知識の呪縛から解き放たれてゼロベース思考を身につけるにはどうしたらよいのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- ゼロベース思考を身につけるために「知識の呪縛」が持つ意味についてわかりやすく脳科学で説き明かします。
ゼロベース思考を身につけよう!
知識の呪縛の脳科
- 「ゼロベース思考」とは過去の経験や知識の枠組みを外し白紙の状態から物事を考える思考法です。
- ゼロベース思考は今までにないイノベーションを生みだす可能性を秘めています。
- ゼロベース思考を身につけるには正しい方法を理解する必要があります。
- ゼロベース思考を実践しようとしてもうまくいかない最大の原因は「知識の呪縛」です。
- 「知識の呪縛」とは自分の常識が他人にも通用するという思い込みです。
- 知識の呪縛は無意識のうちに脳の中で生じる現象です。
- 知識の呪縛を理解してぜひ自分の脳を知識の呪縛から解き放ってください。
「ゼロベース思考」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の建設計画においてデザインの段階から根本的に見直す必要に迫られた安倍晋三首相は
「現在の計画を白紙に戻す。ゼロベースで見直す」
と記者団に伝えました。
「ゼロベース思考」とは「過去の知識や経験、思い込みなどにとらわれずにすべてを一度リセットしてまっさらな白紙の状態から物事を考えること」を意味します。
なぜゼロベース思考が必要なのか?
今まで積み上げてきたものがある中でなぜ“0(ゼロ)”から考えなければならないかと疑問に思う人もいるでしょう。
自分が今まで生きてきた中で培ったヒューリスティックスを活用する方がずっと楽なはずです。
「ヒューリスティックス」とは簡単に言えば自分の経験則や先入観に基づく手法です。
“ヒューリスティックスの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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ヒューリスティックスすなわち過去の経験や知識を拠り所(よりどころ)とする思考法を「トレンド思考」と呼びます。
トレンド思考は基本的に過去思考であり過去の事象からアイデアを得てそこから新たな仮説をたて検証していくというスタイルです。
“仮説→検証”のサイクルをひたすら繰り返しながら目標に向かっていきます。
トレンド思考は過去の成功事例から学べるので一見すると楽そうに見えますが“成功例に従わないと失敗する”という考えにとらわれて大胆な発想ができなくなるというデメリットもあります。
しかし無難であっても確実な結果を導き出せるのでトレンド思考は好まれる手法であることは間違いありません。
脳の中では経験を積めば積むほど“常識”が積み上がっていきます。
“常識の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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ベテランになればなるほど既成の枠にとらわれて新しいアイデアが出なくなってきます。
逆に経験や知識がない方が画期的なアイデアがでやすい…なんてこともあるはずです。
過去の前提や経験は貴重な財産ではありますが悪い方向に作用すると勝手に常識を作ってしまいがちです。
脳の中の常識は新しいアイデアを考える時に無意識に制限を作ってしまいます。
「ゼロベース思考」では過去の経験や知識の枠組みを外すことからスタートし白紙の状態で物事を考えます。
ですから「ゼロベース思考」は過去にとらわれないため「こうかもしれない」と仮説を立てたり「あんなことができたらいいな」と未来への希望を抱いたりと発想の翼を自由に広げられるのです。
ゼロベース思考が役立つ時とは?
