教え方が上手い人ってどんな方法で教えているの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 「教え方が上手い!」と言われるような脳科学的な育成論がわかります。
教え方って難しい
脳科学的な育成論
- 教え方には「しつけ」と「本人の自発性」の2つの方法があります。
- 脳科学的に上手い教え方とは「褒めるしつけ」によって道筋を示しつつ時に「本人の自発性」を導き出してあげる教え方です。
- ただ褒め続けるだけでなく「本人の自発性」を生み出すような褒めるしつけがより効果的で上手い教え方です。
さまざまな分野でそれぞれに色々な教え方があり一体どんな方法で教えるのが一番良いのかは正直わかりません。
しかしいまだどんな方法で教えるのがいわゆる“上手い教え方”なのかはわかりません。
自由すぎても束縛しすぎてもうまくいったりいかなかったりでなかなか「これだ!」という教え方にいまだ出会えずにいます。
お子さん、職場での部下、日常の身の回りの方などに教える機会に遭遇してお困りの方は少なくないでしょう。
一般的な教え方、人の育て方は多くの手法が提唱され実践されています。
そこで今回は一般的な視点ではなく脳科学的な視点から「教え方が上手い!」と言われるような育成論について探っていきます。
教え方の意味を考える
脳科学的育成論-その1
教え方には大きく分けると2つの方法があります。
いわゆる「しつけ」によって本人の行動や発言を制約する教え方
本人の「意思」や「自発性」を育て行動の積極性を高める教え方
本人の自発性にゆだねた教え方の方が聞こえが良いのは確かです。
ですから一般的な教育法や育成論では本人の自発性を推奨する手法がとても目立ちます。
たとえば部屋を出たり入ったりする状況を想像してみてください。
部屋から出るために“ドアを開ける”行動はしつけをしなくても本人の自発性だけで達成することが可能です。
犬や猫でも教えこまなくても人の行動をまねして器用にドアを開ける動作を習得します。
つまり本人の自発性を育む教育が有効な状況です。
しかし部屋の外に出た後に“ドアを閉める”となると状況は変わってきます。
“ドアを閉める”行動は本人の自発性からは生まれない…つまり自然に身につく行動ではありません。
なぜなら部屋を出た後に“ドアを閉める”行動は社会的常識つまりマナーであって部屋から出ることに関しては必ずしも必要な行動ではないからです。
脳にとって“ドアを閉める”行動は不自然で不要な行動なのです。
ですから“ドアを閉める”行動は「しつけ」として教える必要があるのです。
このように「しつけ」が必要な行動は数多くあります。
片付けする、歯を磨く、風呂に入る、早く寝る…などなどあくまでも生きていく上では必ずしも必要でないものの必ず身につけておかなくてはいけないものばかりです。
しかしこのような行動は脳科学的には不自然で不要な行動と判断され自発的には生み出されない行動なのです。
脳科学的育成論-その2
脳科学的に上手い教え方とは「しつけ」が必要な行動と「本人の自発性」から自然と生まれることが期待される行動をしっかりと見極めて両者を使い分ける教え方なのです。
叱るのではなく褒めるしつけを学ぶ
本人の自主性にゆだねた教え方はいわゆる一般的に世間でもてはやされているような育成論です。
「本人の自主性を尊重し成功への道へうまく導いてあげる」
そのための教材も数多くそろっています。
一方で「しつけ」による教え方は昔ながらの育成論として一般的には敬遠されがちです。
しかし「しつけ」も決して欠かすことのできない大切な教え方の1つであることは先ほど説明しました。
「しつけ」には大きく分けると2つの方法があります。
「叱る=弱化」と「褒める=強化」です。
「しつけ」に関するある実験をご紹介しましょう。
迷路の中にネズミが1匹います。
『迷路の中には二股の分かれ道がありネズミが右の道を選ぶように教育をする』とします。
これにはいくつかの方法があります。
最も簡単な方法は右の道の先にチーズを置いておくことです。
チーズはネズミにとってご褒美ですのできっと喜んで右の道を選ぶでしょう。
このしつけは“強化”になります。
では“弱化”とはどのようなしつけでしょう?
