なぜ人は他人に厳しく自分に甘くなるのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 「他人に厳しく自分に甘い」を引き起こす「帰属の誤り」をわかりやすく脳科学で説き明かします。
他人の失敗は何のせい?自分の失敗は何のせい?
帰属の誤りの脳科学
- 「他人に厳しく自分に甘い」はすべての人の脳に備わっています。
- 「他人に厳しく自分に甘い」の原因は自分を含めた内集団に対しては心理的な内的要因、自分以外の害集団に対しては外観的な外的要因を過大評価する「帰属の誤り」にあります。
- 「帰属の誤り」は個人にとどまらず集団に対してもよく起こります。
- 自分を含めた内集団に対して好意的になりやすくひいきしがちになります。
- 誰でも陥(おちい)りがちな「帰属の誤り」を理解して「他人に厳しく自分に甘い」を受け止めましょう。
他人に対してどうであれ少なくとも自分に対して厳しくあるべき…そんな風に多くの人は思っているのではないでしょうか?
他人に厳しく自分に甘い人を嫌うのは自分がそうなりたくないからです。
しかし大なり小なり人は「他人に厳しく自分に甘い」そんな性質を必ず持っています。
ほんの些細(ささい)なことでもつい他人には厳しく自分には甘い評価を下しがちになります。
たとえば1か月前に転んで骨折したばかりの友人がまた転んで骨折したと聞いたらあなたはどう思いますか?
そのように思いませんでしたか?
そのようにその人がおかれた状況や環境について考える人はあまりいないのではないでしょうか?
「帰属の誤り」の脳科学
このように脳は個人の行動の原因について推測する時、能力や性格などの内的な要因の影響を過大評価してそれに原因を帰属しがちになります。
一方で状況や環境などの外的な要因の影響については過小評価してしまう傾向があります。
これを「帰属の誤り」と言います。
この「帰属の誤り」こそ「他人に厳しく自分に甘い」の原因になっているのです。
「帰属の誤り」は誰の脳でも起こり得る現象なので
なんて思っている人でも時に他人に厳しく自分に甘くしているかもしれません。
「他人に厳しく自分に甘い」は決して他人事ではないのです。
「他人に厳しく自分に甘い」人を分析して責め立てる前にまずは自分自身を振り返ってみてください。
「帰属の誤り」が起こる理由はどこにある?
テレビや映画を見ていて俳優自身とその俳優が演じた役柄が混同されてしまうという現象はよくあることです。
穏やかで親切な人を演じた俳優は実際にもそのような人であると思われがちです。
良い役であれば好印象となり俳優としてメリットになるでしょう。
しかし悪役を演じた場合はどうでしょう?
悪役を見事に演じれば演じるほどその俳優は悪い印象を持たれがちになります。
他人の誰かの行動を評価する時にその人の内的要因(=心理的な要因)に帰属する(=原因がある)と思ってしまうのが「帰属の誤り」です。
一方で自分の行動に関しては外的要因(=環境などの外観的な要因)に帰属されやすいとされていてこれを「行為者-観察者バイアス」と言います。
たとえば知らない人を友人と見間違えてしまったとしましょう。
他人がしたのであれば多くの人は「うっかりしているなあ…」と思うでしょう。
しかし自分がした時には「とても似ていたから仕方ないよ…」と言いたくならないでしょうか?
このような違いが生まれる原因として使用可能な情報と注意の向け方の違いがあります。
行為者は通常観察者よりも多くの情報を持っています。
見間違いの例では「行為者=見間違えた人」は「観察者=見間違えを見ていた人」の知り得ない情報を持っています。
たとえば友人がそこに来る予定であったとか似たような服を持っているとかそのような情報です。
そのような情報量の差によって見間違いが起きた原因を何にするかに違いが出てくるのです。
行為者は見間違えた原因を外的要因に求めがちになります。
そのため「とても似ていたから仕方ないよ…」と思うわけです。
一方で観察者は見間違えた原因を内的要因に求めがちになります。
外的要因を知らないので「うっかりしているなあ…」と思ってしまうわけです。
そして帰属の誤りが「他人に厳しく自分に甘い」という感情を生み出すのです。
帰属の誤りを起こさないようにするのはそう簡単ではありません。
脳は自分の考えが正しいと盲信しがちです。
そもそも自分は「他人に厳しく自分に甘い」なんてことはない…と思い込んでいること自体が帰属の誤りを生み出しているのです。
“思い込みの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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思い込みほど怖いものはありません。
人は誰でも無意識に帰属の誤りを起こして「他人に厳しく自分に甘い」状態になりやすいということを知っておくべきでしょう。
「究極的な帰属の誤り」にご注意を!
