幼児の早期教育はメリットがあるの?それとも意味がない?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 幼児の早期教育とIQの関係を脳科学で説き明かします。
早期教育とは
早期教育の脳科学
- 脳科学的に早期教育はほぼ効果がないに等しいと言えます。
- 早期教育と幼児教育は基本的に別の教育法ですので混同しないように注意が必要です。
- 幼児教育は脳科学的にもお勧めです。
- 早期教育の目的はIQを高めることにありますがこれは誤った考えです。
- どんな教育法であれ自分の教育ポリシーを確立し子どもに伝えることがなによりも大切です。
早期教育の脳科学
脳科学的に早期教育は決して推奨されるものではなく長期的にはほぼ効果がないに等しい。
ただし誤解しないでいただきたいのは何も早期教育を完全に否定しているわけではありません。
脳科学というひとつの視点から見れば…の話です。
もうひとつ誤解をしないでいただきたいことは早期教育は「幼児教育」とは違うということです。
早期教育も幼児教育も幼児の時期から教育を始める点では共通しています。
幼児とは一般的には乳児期を過ぎた1歳から小学校入学前の6歳までの時期をさします。
幼児教育の目的は生涯にわたる人格形成や学習の基礎をつくることを重視しています。
幼児教育の概念には幼稚園や保育所などにおける教育に加え家庭や地域社会における教育など幼児の生活全般における教育が含まれます。
ですから子どもの内面に働きかけ目先の結果よりも学習意欲や探求心などを培わせ可能性を伸ばすことを尊重する教育と言えます。
幼児期には脳の約80%が出来上がるとされており言語能力や身体能力が著しく発達しコミュニケーション能力や社会性を身に付け始めます。
そのため幼児期に受ける教育は生涯にわたる人格や能力の基礎と学習の土台となるためとても重要です。
一方早期教育の目的は受験や芸術あるいは運動など専門的な技能の習得を目的としています。
そのため早期教育では知識や技術の習得であったり学習の先取りであったりを重視します。
また早期教育は大人の意向で行われことがほとんどであり幼児期に入るのを待つことなく家庭によっては乳児期や胎児期から始める場合もあります。
ではどうして早期教育は思ったような効果が期待できないのでしょうか?
ひとつずつ脳科学で説き明かしていきましょう。
早期教育の真実
「脳科学的に早期教育は長期的にはほぼ効果がないに等しい」と言いましたが「本当なの?」と疑問に思っている人も多くいるのではないでしょうか。
3月生まれのプロ野球選手は4月生まれの選手のわずか半数ほどしかいません。
Jリーグのプロサッカー選手でも同様の結果です。
しかしこれは幼少時の体格差が影響しているだけで教育法が影響しているわけではありません。
幼少時の運動能力の1年の差は歴然です。
早生まれの子が幼少時に植え付けられた体力の違いの劣等感は成長後にも克服するのは難しいのかもしれません。
たとえば東京大学の学生について見てみましょう。
3月と4月生まれでは学生数はほぼ同じです。
つまり体格差とは異なり知能の劣等感は充分に克服できるのです。
それだけではありません。
この結果からは「早期教育の効果は限定的である」という結論も得られます。
なぜなら3月生まれは4月生まれよりもほぼ1年早くから学習の概念が与えられているからです。
1年若い段階で年上の児童と同じ学習カリキュラムを開始しているにもかかわらず東京大学の合格率は上昇しません。
小学生で習うような計算や漢字をいち早く教え込むような教育は脳科学的にはお勧めできません。
幼児期の子どもに知識の詰め込みをしてもほとんど意味はなしません。
親が一方的に焦って向きになって教えたところでその効果はあくまでも一時的なもので終わってしまいます。
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では幼児期にすべきことは何なのでしょうか?
早期教育よりも幼児教育を進めるワケ
幼児期にすべき教育は早期教育ではなく幼児教育です。
幼児期には幼児期にこそ習得すべきものがあります。
自然や実物に触れる「五感体験」や「忍耐力」
物事を不思議に思う「疑問力」や「知識欲」
筋道を立てて考える「論理力」
未来や他人の心の内などの見えないものを理解する「推察力」
適切に判断する「対応力」
多角的な解釈を可能にする「柔軟性」
自分の考えを伝え人の考えに耳を傾ける「疎通力」
などなどどれも大切な養成ポイントです。
幼いころに身につけた「考える力」はその後の成長を後押しする底力となるはずです。
一般的にヒトは「対処したのにできなかった」よるも「対処しなくてできなかった」の方が結果に対する責任が重いと考える傾向があります。
できなくてもがんばってやってみることを脳は心地よく感じ快感を得ます。
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仕事や勉強では特に「がんばってやってみる」が求められますが子育てについても似たことが言えます。
ですから子どもに対して「早期教育をしない」「習い事をさせない」と決めることは勇気のいることです。
しかし周囲の情報に流されず自分の教育ポリシーをちゃんと決めてブレないことの方が子どもに不安や不信感を抱かせずにすみます。
短絡的な不安感から子どもにあれやこれやと過剰に干渉したところで良い結果に結びつく保証なんてどこにもないのです。
早期教育とIQ
ではなぜそもそも早期教育はこんなにももてはやされているのでしょうか?
