刑事ドラマっていつの時代でもどうしてこんなに人気があるのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、主に一般の方に向けて脳の病気、治療から脳の科学まで幅広くわかりやすく解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 刑事ドラマが時代を超えて人気がある理由を脳科学で説き明かします。
刑事ドラマはいつの時代でも人気がある理由
刑事ドラマの脳科学
- 脳はネガティブバイアスにとらわれているので刑事ドラマを自然と好みます。
- 刑事ドラマで悪人が退治される快感が自分のやる気スイッチがオンにします。
- 刑事ドラマの安定した安心感が脳に快感を生みそれがくせになります。
- だから刑事ドラマはやめられないんです。
自分の世代ですと、“西部警察”、“あぶない刑事”、“古畑任三郎”あたりですかね。
しかし時代がこれだけ激しくうつりかわってドラマの趣向も変化し続けいている中で、なぜ刑事ドラマは普遍的な人気を維持し続けているのでしょう。
刑事ドラマの主役はそれぞれのドラマで顔となる俳優さんが決まっていてすぐにその顔を思い出せるヒーローですよね。
相棒の水谷豊さんなんて完璧に刑事ドラマのスターですよね。
それに比べて医療系ドラマは刑事ドラマとならんで昔から人気の高いジャンルなのになぜ主人公の医者はだいたい悪人なんでしょうね…
まあそれはさておき今回は”刑事ドラマがいつの時代でも人気がある理由”を脳を科学しながら探ってみようと思います。
その理由をいろいろ考えてみましたが、最終的には次の3つの要素が重要なポイントではないでしょうか。
刑事ドラマがいつの時代でも人気がある理由
脳はネガティブバイアスにとらわれている
悪を退治する快感がやる気スイッチをオンにする
安定の安心感が生む快感
それではそれぞれについて脳を科学しながら解説します。
脳はネガティブバイアスにとらわれている
ネガティブバイアス-その1
人は幸福感や満足感のポジティブな感情よりも、不幸や不安のネガティブな感情により強く影響を受けやすいとされています。
これをネガティブバイアスと言います。
ネガティブバイアスは人類が進化する過程で災害や事故などの自分の身が危険にさらされるような出来事から身を守るために大切な役割を果たしています。
危険なことには特に注意を払うのでその記憶も脳の中に残り続けます。
人がリスクの高い状況においても賢い決断を下して生き残っていくためにネガティブバイアスは必要な脳の進化と言えます。
これは人間関係についても当てはまります。
人の好印象なイメージはすぐに消えてしまいがちですが、悪印象や不信感を抱いた相手のことはよく覚えているものです。
ネガティブバイアスは一見するといいことのように思われがちですが決していいことばかりではありません。
自分がかつて味わった失敗や恥ずかしいことは楽しかった記憶よりも心の中に刻み込まれ続けるのです。
心地よくポジティブな記憶は愚かなで不快な出来事でかき消されてしまいます。
恋愛でも相手にふられて心が傷つくとそのことが頭から離れず仕事が手につかなくなります。
それまでうまくいっていた仕事もままならなくなり失敗してしまいがちなんてこともあります。
ネガティブバイアス-その2
ネガティブな記憶を打ち消すにはその何倍も自分は有能で満たされているというポジティブな経験が必要です。
知覚、認知、運動などの刺激から入る情報は脳の扁桃体というところで処理されてさまざまな感情を生み出しています。
ネガティブバイアス-その3
ネガティブな刺激に対する扁桃体の反応は、ポジティブな出来事より大きく活発であることが分かっています。
それでは、
ネガティブバイアス-その4
脳はネガティビティバイアスによってマイナスの印象の強いものにより強い関心を持ちやすい特徴があります。
そのため脳は幸せに満ちあふれたハッピーなドラマよりも事件が次々と起きてネガティブなシーンの多い刑事ドラマを自然と好むのです。
刑事ドラマには必ず良くない事件が起こります。
事件が起きないとドラマが進みませんからね。
しかもその裏には人の不幸や不安など負の物語が渦巻いています。
そのようなネガティブバイアスに人の脳は自然と興味を示すのです。
ここで面白いのは年齢とともにネガティブバイアスは減っていくのです。
年配者の脳では逆にポジティブな情報により強い反応を示すように変化していきます。
これは長年の経験から脳が学んで進化した結果であり感情的により健全な進化と言えます。
それにはもっとほかの要素の方が脳に強く作用しているんでしょうね。
悪を退治する快感がやる気スイッチをオンにする
孔子の論語に
「子曰わく、惟(た)だ仁者のみ能(よ)く人を好み、能く人を悪(にく)む。」
