飛行機に乗った後やダイビング後など、気圧が大きく変化する環境にいた後にサウナに入っても大丈夫なのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
気圧と脳とサウナの関係を脳科学で説き明かします。
気圧とサウナの関係
気圧と脳とサウナの脳科学
- 飛行機に乗った後サウナに入ることは問題なく、サウナで自律神経を鍛えることで上空の低気圧を快適に過ごせるようになります。
- ダイビング後にサウナに入ることはお勧めできません。どうしてもサウナに入りたい人はダイビング前に入りましょう。
- 低気圧による気象病に悩んでいる人は、日常的にサウナの温冷交代浴で自律神経を鍛えることが効果的です。
現代の日本では第3次サウナブームによって多くの施設がにぎわっています。
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サウナの醍醐味(だいごみ)は何と言っても、サウナトランス=「サウナでととのう」でしょう。
温かいサウナと冷たい水風呂、休息タイムを繰り返す温冷交代浴では徐々に体の感覚が鋭敏になってトランスしたような状態になっていきます。
トランス状態になると、頭からつま先までがジーンとしびれてきてディープリラックスの状態になり、得も言われぬ多幸感が訪れます。
これがいわゆるサウナトランスであり、そして「サウナでととのう」の状態です。
”サウナでととのうの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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サウナ―達は至高のサウナトランスを味わうためにサウナに通うわけです。
時には最高のサウナトランスを体感するために、飛行機に乗って遠方のサウナの聖地と呼ばれる場所に旅行に行くこともあるでしょう。
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また時には旅行先でダイビングを楽しんで、その後に銭湯やサウナで温まってサウナトランスを体感する…そのような体験をする人もいるでしょう。
飛行機に乗ると、発着と着陸の時は急激な気圧の変化を体感しますし、上空では長時間気圧の低い状態にさらされます。
まだダイビングでは、潜水中は高い水圧の中に身をさらし、潜水前後では急激な気圧の変化が起こります。
飛行機に乗ったりダイビングをしたりしなくても、日常生活においても気圧の変化を体感することはあります。
「古傷が痛むと雨が降る」といういい伝えもあるように、天気が体調に大きな影響を与えることはよく知られています。
なんだか頭が痛いなあと思ったら、雨が降ってきたり、台風の時は全身のだるさを感じたり、梅雨に入るとじめじめした天気で気分が落ち込み気味になったり…これが気象病です。
なんて思っている人もいるかもしれません。
しかし気圧、温度、湿度など気象の変化があるときに起こる身体の不調は「気象病」と言われ、医学的に証明されています。
では気圧の変化によって脳はどのような影響を受けるのでしょうか?
また気圧の変化によって影響を受けた状態でサウナに入ることは大丈夫なのでしょうか?
飛行機と脳とサウナの関係
まずは上空でのお話です。
飛行機に乗って標高が高い所にいる時、脳にはどのような影響があるのでしょう?
飛行機と気圧の関係
飛行機は離陸後少しずつ高度を上げ、高度約10,000mを音速に近い時速約900kmで飛行します。
水平飛行中、機内は気圧を調節する装置とエアコンによって地上に近い環境となっています。
しかし地上とまったく同じわけではなく、およそ0.8気圧程度で、標高約2,000m(富士山の5合目くらい)と同じ環境に維持されています。
また航空機の離陸後の上昇および着陸前の下降の各々15〜30分間では急激な気圧の変化が起こります。
飛行機と脳の関係
飛行機内で気圧が低い状態にいる時に、脳にはどのような影響があるのでしょう?
