人工知能(AI)は人間の脳を超えることができるのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 人工知能(AI)ができることを脳科学で説き明かします。
人工知能は何ができる?
AIができることの脳科学
- AIは日々ものすごいスピードで進化しています。
- 「人工知能は何ができる?」と考えることはあまり意味のないことです。
- 「人工知能と人間の違いは何なのか?」はヒトのAIに対する差別的な考えに他なりません。
- 今こそ「人間らしさとは何か」を考え直しAIと共存する世界を築き上げることが求められています。
今や日常生活においても仕事においても人工知能(AI)がいたるところで見られます。
AIは膨大なデータを読み込みそれをもとに計算を行いありとあらゆる処理を正確に行っていきます。
しかもAIの性能自体も急速に高まっています。
いまや人間に匹敵するようなさまざまな概念を習得しています。
一見するとAIはなんでも器用にこなしそうに思えます。
”AIの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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現在のAIが苦手とする作業として「分類力」と「創造力」の2つが指摘されています。
「分類力」とはモノをカテゴリーに仕分ける能力です。
たとえばヒトは魚を見た時に「マグロの仲間」、「タイの仲間」、「タラの仲間」など自然にグループ分けすることができます。
このようなモノの識別自体はAIが得意とする作業ですがヒトと決定的に異なる点があります。
それは必要とする情報量です。
AIが正確な分類を行うには基本的に膨大なデータが必要です。
あらゆる魚のデータがないと正確な分類は出来ません。
一方ヒトはどうでしょう?
すべての魚の情報を持っていなくてもその特徴から分類をすることができます。
ですから初めて見たものに対しても経験則からそれなりの分類をすることができるのです。
“経験則の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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「創造力」はすでに存在するカテゴリーのパーツを生かして新しいものを生み出す能力です。
AIに創造力を発揮させるためにはそれ専用の特殊プログラムを作製する必要があります。
プログラムの範囲内ではうまく働くことができますが想定を超えた幅広い場面で普遍的な創造力を発揮できるAIはいまだ存在しません。
しかしAIの進化は止まることはありません。
できないことを可能にする能力もAIには備わっています。
苦手な「分類力」と「創造力」も徐々に克服しつつあります。
ここで「文字」を対象としたAIの「分類力」と「創造力」の研究をご紹介しましょう。
Lake BM, et al, Science 350(6266):1332-1338. doi: 10.1126/science.aab3050, 2015
文字は分類力が試される分野です。
同じ「あ」でも文字の形は千差万別です。
さらに「お」や「め」などの似た文字と混同しないためには他の文字にはない「あ」らしさを理解しなくてはなりません。
AIの驚くべき点は単にこの難題をクリアして文字を識別するだけでなく手書き風の「あ」を自ら書きだすこともできるのです。
まさに「創造力」です。
AIに文字の形状を分析させ「ヒトが手でどのように書くか」の手順を推測させます。
するとAIはヒトの手の動きのクセを習得し初めて見た文字でも書き順を編み出してすらすらと書くことができるのです。
当然書き損じもありましたがわずか3%程度です。
ヒトが文字を書いていても5%程度ミスをします。
またAIとヒトが書いた文字を並べてどちらがAIが書いた文字かを第3者に判定してもらうと当てられる確率は約50%でした。
AIはほぼ人並みの文字を書くことができるのです。
さらにAIはある言語の文字を見るだけでいかにもその言語らしい違和感のない新文字を編み出すことにも成功しました。
つまりAIは個々の文字の具体的な形状だけでなくその言語に特有な「文字らしさ」という高次元の概念を持ち素材を生かした作品を創造までしたのです。
このようにAIはできないことを克服してできるようにすることまでできるのです。
そのように考えると「人工知能は何ができる?」と考えることはあまり意味のないことです。
こうしている間にもAIは日々進化しているのですから。
人工知能と人間の違いは何なのか?
AIを開発したのはあくまでも人間です。
そしてAIを使っているのもあくまでも人間です。
ですからAIを扱う人間がいかに上手にAIを作り上げそしてしつけて能力を伸ばしてあげるかが重要なポイントです。
これはヒトの教育論にも通じるものがあります。
“教育の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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AIの新たな応用力は驚くほど急速です。
AIを駆使したマッチングアプリでは自分に合った交際相手を選び出してくれます。
ではAIと人間の違いってなんなのでしょうか?
たとえばあなた自身につらいことがあったとします。
気力を失い周りの景色がいつもよりも色あせて見えます。
人生そのものに思い悩んでしまいます。
そう感じる人も少なくないでしょう。
しかし現実では最近ではAIのカウンセリングを選択する人が増えています。
ずばり「人造セラピスト」です。
Bohannon J, Science. 349(6245):250-251. doi: 10.1126/science.349.6245.250, 2015
そもそもヒトの心の理解をしてケアをする「カウンセリング」は人間だけができる人間ならではの能力なのでしょうか?