弱化のしつけ方は左の道を選んで進むとびりびりとした電気が流れるように仕組む方法です。
つまり“弱化”とは間違えに対して罰をあたえる方法です。
人によっては強化と弱化を組み合わせたほうがより効果的と考えるかもしれません。
つまり右の道を正しく選んだら報酬をもらえ間違えて左の道を選んだら罰が与えられるというしつけの方法です。
答えは強化だけの場合です。
つまり報酬が与えられしかも罰のないしつけがもっとも有効な方法なのです。
その次に効果的な方法は強化と弱化の組み合わせの場合です。
もっとも効果が低いというかほとんど効果がないのは弱化だけの場合です。
つまりしつけに罰はまったく効果がないのです。
叱るしつけからは何も生まれません。
答えは簡単です。
左の道を選んだら罰が与えられると分かれば決して左に進むことがなくなるからです。
道の先にチーズが待っていることが分かっている右の道をあえて選ばず左の道を選ぶことで“もしかしたら左の道の先にもっと素敵なものが隠れているかもしれない”という「自発性」が生まれます。
脳科学的育成論-その3
「しつけ」の中にも探索するという「自発性」が芽生えてこそ人は学ぶのです。
未知の世界へのはじめの一歩を踏み出さなければ学習効果はなかなかあがりません。
しかし左の道を選んだら罰が与えられると分かってしまうと自発性の芽を事前に摘んでしまうことにつながります。
このように考えると「しつける教え方」と「自発性を尊重した教え方」は実は別々の教え方ではないことがわかります。
むしろ「自発性を尊重した教え方」は「しつける教え方」の一部分にすぎないとも考えられます。
『脳科学的に上手い教え方とは「しつけ」が必要な行動と「本人の自発性」から自然と生まれることが期待される行動をしっかりと見極めて両者を使い分ける教え方である。』
と先ほど言いましたが別の角度から言い換えれば
脳科学的育成論-その4
脳科学的に上手い教え方とは基本的には「しつけ」によって道筋を示してあげつつ時には「しつけ」が必要な行動の中に「本人の自発性」から自然と生まれることが期待される行動を導き出してあげる教え方なのです。
「しつけ」と「本人の自発性」とどちらが良い悪いではなく両者をうまく使い分けることが必要なのです。
ともあれ『弱化(罰)よりも強化(報酬)が学習には有効である』ことがご理解いただけたと思います。
ちなみに“報酬と罰の脳科学”についてはこちらの記事も参照してみてください。
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しつけと聞くと弱化(罰)のイメージがどうしても先行してしまいますが決してそうではないのです。
叱るのではなく褒めるしつけを教える側も学ぶ必要があるのです。
教え方が上手い人は何をしているか?
脳科学的育成論
脳科学的には「褒めるしつけ」の中に「本人の自発性」を見出しながら教えることがより効果的なのです。
「褒める=強化=報酬」という関係を考えると褒めるしつけは報酬を与えるしつけです。
脳は報酬を常に求めています。
報酬系回路が活発に働くことで脳は快楽を感じます。
“報酬系回路の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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報酬と学習に関する研究をご紹介しましょう。
テレビゲームで立体迷路を練習してもらいます。
翌日に立体迷路から脱出できるかのテストを行います。
1日目の練習の段階で3つの異なる条件を提示します。
① テストで成功したら報奨金がもらえる。
② はじめに報奨金が与えられテストで失敗するたびにそこから減額される。
③ 報奨金なし。
どの条件で学習するのがもっとも成績が良くなるでしょう?
これはある程度予想通りでしょう。
②と③では成績が良かったのは③の方でした。
ある意味意外な結果といえるでしょう。
②ではたとえ最終的に報酬金がもらえても報奨金がもらえないよりもかえって成績が低下したのです。
1発でテストに合格すれば①と同じ報奨金がもらえるのにです。
報酬は存在していればいつでも「強化」として有効な学習効果を生み出すとは限らないのです。
減点法で得られた“残額”としての報酬はむしろ弱化として学習に悪影響を生み出すのです。
わたしたちは子供のころから英語を学んでいますが多くの日本人のほとんどは大人になっても英語が苦手です。
こんなに長年学んできているのに英語が苦手なのはこの減点法での学習が悪影響を及ぼしているからです。
英語のテストで文法やスペルを間違えたらことごとく減点されます。
英語をコミュニケーションをとるためのツールではなく受験科目の1つとしてしかとらえていないので減点法をベースとした教育法になってしまっているのです。
本来であれば英語を自由自在に操ることができるほどコミュニケーションをとることがどんどん楽しくなるといういわゆる“加点法”で学ぶべきです。
しかし理想からはかけ離れた“減点法”という方法で教え続けられてきたために逆に苦手意識さえも生み出す状況になっているのです。
たとえ文法が間違えていても英語で思い切ってコミュニケーションをとってみようという「本人の自発性」が英語力を向上させることは言うまでもありません。
しかし「本人の自発性」を損なうような教え方をしていては学習効果が上がるわけがありません。
確かに英語の文法やスペルをしっかりと習得することは大切なことです。
そのためのしつけは欠かせません。
しかし文法やスペルを学ぶことでより楽しくコミュニケーションが取れるようになるという可能性を示してあげることがもっとも効果的で上手い教え方なのです。
現在の英語の教育法は加点法の「しつけ」の中に「本人の自発性」を見出しながら教える脳科学的に上手い教え方に変わってきています。
“脳科学的な育成論“のまとめ
「教え方が上手い!」と言われるような育成論を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 教え方には「しつけ」と「本人の自発性」の2つの方法があります。
- 脳科学的に上手い教え方とは「褒めるしつけ」によって道筋を示しつつ時に「本人の自発性」を導き出してあげる教え方です。
- ただ褒め続けるだけでなく「本人の自発性」を生み出すような褒めるしつけがより効果的で上手い教え方です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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