幼い時から習い事をたくさんさせて将来の可能性を広げるなんて夢物語を多くの親が抱いて子どもを送り出します。
早期教育がもてはやされる理由の1つにIQとの関連性があげられます。
IQとはIntelligence Quotientの略語で知能指数のこです。
IQは数字で表されて大きな数字ほど知能が高く低いほど知能が低いというなんとも残酷な指標です。
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IQは多くの人が知っているIQテスト…正式にはビネー式知能検査で判定されます。
ビネーが知能を支える3大要素として重要視したのは「論理力」「言語力」「熱意」です。
「論理的」に考えることのできない人はもちろん論外ですがたとえ論理的に考えてもそれを他人に伝える「言語力」がなければ他人からみれば「何も考えていない」と思われても仕方ありません。
一方論理力や言語力が優れていてもその能力を発揮する「熱意」がなければやはりできない人になってしまいます。
3つの要素のいずれが欠けても知能は成立しません。
脳科学的に軽視されやすいのは「論理力」です。
親は幼児に対して絵本を読み聞かせて「言語力」を身につけさせます。
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あるいは頑張るように励まして「熱意」を育てます。
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ここで幼少時の算数学習の重要性を示した研究をご紹介しましょう。
Berkowitz T, et al, Science 350(6257):196-198. doi: 10.1126/science.aac7427, 2015
研究では小学校1年生とその親に対して改訂で算数学習を取り入れた時の効果を調べてています。
計算や図形が含まれる本を1年間学習してもらいます。
調査結果では算数の家庭学習を取り入れた子どもは一般的な物語を読み聞かせただけの子どもに比べて算数の点数が30%も高くなりました。
学習は毎日行う必要はありません。
週に1回で充分な効果があります。
算数が苦手であればあるほど高い効果が得られました。
このように早期学習にはIQにおける「論理力」を高める効果があるとする報告が少なくありません。
その結果早期学習がもてはやされ誰しもがこぞって早期学習を取り入れようとするのです。
しかしこの考え方は脳科学的には誤った考え方でありある意味滑稽にさえ思えます。
なぜならそれは本来のIQの意味を誤解しているからです。
ではIQの本来の意味とはいったい何なのでしょう?
IQを正しく理解しよう
IQの本来の意味はできるだけ環境や教育や年齢による影響を受けないような脳の能力の指標です。
つまり生まれながらの純粋な脳の能力だけをうまく測定することがIQの目的です。
そのため長年改良が重ねられてきました。
ですからIQは遺伝します。
たとえば遺伝的に関係のない2人を無作為に連れてきてIQがどれほど一致するかを調べると相関関係はゼロとなります。
一方で一卵性双生児(同じ遺伝子セットを持った2人)を例えば幼いころに引き離して別々の環境で育てたとします。
このようにIQは遺伝することがわかっています。
またIQは生涯を通じてあまり変化しないこともわかっています。
つまり小学生のころと高齢になってから同じ人でIQを比較しても60%以上の確率で一致します。
このような事実からわかることは残念ながら才能は生まれる前から決定しているという運命決定説です。
ここまで言うと運命決定説を受け入れざるを得ないように感じますがもちろんこれは行き過ぎた極端な解釈です。
遺伝によるIQの一致率は決して100%ではありませんので学習を通じて知恵や知識を身につけ成長して行く可能性は十分にあります。
しかしこれが逆に問題でIQは遺伝するのですから本来であれば一致率は100%でなくてはなりません。
つまり現状のIQは不完全と言うことになりまだまだ改善の余地があるということです。
幼児のIQを高めることを謳(うた)った教材や教育プログラムには注意が必要です。
IQが遺伝して生まれながらに自分の才能がある程度決められているとしてもなにも悲観することはありません。
遺伝子で運命づけられたデフォルトの能力から自由に羽ばたくためにわたしたちの脳はあるのです。
遺伝子で定まる特定の才能に固執するよりも未開拓の潜在能力に注目した方がはるかに健全ですし素敵な生き方です。
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なにも早期教育を否定しているのではありません。
早期教育の脳科学
なにも未完成のIQの数値にこだわった教育法に縛られるのではなく子どもの未来を切り開く助けになるような教育と思うのであればどんどん取り入れるべきでしょう。
自分の教育ポリシーをちゃんと持ってさえすれば方法はどうであれ親の気持ちは子どもにもちゃんと伝わります。
“早期教育の脳科学“のまとめ
幼児の早期教育とIQの関係を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 脳科学的に早期教育はほぼ効果がないに等しいと言えます。
- 早期教育と幼児教育は基本的に別の教育法ですので混同しないように注意が必要です。
- 幼児教育は脳科学的にもお勧めです。
- 早期教育の目的はIQを高めることにありますがこれは誤った考えです。
- どんな教育法であれ自分の教育ポリシーを確立し子どもに伝えることがなによりも大切です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
最後にポチっとよろしくお願いします。