「人間らしさとは何か」を問う時に逆に「AIで代替できるものは何か?」という疑問に置き換えて考えてみることが肝要です。
人間らしさとはとても曖昧なものです。
そんな答えが聞こえてきそうですがこれはあくまでもヒトの勝手な妄想にすぎません。
いまや多くのものが実際にAIで処理されています。
出版されている多くの文章の中にはAIによる文章の自動作成によって書かれたものがたくさんあります。
膨大なデータに基づいて文章を自動作成することをAIにとってまさに得意分野です。
しかも文章を読んでそれを書いたのが人間なのかAIなのかはほぼ判別不可です。
カウンセリングも同じです。
実際にカウンセリングを受けてみると相手が人間かAIかは判別できません。
受ける側の気持ちの問題だけです。
AIの脳科学-その1
AIを敬遠する考えの根っこにあるのはヒトがAIを心のどこかでバカにして見下す考えです。
いわゆる「ロボット差別」と呼ばれる現象です。
歴史を紐解けば昔の時代からヒトの心には相手を「自分より劣った対象」と見下す差別心が根底にあります。
AIに対しても同様です。
AIを「味気ない」であったり「無価値だ」であったりと一方的に決めつけるのもヒトの醜悪な偏見に他なりません。
実際にAIにカウンセリングを受けた人の感想はもっともらしいものです。
他人にプライベートを知られたくなく相手が人間だと打ち明けにくいこともある。
しかし相手がAIであれば安心して自分のすべてをさらけ出すことができる。
しかもAIは何時間も会話を続けても顔色を変えずイライラしたりせずとことん悩みに相談に付き合ってくれる。
AIの対応は常に冷静で真剣でそして誠実です。
相談相手としてAIを選ぶのか人間を選ぶのかはあなた次第です。
AIの脳科学-その2
AIと人間に違いをつけて差別しているのはAIを作り出した人間の心と脳にあるのかもしれません。
人工知能は人間の脳を超えることができるのか?
いま小学校に入学した子供の65%は大学卒業時に現在は存在しない職業に就く。
子供たちが「将来の夢」と称して就きたい仕事を語ることにどれほどの真実味があるのでしょうか?
夢を持つことは現在存在する35%の仕事に自分の可能性を閉じ込めることを意味しています。
教育のあり方も問われています。
情報化が進むにしたがってわたしたちの働き方は知識や技術を身につけるよりもそうした知識や技術を生かす「知恵」へと軸足が移ってきています。
ヒトの知能が礼賛される時代は終わりをつけようとしています。
ヒトの知能はもはやブランドではありません。
AIの方が賢いに決まっています。
これまで人間は自らが発明した技術によって人類そのもののあり方を変革してきました。
文字、貨幣、電気、農耕…いくらでもあります。
そしてまさに現代もAIの開発を通じてこうした過去の変革に匹敵する大転換期を迎えていると言ってよいでしょう。
この大変換期のポイントは「共存です」。
ヒトとAIががっぷり四つに組むということです。
その原点を忘れてはいけません。
計算や記憶は人間は必ずしも得意ではありません。
これを代行させるためにヒトはAIを開発しそしてていねいに育ててきました。
そんな我が子が想定よりも早く立派に成長したからと言ってその能力に嫉妬して対戦しようと考えるのは滑稽でなりません。
ヒトの最大の失策は「人間らしさとは何か」を勘違いしているところにあります。
「ヒトならではの能力は?」と問われるとつい創造、芸術、直感、気遣いなどをあげがちです。
その理由はとてもシンプルです、
ヒトは自分達の「人間らしさ」を考える時これまでは必ずといっていいほどその対象はチンパンジーでした。
「チンパンジーにできなくてヒトにできること」
それこそがヒトらしさの本質と考えてきたのです。
そうした生物間の比較にわたしたち人類は長い歴史を通じて慣れてきました。
AIにとって創造、芸術、直感、気遣いなどはチンパンジーには難しかったかもしれませんがAIにとってはそう難しいことではありません。
となればキーワードとなるのはやはり「共存」です。
AIは決してヒトとにらみ合う敵ではありません。
本来は心強い味方です。
AIの脳科学-その3
AIは傲慢になりきったわたしたちに「人間らしさとは何か」と問い自分を見つめなおす機会を与えてくれる教示的な存在なのです。
人工知能は人間の脳を超えることができるのか?
AIよりもヒトの脳の方が優れているという上から目線的な問いかけ自体がそもそもヒトの傲慢さを表しているのかもしれません。
AIとよりよい共存関係を築いてこそヒトの尊厳が快適に守られるはずです。
“AIができることの脳科学“のまとめ
人工知能(AI)は人間の脳を超えることができるのかを脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- AIは日々ものすごいスピードで進化しています。
- 「人工知能は何ができる?」と考えることはあまり意味のないことです。
- 「人工知能と人間の違いは何なのか?」はヒトのAIに対する差別的な考えに他なりません。
- 今こそ「人間らしさとは何か」を考え直しAIと共存する世界を築き上げることが求められています。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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