お菓子の袋がパンパンに膨れているのを見たことがあると思いますが、体内でも同じことが起きています。
体内には消化管や肺などに大量のガスがありますので、これらが膨張すると内臓を圧迫して胸やお腹の痛みを生じたり、呼吸が苦しくなったりします。
しかし脳の中にはガスは存在しないので、脳への直接的な影響はありません。
脳に影響するのは血圧と酸素です。
気圧が下がると血圧は低下します。
そのため脳に流れる血流が減少し、意識がぼーっとしたりふらふらしたりしてめまいが起きやすくなります。
症状が深刻化すると頭痛や吐き気、意識を失ったり、脳梗塞になったりする危険性があります。
また上空では空気中の酸素の圧力が低下し、地上の20%程度になるので、脳に十分な酸素がとどかなくなり、血圧が低下した時と同様の症状が出現します。
さらに血圧と酸素に影響するのが水分です。
気圧が低い機内では湿度はおよそ4%程度でとても低く乾燥しやすい状況になっていて、いわゆる脱水状態となります。
脱水状態になっても、血圧が低下したり体内の酸素濃度が低下したりします。
飛行機と脳とサウナの関係
飛行機に乗って低い気圧の中にいると、血圧が低下したり体内の酸素濃度が低下したりして脳に影響を及ぼす可能性があります。
しかし実際には血圧が低下したり体内の酸素濃度が低下したりして具合が悪くなる人はあまりいません。
その理由は自律神経が反射的に働き、血圧を維持して酸素濃度の低下を防いでくれているからです。
飛行機に乗っている時は、よほど乗り慣れている人でない限り、緊張や興奮状態となります。
すると気圧とは関係なく、自律神経の中でも交感神経が盛んに働きます。
ちなみに自律神経は、交感神経と副交感神経の2つの神経回路から成り立っています。
一般的に交感神経は「闘争と逃走の神経」と呼ばれていて、敵と闘い狩猟をする、敵から逃げる、といった緊張時に働きます。
一方で副交感神経は寝る、食べる、休息する、といったリラックスする時に働きます。
“自律神経と脳の関係”についてはこちらの記事もご参照ください。
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特に飛行機の離着陸時は緊張と興奮の連続ですので、交感神経が激しく働きます。
すると血圧や心拍数が上昇してドキドキしたり、呼吸が激しくなって体内に酸素を多く取り込んだりして、体と脳が戦いに挑む状態になります。
そのため気圧の低下で下がった血圧と体内の酸素濃度は自然と回復するのです。
しかし自律神経が失調状態の人の場合では、交感神経が反射的にうまく働いてくれないので、血圧が低下したり体内の酸素濃度が低下したりしてもそのままの状態が続き、めまいや頭痛、吐き気などを引き起こします。
ですから普段から自律神経が反射的にうまく働いてくれるように鍛えておく必要があるわけです。
自律神経でやっかいなのは、交感神経と副交感神経という相反する神経を意識的に切り替えることができないことです。
自律神経は無意識のうちに反射的に働きます。
そのようなやっかいな自律神経を鍛える方法は、意識的に交感神経と副交感神経が交互に切り替わって働くような環境に身を置くことです。
サウナでは体が熱くなり交感神経が働き、血圧や心拍数が上がり、汗をかいて脱水状態となります。
その後、冷たい水風呂や休息時間では副交感神経が働き、体温が下がり、血圧や心拍数が落ち着きます。
これは自分では操(あやつ)れない自律神経をうまくサウナ・水風呂・休息時間で刺激している状態です。
サウナ・水風呂・休息時間を繰り返す温冷交代浴は、日常生活ではなかなか作り出せない極限の環境を簡単に体感できるので、自律神経を鍛えるには最適です。
しかもその先にはサウナトランスという究極の快感が待っているのですから、これ以上の方法はないでしょう。
ですから、自律神経失調による影響でよほど体調がすぐれない状況以外は、飛行機に乗った後にサウナに入ることは特に問題ありません。
逆に普段よくサウナで温冷交代浴を繰り返している人は、自律神経が鍛えられていて交感神経と副交感神経の切り替えが得意なので、飛行機に乗っても体調を崩しにくいと言えるかもしれません。
ただし飛行機に乗った後は、先ほども説明したように脱水状態となっているので、サウナに入る前にはいつも以上に水分をとるように心がけてください。
またサウナで汗をかいた後も、いつも以上に気を使って水分をとるように心がけてください。
ダイビングと脳とサウナの関係
続いては地上より標高の低い海の中でのお話です。
海でダイビングを行っている時、脳にはどのような影響があるのでしょう?
