雷が怖いんですけど克服する方法ってありますか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 「雷が怖い!」を克服するためにするべきことがわかります。
われわれが恐れなければならない唯一のものは、恐れそのものである。
雷恐怖症の脳科学
- われわれが恐れなければならない唯一のものは、恐れそのものです。
- 恐怖は警戒心からくる防御のための感情であり、恐怖記憶によって生み出される原始的な感情です。
- 恐怖記憶は時に恐怖症となって脳にストレスを与え不安におとしいれます。
- 恐怖症を克服するには脱感作がもっとも効果的な方法です。
- 恐怖症を克服するためにまず一歩踏み出してみましょう。
われわれが恐れなければならない唯一のものは、恐れそのものである。
いわれのない、不合理で明確な理由のない恐怖心は、後退を前進に変えるのに必要な努力を麻痺(まひ)させてしまう。
これは第32代アメリカ大統領であるフランクリン・D・ルーズベルト氏の就任演説での有名な言葉です。
恐怖-その1
人間のもっとも原始的な感情は「恐怖」です。
恐怖は人間のみならず動物の脳の中にも古くから存在していました。
“喜び”や“悲しみ”の感情よりも“恐怖”の方が起源が古い感情なのです。
生きていくためには危険なものを避ける必要があります。
“恐怖を感じない”とか“何も恐れない”と聞くと、一見最強のように思われがちですが、それは違います。
恐怖-その2
動物は荒波の世界を生き抜いていくために、もっとも大切な恐怖を進化の過程で最初に作り上げたのです。
恐怖-その3
恐怖には2つの顔があります。
1つは危険な場面に出くわした時にそれが自分の命を脅かすものと察知、感知して素早く身を守るためのもの。
もう1つはそのような危険な状況に再び陥らないように記憶し、次回の危険を未然に防ぐもの。
1つ目の恐怖は、警戒心からくる防御のための感情です。
たまたま遭遇した何者かが、もしかしたら自分の味方で安全なものかもしれない。
しかしこの判断が実は間違えていて、自分にとって敵であり、それによって命を落とすかもしれない。
そのように考えると、多少判断ミスがあったとしても、常に警戒し恐怖を感じて回避したほうが得策、といういわば本能的な感情です。
本能的とは脳の原始的な感情であり、根っこの部分でもあります。
ですからこの部分は生きていく上ではなかなか変えられないところです。
2つ目の恐怖は、恐怖記憶からくる感情です。
雷の恐怖記憶
雷雲が接近していて激しい雷が発生するという天気予報をテレビで見たとします。
その後天気予報通りに空が黒い雲でおおわれてきます。
空を眺めていたら、稲光がした後にゴロゴロズドーンとすごい音が鳴って雷が落ちるのを目撃し、雷の恐怖を目の当たりに感じます。
そのような経験をすると、次は雷雲が近づいているというニュースを聞いただけでも恐怖を感じるようになります。
また家の中に閉じこもっていても、ゴロゴロズドーンとすごい音を聞くと雷の稲光が頭をよぎり恐怖を感じるようになります。
恐怖症
恐怖症は自分にはそれほど危険が及ばない状況であっても強い恐怖を感じてしまう障害です。
雷に限らず高いところ、狭いところ、人付き合いなど、ありとあらゆるものが非合理な恐怖の対象になります。
その原因は恐怖記憶にあります。
恐怖は生きていくためにはとても大切な原始的で本能的な感情です。
しかし時に恐怖記憶が恐怖症となって脳にストレスを与え、人を不安におとしいれます。
恐怖症を克服するには、まず恐怖記憶を理解しよう
恐怖症を克服するためには、その原因となる恐怖記憶についてもう少し知っておく必要があります。
前項の雷に対する恐怖記憶の話の中で、
雷雲が近づいているというニュースを聞いただけでも恐怖を感じる
家の中に閉じこもっていても、ゴロゴロズドーンとすごい音を聞くと雷の稲光が頭をよぎり恐怖を感じる
と言いましたが、
雷雲が近づいているというニュースを聞いただけでも恐怖を感じる
雷雲が近づいているというニュースは実際にはまだ雷を体感していません。
ニュースによって雷の恐ろしい記憶が引き出されただけです。
これには脳の中の記憶の司令塔である“海馬”という部分が関係しています。