というものがあります。
仁愛の心を持つものだけが、公正に人を愛し憎む事が出来る。
という意味です。
人は日々の生活を送る中で心が陰ったり曇ったりしてしまい本来の神心が立ちどころに見えなくなっています。
仁愛の心とはその陰りや曇りを払い続ける、つまり己に克つことのできる心のことです。
そういう心を持った人だけが善いものを善いとし悪いものを悪いとすることができる。
そういう教えです。
しかし現実の世界ではなかなかそううまくはいきません。
善人が損をし悪が得をするという不正がはびこっていて日々さまざまな事件が絶え間なく起こっています。
そんな理不尽な世界において、
そんな気持ちが生まれるのも無理はありません。
そんな感情は脳の中の前帯状皮質という部分が中心となって湧き上がってきます。
前帯状皮質は不安や他人へのねたみなどの感情でも活発に働きます。
そして悪人が刑事に捕まって観念する場面になると今度は脳の中の側坐核という部分が活発に活動を始めます。
側坐核は快感を生み出す脳の報酬系回路の一部です。
悪人が捕まったことで脳は心地よさを感じているのです。
そんな感情ですね。しかも、
悪を退治する快感-その1
悪人に対する憎しみが強いほど、つまり前帯状皮質の活動が強ければ強いほど側坐核の活動はより活発になり快感度がアップするのです。
つまり悪人であればあるほど捕まった時の爽快感はアップするのです。
この脳の一連の活動は他人をねたみその人が不幸になることを喜ぶ時にも同じように活発に働きます。
確かに道徳上はそうかもしれません。
しかし他人の不幸を気持よく感じてしまう本心は根源的な感情として脳にもともと備わっているのです。
脳の報酬系回路は脳で快感を得るためのネットワークでありいわばご褒美の回路です。
このご褒美は人のやる気やモチベーションの原動力にもなっています。
なんて言葉ありますが、
他人の不幸をばねに自分自身を鼓舞して生きることは脳に備わった普遍的な心理とも言えます。
悪を退治する快感-その2
刑事ドラマで悪人が最後に逮捕されて快感を得ることで自分のやる気スイッチがオンになるのです。
だから刑事ドラマはやめられないのかもしれません。
安定の安心感が生む快感
安定の安心感-その1
刑事ドラマの特徴と言えば基本的には、
一話完結なのでたとえ一話見逃しても次回も続けて見やすい
一話完結であっても全体に壮大なストーリーがある
話の伏線が複雑すぎず途中から見ても内容が理解しやすい
シリーズになっていることが多く顔なじみの出演者の人気が高く親近感がわきやすい
こんなイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。
刑事ドラマでは毎回さまざまな事件が繰り広げられるわけですが、たいてい毎回同じ出演者が事件を解決して円満に終わりを迎えます。
人によっては、
と感じてしまうかもしれません。
しかしそこが脳にとって大切なんです。
安定の安心感-その2
ドラマの最初に事件が起きて犯人が誰なのかというモヤモヤ感が最後には解消されてすっきりする安心感
顔なじみの主人公の刑事に対する厚い信頼感
事件の被害者への感情移入が強く起こりすぎないように配慮された安心感
悪人が逮捕されるだけでなくどうしてそのような事件が起きたのかの背景が説明されることの安心感
刑事ドラマはこのような安定からくる安心感や信頼感が手法を変えて毎回繰り広げられるわけです。
脳はこのような安心感や信頼感を感じると先ほど出てきた側坐核が活発に働きます。
報酬系回路は最終的に脳に快感をもたらします。
そしてこの快感はくせになり習慣になります。
刑事ドラマを見て脳が快感を得ると当然、
次回を早く見たい!
再び同じ快感を得たい!
そう思いますよね。
脳はこのような自己願望を叶えようと働きます。
刑事ドラマ好きの皆さんには、自分の好きな作家の1人であるである東野圭吾さんの『マスカレード・ホテル』シリーズがお勧めです。
映画では木村拓哉さんと長澤まさみさんがホテルでのスピード感あふれる展開を好演しています。
”刑事ドラマの脳科学”のまとめ
今回は刑事ドラマが時代を超えて人気がある理由について脳科学的に解説しました。
今回のまとめ
- 脳はネガティブバイアスにとらわれているので刑事ドラマを自然と好みます。
- 刑事ドラマで悪人が退治される快感が自分のやる気スイッチがオンにします。
- 刑事ドラマの安定した安心感が脳に快感を生みそれがくせになります。
- だから刑事ドラマはやめられないんです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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