素の活性化や化学反応は低温になると起こりづらくなります。
このように言われると
「酵素って食べ物をダメにする悪いヤツ」
なんて誤解されてしまいますよね。
しかしそれは大きな間違いです。
酵素はもともと動物や植物の中にあり生命活動を維持するために存在しています。
わたしたちの命はつまるところ化学反応です。
命は驚くほど精巧で秩序に縛られた尊いものですがミクロの世界では酵素の連鎖反応によって生命は維持されているのです。
ですから酵素が働くなると化学反応が起こらずに生命は絶たれてしまいます。
酵素が働かなくなることは食品の保存にとっては良いことですが生命活動にとっては大きな痛手となります。
このように考えていくと次のような疑問が湧いてきます。
温度によって命の速度は変わるのでしょうか?
温度は寿命に影響している?
温度は動物や植物の寿命に大きく影響しています。
古くは恐竜が地球上から滅亡したのは温度が急に下がったからです。
植物だって気温に大きく影響されますよね。
気温によって育ちやすい植物は大きく違ってきますよね。
実際に温度が動物や植物の命にどのくらい影響を及ぼしているのかを調べた研究をご紹介しましょう。
Bestion E, et al, PLoS Biol 13(10):e1002281. doi: 10.1371/journal.pbio.1002281, 2015
変温動物であるトカゲを選びビニールハウスの中で厳密な温度管理をしながら育てます。
変温動物とは気温によって自分の体温を自由に変化することのできる動物です。
変温動物の代表はトカゲをはじめとする爬虫類です。
ちなみに気温に影響されず自分の体温をある一定の範囲の中で他持つことができる動物は恒温動物と言います。
恒温動物の代表はわれわれ人間をはじめとする哺乳類です。
話がちょっと脱線してしまいました。
研究では冷却するのではなく温めた時の効果を観察しています。
外の気温よりも平均して2度くらい高く保ちながら2年間トカゲを飼育します。
きっと多くの方が予想した通りトカゲは通常よりも早く発育しました。
繁殖期を早く迎えそして平均寿命よりも早く死んでしまいました。
つまり温暖化によって成長と老化が促進され寿命が短くなってしまったのです。
温暖な状態では動物は生き急ぐのです。
安心してください。
ヒトは恒温動物ですから気温が多少変動しても体内の温度はほぼ一定で化学反応の速度が変化することはありません。
それが恒温である所以(ゆえん)なのですから。
ですから気温によってヒトの寿命が劇的に短縮したり延長したりすることはありません。
ではなぜ心地よく快適にすごすことのできる適温なるものが存在するのでしょうか?
そもそも温度によって生命に影響を受けないのであれば気温なんて何度でも良さそうなものですよね。
もう一度聞きます…ヒトにとっての適温って何度なの?
ヒトは恒温動物であり気温に影響されずに生きていくことが可能です。
常夏の熱帯地域であっても地球の果ての極寒の南極大陸であっても生きていけます。
しかしヒトは空調機なるものを発明し冬には部屋を暖め夏には部屋を冷やして過ごします。
自らの寿命には関係なくともヒトには心地よく快適にすごすことのできる適温なるものが存在しているのですからちょっと不思議です。
最初にヒトの適温について解説しましたが改めてもう一度…
ヒトにとっての適温って何度なのでしょうか?
ヒトの適温に関する研究をご紹介しましょう。
ヒトの活動は単純な化学反応とは異なり温度が高いからといって促進されるわけではありません。
研究では世界各国の経済活動のレベルと気温の関係をモデル化しています。
するとヒトの経済活動は平均13度程度がピークでこれより高くても低くても活動が低下することが分かりました。
温度の脳科学-その1
つまりヒトにとっての適温…というよりも脳の温度センサーが心地よく快適と感じる温度は『13度』なのです。
ヒトの脳は気温が30度を超えると活動レベルが急速に低下します。
この傾向は気温に敏感な農作業はもちろん他の産業にもみられ脳の活動が経済活動に大きな影響を与えていることがうかがえます。
また世界のどの地域…それは常夏の熱帯の地域であっても極寒の地域であっても当てはまる普遍的な結果でした。
熱帯の地域の人は暑い環境に強く極寒の地域の人は寒い環境に強い印象がありますがそうでもなさそうです。
体が感じる適温と脳の温度センサーが感じる適温にはかなりの解離があります。
体感の適温よりも脳の温度センサーの適温が低めに設定されているのは寒さで滅びた恐竜たちから学んだ教訓なのかもしれません。
ちなみに気温に敏感なのはヒトのような大型動物よりもむしろネズミのような小型動物です。
体が小さいと体重当たりの体表面積が大きくなるため体温の制御が難しくなるからです。
意外と知られていないかもしれませんが実はネズミは夜行性ではなく昼行性です。
夜行性に見えるのは飼育環境などエサの心配のない場合に限った話です。
より自然な環境のもとでは体温損失の少ない暖かな昼間に主に暗い場所で活動しています。
暗いからと言って決して温度が低いとは限りません。
ヒトでは赤ちゃんは大人と比べて温度に敏感です。
男女でも違いがあります。
男性は女性と比べて筋肉量が多いため発熱量が多く暑がりになりやすく適温はやや低めです。
脳はいつでも快感を求めています。
“快感の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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温度の脳科学-その2
快適な環境で生きていくために脳の温度センサーは休みことなくフル稼働してわたしたちに「暑い」であったり「寒い」であったりの指令を送り続けています。
そして温度は脳の活動に大きな影響を与えます。
皆さんは暑がりですか?寒がりですか?
自分なりの適温を理解しているでしょうか?
“温度の脳科学“のまとめ
脳の温度センサーの意味を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- ヒトにとっての適温は夏は25~28度で冬は18~22度とされています。
- 温度は体の化学反応に関係しており生命活動に影響を与えます。
- ヒトは恒温動物なので温度で寿命は変わりませんが快適に生活するための適温があります。
- 脳の温度センサーの適温は世界共通で13度で体感の適温よりも低めに設定されています。
- あなたも自分の適温を理解しておきましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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