海馬は記憶を管理しているだけではなく、ストレスへの対処も行っています。
雷恐怖症の人は雷雲が近づいているというニュースを聞くだけで、雷の恐怖から脳はストレスを感じます。
ストレスがたまりすぎると、海馬はストレスを処理しきれなくなり、やがてオーバーヒートしてしまいます。
海馬がオーバーヒートをおこして機能が低下すると、当然記憶の機能も低下してしまいます。
記憶の低下は最終的には認知機能の低下につながっていきます。
雷雲が近づいているというニュースが流れても、それはあくまでも予報であって雷が本当に落ちるのかはわかりません。
ですから、
雷恐怖症の克服法-その1
雷恐怖症を克服するには、雷雲が近づいているというニュースだけで恐怖を感じないようにしてあげることが大切です。
そのようなニュースが流れても、”実際に雷が落ちるかわからないので怖がる必要はない”という別の恐怖記憶を上書きしてあげればいいのです。
恐怖記憶が書き換えられるとストレスを感じることはなくなります。
たとえ恐怖記憶を書き換えても恐怖から多少のストレスを感じることはあるかもしれません。
雷恐怖症の克服法-その2
雷恐怖症を克服するには多少のストレスが発生しても、それを克服するように海馬を鍛えてあげればよいのです。
海馬を鍛えてストレスを克服する方法は色々あります。
雷のすごい音を聞くと恐怖を感じる
もう1つの恐怖記憶は、ゴロゴロズドーンという音を聞いて恐怖を感じるというものです。
この時は実際に雷を体感している状況であり、脳の中の“扁桃体”という部分が関係しています。
扁桃体は雷の音に反応して恐怖という感情を発信します。
しかし扁桃体は恐怖を感知するだけで、そこから生まれる“不安”や“怖い”という感情は生み出しません。
この不安や怖いといった人が感じる何となくのあいまいで抽象的な感覚を脳科学では“クオリア”と言います。
扁桃体の働き-その1
扁桃体そのものには感情はありません。
扁桃体が恐怖を察知して、その情報を“大脳皮質”という部分に送ることで、大脳皮質が不安や怖いというクオリアを発信しています。
もう一度整理すると、
扁桃体の働き-その2
雷の音を聞いて扁桃体が刺激されて恐怖を感じます。
恐怖を感じると人は恐怖を避けるような行動をとります。
その時同時に不安や怖いという感情が生まれます。
ここで重要なことは恐怖を避けるような行動をとることと、不安や怖いという感情とは全然別の回路が働いていてまったく関係ないということです。
不安や怖いという感情があろうがなかろうが、人は恐怖を感じると恐怖を避けるように行動します。
つまり雷が鳴って全然不安や怖さを感じなくても、雷は危険で恐怖を感じるものだと扁桃体が探知すれば人は逃げるのです。
雷が鳴る
→扁桃体が恐怖を感じる
→大脳皮質が不安や怖いというクオリアを発信する
ここで例えば不安や怖さをかき消すような精神安定剤を飲むとします。
すると雷に対するクオリアは解消されるかもしれません。
しかし雷の音に対して扁桃体が恐怖を感じる根元の部分は解消されていません。
つまり上っ面だけの治療に終わってしまいます。
雷が鳴る
→扁桃体が恐怖を感じる
この部分を克服しないと雷恐怖症を克服したとは言えません。
雷恐怖症の克服法-その3
雷恐怖症を克服するには、雷が鳴っても扁桃体が恐怖を感じないようにすればよいのです。
恐怖症を克服しよう
雷恐怖症の克服法-その4
恐怖症はたいてい若いころの恐怖体験が引き金となっています。
恐怖体験が記憶として残り続けて恐怖記憶となっていることがほとんどです。
安心してください。
そんなことはありません。
恐怖症は比較的克服しやすいと言われています。
なぜなら恐怖症を克服する解決法はある程度解明されているからです。
雷恐怖症の克服法-その5
恐怖症の原因は恐怖記憶でありそれを克服するには、
海馬を鍛えてストレスを克服する
扁桃体が恐怖を感じないようにする
この2つが重要であることを説明しました。
雷恐怖症の克服法-その6
恐怖症を克服するための方法は色々ありますが、最も効果的なのは“脱感作”という方法です。
雷恐怖症の克服法-その7
脱感作では、恐怖を生み出す刺激、雷恐怖症であれば雷が発生して雷が落ちるという刺激に、少しずつゆっくりと脳をさらして、その恐怖が自分の身に危険を及ぼさないということを脳に覚えこませるのです。
