どんな理由でも理由があれば安心して受け入れてしまうのはなぜなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 理由づけの大切さを証明する「カチッサー効果」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
「理由」があるかないかで世界が変わる
カチッサー効果の脳科学
- 自分の行動に何かしらの理由をそえるだけでまわりからの理解と譲歩を得やすくなる脳の働きを「カチッサー効果」と呼びます。
- 注意して見ると日常生活ではさまざまな場面で理由付けが行われています。
- 「カチッサー効果」をうまく利用すればモチベーションが上がり世界が180度変わって見えてきます。
「カチッサー効果」とは『脳は外部からの働きかけによって無意識に反応してしまうという心理的な原理を論理化したもの』です。
そう言われてもなんだかピンときませんよね。
しかし世の中にはカチッサー効果がいたるところで発生しています。
「カチッサー効果」をもっと簡単に説明すると…
『行動に「理由をそえる」だけでその行動はまわりからの理解と譲歩を得やすくなる』
という脳の働きです。
驚くべきなのはその「理由」というのはちゃんとした意味をなしていなくても関係ないことです。
「○○なので」とひと言そえるだけでその行動は正当化されてしまうのです。
「カチッサー効果」はハーバード大学の心理学者であるエレン・ランガー氏が1970年代に行った実験で証明されました。
コピー機の前で順番待ちをしている列の一番前に並んでいる人に
「5枚だけ先にコピーさせてもらえませんか?」
と頼んでみます。
当然順番をゆずってくれる人はそれほど多くはありません。
そこで言い方を少し変えて再び頼んでみます。
「5枚だけ先にコピーさせてもらえませんか?急いでいるもので」
さらに別の言い方でも試してみます。
「5枚だけ先にコピーさせてもらえませんか?何枚かコピーをとりたいので」
この3つの言い方で実際に順番をゆずってくれる人はどのパターンがもっとも多くなるでしょうか?
1つ目はただ単に「先にコピーをさせて欲しい」という要求だけを伝えています。
この場合順番をゆずってくれたのは60 %でした。
実験の主旨とは関係ありませんが60%もゆずってくれたのはある意味驚きです。
2つ目は「急いでいるので」という正当な理由を付け加えています。
すると順番をゆずってくれる人はなんと94%に急上昇します。
意外だったのは3つ目の結果です。
3つ目は「何枚かコピーをとりたいので」というまったく理由になっていない理由を付け加えています。
みんながコピーをしたいからコピー機の前に並んでいるのですから正直意味不明の理由です。
しかしそれでもなんと93%の人が順番をゆずってくれたのです。
この実験からわかることは
「何か自分の頼みを通したい場合にはどんなものであっても何かしらの理由を付けて頼むということが大切」
ということです。
同じ頼みごとをするにしても理由をつけるのとつけないのでは相手の対応は180度変わってくるのです。
ちなみに「カチッサー効果」の語源は昔なつかしいテープレコーダーの再生ボタンを押す「カチッ」という音とその後流れてくる砂嵐の「サー」という音からきています。
再生ボタンを押すことで自動的に砂嵐や音楽が流れるように脳にも心理的なスイッチがあるということです。
日常にあふれる「カチッサー効果」
他人に何か頼みごとを通したい場合に脳では知らぬ間に「カチッサー効果」が働いて
「何かしらの理由を付けて頼むということが効果的でその理由はどのような内容であっても承諾率はほぼ変わらない」
という現象が起きています。
そのように思っている人も少なくないでしょう。
予定通りにいかなかった場合の謝罪方法
どのような状況でも予定通りにことが進まないとイライラしたりトラブルが発生したりしやすくなりますよね。
そんな時こそ有効なのが「カチッサー効果」です。
たとえば高速道路で舗装工事のため車線規制が行われていて渋滞にはまることはたまに経験するでしょう。
最初はなぜこんなにも渋滞しているのか分からずのろのろ運転をしているとついイライラしてしまいますよね。
しかしそんな時にふと道路脇に看板が現れて
「ご迷惑をおかけします。道路工事をしています。」
そんな文句を見ると
そんな風につい納得してしまいます。
高速道路で行われている工事と言えば道路工事以外ないのですし工事をしていることは見ればわかります。
しかし理由が書かれているだけで脳は落ち着くのです。
逆に理由がないだけで脳はイライラしてしまうのです。
もっと言えば
「ご迷惑をおかけします。傷んだ道路の舗装工事をしています。」
このような看板があれば完璧でしょう。
それまでのイライラが解消して逆に
そんな気持ちにさえなります。
他にもまだまだあります。
飛行機はさまざまな理由で定刻通りに搭乗手続きが始まらなかったり離陸時間が遅れたりしますよね。
「○○航空△△便は搭乗手続き開始が約3時間の遅れとなる見込みです。」
そんなアナウンスが流れるとガクッとしてしまいます。
しかしそんなアナウンスでも
「○○航空△△便は運行上の理由により搭乗手続き開始が約3時間の遅れとなる見込みです。」
こう言われるとどうでしょう。
曖昧(あいまい)極まりない理由ですが不思議なことに気持ちが少し落ち着くのではないでしょうか?