今までお話ししてきた帰属の誤りはあくまでも個人に対してです。
しかし帰属の誤りはなにも個人だけに起こるわけではありません。
集団に対しても帰属の誤りはあちらこちらで頻発しています。
たとえばサッカーをしていたとしましょう。
自分のチームメートが得点を上げればきっとその理由を「普段から努力していたから得点できた!」とか「彼は運動能力が高いからだ」と思うでしょう。
しかし逆に失点をしてしまった時には「今日はグラウンドのコンディションが良くなかった」とか「風が強かった」などと思うかもしれません。
究極的な帰属の誤りが働いていると相手チームが得点を上げた時には「風向きに助けられたなあ」とか「たまたまいいコースに行っただけだろう」と思うかもしれません。
また相手チームが劣勢な時には「練習が足りないんじゃないの?」とか「運動能力が低いなあ」なんて思ってしまうかもしれません。
このように自分の所属する集団(内集団)やメンバーの成功は努力や能力、失敗は運や環境にその原因を帰属しがちになります。
一方で自分の所属していない集団(外集団)やそのメンバーの成功は運や環境、失敗は努力や能力にその原因を帰属しがちになります。
このように考えると「究極的な帰属の誤り」があちらこちらで起きていることをご理解いただけるのではないでしょうか。
内集団に起こった良いことは自分にとっても良いことであるように感じられその結果脳は自尊心を高め幸福感を得るからです。
“自尊心と自己評価の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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内集団と自分自身の一体感が強いほどその効果は大きくなっていきます。
さらに内集団に所属する「個々のメンバー」に対しても脳は強い一体感を持つようになりメンバーをまとめて身内と認識するのです。
そもそも脳は自己を認識する時に個人ではなく自分が所属する集団を重んじると社会的アイデンティティ理論は説明しています。
そんな個人間の比較でも自尊心は高まります。
しかし個人間よりも集団間の方がより自尊心は強くなります。
内集団と外集団を比較することで脳はより多くの自尊心と幸福感を得るのです。
ですから個人よりも集団において帰属の誤りはより起こりやすくなるのです。
「究極的な帰属の誤り」は個人に最高の自尊心と幸福感を与えます。
しかしその裏では落とし穴が待ち受けていることも忘れてはいけません。
「究極的な帰属の誤り」によって内集団、外集団どちらの集団についてもその力量や状況を正確にはかることができなくなります。
内集団の成功や勝利が運や環境などの外的要因の恩恵であったことに気づかずにいると自分たちの能力を過大評価してしまうことになります。
すると外的要因が作用しない状況で思うような結果が得られないことになります。
その結果自尊心や自己効力感が低下してしまう危険が生じてきます。
一方で外集団に対しては成功や努力や能力に帰属しないため相手を軽んじたり差別を正当化したりすることにつながりかねません。
またそうした理不尽な思考に対する反省やいい結果を出した相手に追いつくために努力する機会を失いことにもつながります。
“努力の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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「究極的な帰属の誤り」を起こさないためには感情や主観に流されず自分の意見に客観性を持たせ物事を判断する必要があります。
この手法をクリティカルシンキング(批判的思考)と言います。
“メタ認知の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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意識した「他人に厳しく自分に甘い」よりも知らぬ間にはまっている「他人に厳しく自分に甘い」の方がずっと危険です。
無意識の「他人に厳しく自分に甘い」は自分の成長を妨げる大きな要因です。
「うちの子が一番!」と思ってしまう「内集団バイアス」のワナ
最後は「内集団バイアス」を探っていきましょう。
先ほどの「究極的な帰属の誤り」においては自分の所属しない外集団よりも自分の所属する内集団に対してはより好意的に評価してひいきしがちになる傾向があります。
これを「内集団バイアス」と言います。
子どもにしろペットにしろ同じカテゴリーにはたくさんの個体がいます。
その中には容姿がずば抜けて整っていたりとても人懐っこかったり賢かったりとさまざまな良い特徴をもっている者もいるでしょう。