雷を知らせるニュースが自分の身に危険を及ぼさないことを理解できれば、海馬がストレスを感じることは減っていきます。
たとえ海馬がストレスを感じても、”結局最後は大丈夫なんだから安心しよう”という気持ちが勝っていきます。
すると、多少のストレスを感じてもそれに打ち勝つことができるようになるのです。
またそもそも雷が自分の身に危険を及ぼさないということを脳が理解できれば、扁桃体が恐怖の情報を発信することも減っていきます。
脱感作は恐怖症の原因となっている2つの恐怖記憶のどちらも克服することができる方法なのです。
雷恐怖症の克服法-その8
脱感作の効果が最も高いとされているのはバーチャルリアリティ(VR)を用いた方法です。
VRとはコンピューターグラフィックスとさまざまな刺激装置(音声、振動など)の人工的な手段を用いて仮想環境と呼ばれる仮想的な現実を作り出す技術です。
いきなりVRを用いると刺激が強すぎるので、まずは雷の音を弱い音で聞きながら雷の画像や映像をパソコン画面で見て雷を体験します。
これに慣れてきたら実際にVRを用いて雷を体感します。
最初は小さな雷や弱い音で脳を慣らしていきます。
この時決して焦ることはなく、小さなゴールを設定して目標を達成することで自分にご褒美を設けると効果的です。
達成可能な身近な目標設定とご褒美の効果についてはこちらの記事もご参照ください。
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今まで雷がどんなに怖くて自分はそれに対してどのように感じてどのような行動をとっていたのかをまず書きます。
そんな感じです。
VRでは目標を達成するごとに徐々に雷の程度を強くしたり音を強くしたりして刺激を強めていきます。
ちょっとした気づきでも構いません。
そのようなことを続けいていると、実際現実に雷のニュースが流れたり雷が鳴ったりする体験をすることもあると思います。
時にはVRの雷の方が怖くて実際の雷はたいしたことないと感じることも出てくるかもしれません。
このような雷に対する慣れは徐々に脳に刻み込まれていきます。
雷恐怖症の克服法-その9
VRやその他の方法であっても、とにかく雷を体感して雷が自分の身に危険を及ぼさないということを少しずつ脳に覚えこませ慣らしていくことが大切です。
高所恐怖症であれば、最初は2階の高さくらいの画像や映像から始めます。
そのうち徐々に高さを上げていくのです。
途中でベランダでの楽しい時間を過ごしているような映像を織り交ぜる…なんていうのも効果的でしょう。
高い所でもちゃんと柵や手すりがある所ではそう簡単には自分の身に危険が及ぶことはないことを脳に覚えこませるのです。
しかし恐怖が完全に消えてしまったら、われわれはどうやって危険を回避するのでしょう。
過度ではなく適度が大切なのです。
1日中寝そべって過ごしているほど低くなく、かといってうずくまって閉じこもるほど高くない程度の、適度な恐怖であればよいのです。
生きていくために最適な恐怖が、必ずしも自分にとってもっとも心地よいレベルとは限りません。
しかし、
恐怖に自分の人生を乗っ取られないためにもです。
もう一度最初の言葉を思い出してみてください。
雷恐怖症の克服法-その10
われわれが恐れなければならない唯一のものは、恐れそのものである。
いわれのない、不合理で明確な理由のない恐怖心は、後退を前進に変えるのに必要な努力を麻痺(まひ)させてしまう。
”雷恐怖症の脳科学”のまとめ
恐怖症を克服するために必要なことを脳科学的に解説しました。
今回のまとめ
- われわれが恐れなければならない唯一のものは、恐れそのものです。
- 恐怖は警戒心からくる防御のための感情であり、恐怖記憶によって生み出される原始的な感情です。
- 恐怖記憶は時に恐怖症となって脳にストレスを与え不安におとしいれます。
- 恐怖症を克服するには脱感作がもっとも効果的な方法です。
- 恐怖症を克服するためにまず一歩踏み出してみましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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