数量や期間を限定した販売方法
幅広い場面で「数量限定」や「期間限定」という言葉を目にしますよね。
これらは「珍しい商品だから」という理由づけによりその価値を高め「買わなくてはならない」という印象を与えます。
この手法は 商品やサービスなどが限定的な場合魅力的に思われるという「希少性の法則」も利用しています。
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カチッサー効果は「こじつけの理由でも購買意欲が高まる」ため希少性の法則と合わせることで購入してもらえる可能性がさらに高まるのです。
ブランド力を利用する方法
有名企業や権威のある著名人や専門家からの意見は信頼度が高まります。
そのように自動的に信頼して安心感を与えます。
ブランド力を利用した手法は「権威性の法則」と呼ばれます。
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権威性の法則とカチッサー効果が合わさることで理由づけも格が上がりついつい引き込まれてしまうのです。
無料を利用した方法
「無料」と聞くとついつい気持ちが引き込まれてしまうものです。
無料と聞くと脳は「せっかく無料で何かしてもらったのだからなにかお返ししよう」という「返報性の原理」を働かせます。
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その結果「ただでしてもらってばかりで悪いから」という心理が働きついつい契約や購入に踏み切ってしまうのです。
返報性の原理もカチッサー効果と合わさることで強力な威力を発揮するのです。
モチベーションを上げる「カチッサー効果」
脳はどんなことに対しても「理由」を知りたがります。
子どもがよく
と聞いてきますがこれは脳の原始的な欲求です。
たとえ根拠のない理由であっても脳には理由が必要なのです。
人の上に立つ人間はそのことをちゃんと理解しています。
「理由」を告げなければまわりの人間のモチベーションは低下します。
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たとえばあなたが靴メーカーを経営していたとしましょう。
「靴メーカーの存在意義は靴を作ることにある」
そのような理念をいくら説明してもだれもついてきてはくれません。
靴メーカーは靴を作るのが仕事なのですから決して間違えたことを言っているわけではありません。
しかしこれでは社員のモチベーションはまったく上がりません。
あなたが経営者なら
「当社の靴で市場に革命を起こす」
「女性の足元を飾ることで世界を飾る」
など靴を作る理由をとにかく付け加えるのです。
たったそれだけで社員のモチベーションを簡単に上げることができるのです。
あなたが納期を守れなかった理由をきかれたならばこう答えるのが一番です。
まるで理由になっていませんがそれでも理由があると多くの場合はそれで受け入れてもらえます。
彼女が洗濯をする時に黒っぽい色の服と青っぽい色の服を入念に分けているのを見たとしましょう。
自分に言わせれば意味のない行為で自分が今までこれらを一緒に洗濯してきて困ったことなど一度もありません。
そうたずねると彼女はこう答えました。
その答えで十分なのです。
理由はどんな時でもどんなことに対しても必要です。
「○○なので」というちょっとした言葉は人間同士の潤滑油の役割を果たしてモチベーションを上げるのです。
ぜひ今からこまめに使ってみてください。
きっと世界が180度変わって生きやすくなるはずです。
“カチッサー効果の脳科学”のまとめ
理由づけの大切さを証明する「カチッサー効果」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 自分の行動に何かしらの理由をそえるだけでまわりからの理解と譲歩を得やすくなる脳の働きを「カチッサー効果」と呼びます。
- 注意して見ると日常生活ではさまざまな場面で理由付けが行われています。
- 「カチッサー効果」をうまく利用すればモチベーションが上がり世界が180度変わって見えてきます。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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