しかし必ずしも自分の子どもやペットがその中で一番優れているわけではありません。
そのことは誰もが理解しているであろうことです。
それでもなお「うちの子が一番!」と感じてしまうことはよくあることです。
このような日常の些細(ささい)であっても脳はバイアスを働かせているのです。
内集団に対するえこひいきは何も家族や同じ職場の人など親しい人に限った話ではありません。
初対面で名前も知らない人とでも便宜上自分と同じグループに振り分けられるとえこひいきしがちになるのです。
しかし内集団バイアスはあくまでも脳の一種のバグであって決して差別ではありません。
内集団を好意的に感じること自体には何も問題はありません。
“偏見と差別の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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しかし内集団を有意にしようとするあまり外集団の足を引っ張ろうとしたり攻撃を仕掛けたりするようになるとそれはいずれ差別を生み出す元凶になっていきます。
オリンピックで自国の選手を応援するあまりそれ以外の国や選手や国民を共通の敵に仕立て上げて批判するようになってしまうとそれはすでに差別になるのです。
自分が好きなものを肯定しようとするあまりそうでないものを引き合いに出してけなすことは多くの人がやりがちな過(あやま)ちです。
他の物を批判したところでそのことによって好きなものの本質的な価値が上がることは決してありません。
むしろ周囲の人はそのような行為をする人が好むものとして敬遠するようになることすらあります。
ここである興味深い実験をご紹介しましょう。
2つのグループを作り別々に活動してもらいグループ内の結束を高めてもらいます。
その後グループ同士をスポーツなどで競わせて対立が激しくなったところでその対立が改善するために有効な方策を検討する…そんな実験です。
対立したグループを仲直りさせるためにまずは全員で映画を見たり食事をしたりしてもらいました。
仲直りにはなんだか効果的のように思えますが実際にはほとんど効果は見られませんでした。
次に両グループが協力しなければ乗り越えることができないようなトラブルを起こして解決してもらうことにしました。
するとうまく仲直りできたのです。
今まで外集団(=対立する相手方のグループ)に対して敵意を持っていた人たちが好意的な行動に出るようになったのです。
このことから実験の結論としては集団間差別を解消するには対立している集団同士が協力しなければ解決できないような課題を与えることが有効だと主張しています。
一見ピンチに見える状況もライバルと共に乗り越えることで力強い味方を得るチャンスとなり得るのです。
“ピンチはチャンスの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考「ピンチはチャンス」を生み出す勝利の方程式~真似して学ぶ学習法を脳科学で探る
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「他人に厳しく自分に甘い」は誰でも持っている脳の性質なのでどうやっても避けることはできません。
「他人に厳しく自分に甘い」そんな人を批判している人だってどこかで「他人に厳しく自分に甘い」を実行しているのです。
ただそれに気づいているか気づいていないかだけなのです。
ですから自分の周りに「他人に厳しく自分に甘い」人がいたとしても受け入れる寛容さを身につけてください。
誰でも陥(おちい)る可能性のある「帰属の誤り」を攻め合っていても何もいいことなどないのです。
“帰属の誤りの脳科学”のまとめ
「他人に厳しく自分に甘い」の原因となる「帰属の誤り」をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「他人に厳しく自分に甘い」はすべての人の脳に備わっています。
- 「他人に厳しく自分に甘い」の原因は自分を含めた内集団に対しては心理的な内的要因、自分以外の害集団に対しては外観的な外的要因を過大評価する「帰属の誤り」にあります。
- 「帰属の誤り」は個人にとどまらず集団に対してもよく起こります。
- 自分を含めた内集団に対して好意的になりやすくひいきしがちになります。
- 誰でも陥(おちい)りがちな「帰属の誤り」を理解して「他人に厳しく自分に甘い」を受け止めましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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