ダイビングと気圧の関係
ダイビングで水中に潜ると当然水圧を受けます。
水圧は水深10mごとに1気圧増加します。
たとえば水深10mなら体が受ける圧力は、大気圧1気圧+水圧1気圧で合計2気圧となります。
これがどのくらいの圧力かと言うと、空気を入れたペットボトルを持って潜るとよくわかります。
ペットボトルの空気は地上で入れたので1気圧の空気です。
深く潜っていくにつれ、ペットボトルは水圧に押されてペコペコと凹み始めて、10mも潜ればベコンと潰れてしまいます。
それは人間の体の約60%は水分でできているからです。
さきほどのペットボトルに水を入れた場合は、10m潜っても、20m潜っても、30m潜っても、潰れることはありません。
今度は、逆に水深30mでペットボトルにレギュレーターの空気を入れてみましょう。
水深30mでレギュレーターから出る空気は4気圧の空気です。
4気圧の空気を入れたペットボトルを手から離すと、ペットボトルは水中を上昇しながらどんどん膨らんでいき、最後は破裂します。
当然同じことがダイバーでも起こります。
水深30mで肺に空気をいっぱい吸い込んで、そのまま息を止めて浮上をすると、水面に着く時には肺の中の空気は4倍に膨れ上がってしまい、水面に着く前にどこかで破裂してしまいます。
そのためダイビングでは「急浮上は厳禁」とされているのです。
ダイビングと脳の関係
水中でダイビングを行っている間は高圧ガスを使用します。
高圧ガスの内容ですが、100%酸素と思っている人が時々いますが、それはまちがいです。
高圧ガスの組成は陸上と同じ空気が入っているので、酸素21%、窒素79%の割合です。
窒素は水圧に応じて体内にどんどん溶け込んでいきます。
窒素は麻酔薬の作用があるので、窒素が脳にどんどん溶け込んでいくと「窒素酔い」という状態になります。
多幸感とはお酒を飲んで気持ちよくなっているような状態です。
ハイテンションになったり、笑いが止まらなくなったり、時には自分が水中にいることを忘れてとんでもない行動をしたり…など自己制御ができなくなります。
一般的に水深30mを超えると窒素酔いの症状が出現してきますので、上級のダイバー(アドバンスド・オープンウォーターダイバー)でも潜ることができる水深は30mまでと制限されています。
当然それ以上潜ることも可能で、ライセンスによっては40mまでは潜ることが可能です。
それ以上深く潜ると、酸素中毒となり危険な状態になる可能性があります。
酸素中毒は脳に重篤な影響をあたえ、最悪の場合意識障害、けいれん発作などを引き起こします。
ちなみにそれ以上深く潜ることは可能で、その場合は高圧ガスにヘリウムを混ぜて酸素と窒素の比率を変えて潜水するので「トライミックス」と呼ばれています。
話が少しそれましたが、一般の人がダイビングをして楽しむ程度のライセンス(オープンウォーターダイバー)で潜れる最高水深は18mですので、窒素酔いも酸素中毒も心配することはありません。
ダイビングで脳に影響をあたえる危険性があるのは潜っている時ではなく、浮上する時です。
先ほど「急浮上は厳禁」であることを説明しましたが、急浮上が危険なのは気圧の問題だけでなく、体内に溶け込んだ窒素も大きく影響します。
体内に溶け込んだ窒素は浮上による減圧とともに、肺から呼吸によって排出されていきます。
しかし急浮上による急激な圧力の低下によって呼吸による排出が追いつかなくなることがあります。
呼吸による排出が追いつかなくなると、窒素は体内で気泡化し血管のつまりや組織の圧迫を引き起こします。
当然脳の血管にも気泡は混入しますので、最悪脳の血管が気泡によって閉塞して脳梗塞を引き起こします。
減圧症は水深が8mを超えると発生しやすくなると言われています。
ですからダイビングでは、たとえ深くまで潜っていなくても、浮上の際には十分な注意が必要です。
ダイビングと脳とサウナの関係
ダイビングで浮上の際に生じる減圧症では、重症の場合は水面浮上後にすぐに症状が出現しますが、時には何時間も経過してから出現することがあります。
ちなみに水面浮上後1時間以内での発症率は42%、3時間以内の発症率は60%、8時間以内の発症率は83%、23時間以内の発症率は98%です。
48時間後に発症することは稀ですが、症状に気づかずに数日後に症状がはっきりと出現してくることもあるので要注意です。
ダイビング後は、当然体は冷えていますので体を温めます。
一般的には、ダイビング後に体を温めた方が冷えたままよりも減圧症が発生しづらいと言われています。
しかし急激に体を温めると減圧症が発生しやすくなるので、ゆっくりと加温するのがもっとも効果的です。
その理由は、急激に体を温めると体内に溶けていた窒素が一気に気泡化してしまうからです。
ですから、ダイビング後にサウナに入ることはとても危険であり、お勧めできません。
一方で、ダイビングの前にサウナに入ることは推奨されています。
ダイビングの前にサウナに入っていると、体内に溶けた窒素が気泡化しづらくなり、減圧症が発生しづらくなります。
とにもかくにも、ダイビング後はサウナに入ることは避けた方がよいことは間違いありません。
どうしてもサウナに入りたい人は、ダイビングの前にサウナに入り、しっかりとクールダウンしてからダイビングをすることをお勧めします。
気象病と脳とサウナの関係
最後は地上でのお話です。
飛行機に乗って上空に行ったり、ダイビングをして海中深く潜ったり…そんな気圧が大きく変わるようなアクティブな行動をとらず、「地上にいるのが一番安全」なんて思っている人も少なくないでしょう。
しかし地上にいても気象によって、気圧、温度、湿度は変化して脳に影響をあたえます。
気象病は、高気圧の影響が強い良く晴れた日にはほとんど起こりません。
気象病が問題となるのは、梅雨や台風、豪雨などの悪天候の原因となる低気圧です。
気象病のメカニズムは完全に解明されていません。
しかし、低気圧によって気圧が大きく変化すると、体で気圧を感じるセンサーである耳の奥にある「内耳」という部分から脳に信号が送られ、自律神経を乱すことにつながっていると考えられています。
自律神経には交感神経と副交感神経の2種類がありますが、主に気象病に関係しているのは交感神経です。
気圧の変化で活性化した交感神経は、痛みの神経を直接刺激したり、血管を過剰に拡張または収縮させてたりして、まわりの神経を刺激してさまざまな症状を発生させます。
痛み、めまい、耳鳴り、劵怠感、動悸、息苦しさ、低血圧、ぜんそく、うつ病など症状はさまざまです。
その解決法は、「飛行機と脳とサウナの関係」でも説明したように、ライフスタイルの中で取り入れやすい方法を見つけて、自律神経を整える生活を送ることです。
低気圧がやってきて、自律神経ガタガタになって、脳が自律神経のととのいを求める… そのような時に気軽に自律神経を調整できるのがサウナです。
サウナ・水風呂・休息時間を繰り返す温冷交代浴は、低気圧でガタガタにされた自律神経をととのえるには最適です。
しかもその先にあるサウナトランスを体感したら、気象病を克服できるかもしれません。
サウナでしっかり自律神経をととのえることで、朝はすっきり起きられてアクティブに、夜はリラックスしてスッと眠りにつけるようになるはずです。
気圧と脳とサウナの関係
気圧と脳とサウナの関係を脳科学で説き明かしてみました。
最近のサウナブームで、飛行機に乗って訪れた土地でサウナに入る、ダイビングとセットでサウナに入る旅をする…そのような人が増えたのではないでしょうか?
しかし気圧の変化が脳にどのような影響をあたえているかまで考えている人は少ないかもしれません。
正しい知識を身につけて安全なサウナ生活を送ってください。
“気圧と脳とサウナの関係の脳科学”のまとめ
気圧と脳とサウナの関係を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 飛行機に乗った後サウナに入ることは問題なく、サウナで自律神経を鍛えることで上空の低気圧を快適に過ごせるようになります。
- ダイビング後にサウナに入ることはお勧めできません。どうしてもサウナに入りたい人はダイビング前に入りましょう。
- 低気圧による気象病に悩んでいる人は、日常的にサウナの温冷交代浴で自律神経を鍛えることが効果的です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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