もし「ゼロベースで考え直してみて!」と言われたらそれは「今までのやり方だけじゃなくて新しい意見が欲しい!」という意味にとらえられます。
つまりゼロベース思考は新しいもの、イノベーションを生みだす時に役立ちます。
今まで当たり前に考えていたものを違う視点で見ることで新しい発想が生まれるのです。
“イノベーションの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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例えば「通勤時間が長くてつらいなあ…」と感じる時に一般的な考えであれば「近道を探す」「駅まで自転車で向かう」などまず考えるでしょう。
しかしゼロベースで考えれば「会社の近くに引っ越す」「転職する」という発想が生まれます。
さらに突き詰めれば「在宅ワークできるように会社に交渉する」「起業する」などさらに新しい考えが思いつくでしょう。
このように経験や蓄積がある中でもゼロベース思考が役立つのは従来の規則や積み上げたものだけでは思考の限界に直面した時です。
とくに現在は環境の変化が早く取り巻く環境が目まぐるしく変わる中で既存のルールや経験だけで考えていると新しい発想や意見が出なくなり行き詰ってしまいます。
ゼロベース思考で取り組むことによる最大のメリットはなんといっても「新しい価値」を発見できるということです。
ゼロベース思考はある意味“常識”すらもゼロにして物事を深く考えます。
つまり「常識を打ち破る」ための思考法なのです。
いまやコーヒーはテイクアウトが当たり前です。
しかしかつての喫茶店では何百円も出してゆったりと座ってコーヒーを飲むというスタイルが当たり前でした。
それをテイクアウト主体のコーヒーショップを作ったのがドトールコーヒーです。
当時1杯500円が当たり前の時代に1杯150円という画期的な価格で美味しいコーヒーをだしました。
既存の枠で考えると“ありえない価格”です。
しかしこの前提を疑って顧客目線で「安く美味しいコーヒーは本当にだせないのか?」を考えたからこそ低価格でのテイクアウトを実現できたのです。
500円でコーヒーを売っていたところではおよそ発想できないことでしょう。
ゼロベース思考を身につけるために必要なこと
ここまで説明してきたようにゼロベース思考ではまずは既存の経験や知識をリセットする必要があります。
ですからゼロベース思考を身につけるにはまずはリセットに必要なポイントをおさえることです。
自由な発想を妨げる要因となる経験や知識といった暗黙の常識をリストアップしましょう。
過去の失敗経験、成功体験にとらわれ「解決は不可能」と思い込まず「解決策はある」という前提で考えましょう。
自分目線ばかりで考えず他人目線で考えましょう。
ゼロベース思考の準備が整ったらあとは実践するのみです。
しかしいきなり「頭の中をゼロにして新たな発想を生み出せ!」と言われても無理な話です。
ですからゼロベース思考のためにトレーニングを積む必要があります。
ゼロベース思考のトレーニングとして多くの記事で推奨されているのが「メモを取る」ことです。
ゼロベース思考はメモ書きと非常に相性が良く、経験や知識、思いつきなどを書き出すことで自由な発想を妨げるものを自覚できるのです。
① 何について考えるかのテーマを決めてまずは現状の問題点や悩んでいる点を書き出します。
② ゼロベース思考の基本は「シンプルに考える」にあります。
ですからシンプルに考えることを妨げる既存の経験や知識をメモします。
続いてできるだけシンプルに自由にテーマをとらえ考えを書き出します。
そして最後に思い込みや先入観に影響されて複雑に考えていないか既存の経験・知識と見比べてチェックします。
③ 自分が書き出したテーマを実現するために必要な知識やスキルを書き出します。
知識やスキルにこだわりすぎて“これは無理”と限界を決めずに初歩的な知識やスキルしかない状況でもそれを実現するために必要なことを書き出します。
④ 最後に今まで書き出したメモを振り返り自分のテーマの実現にとって何が大事なのか最終的な考えを書いてまとめます。
ヒートテックは繊維などを製造・販売する東レ株式会社とUNIQLOを展開する株式会社ファーストリテイリングの共同開発で生まれました。
赤字転落した東レはゼロベース思考を取り入れて従来の「ものづくり」から消費者が求める「新しいサービス」へと発想を転換しました。
そしてUNIQLOとの戦略的パートナーシップを構築しました。
UNIQLOは販売現場の情報を東レに提供し、東レは消費者ニーズを反映させた素材を開発しました。
その結果従来のやぼったいイメージをくつがえすような機能性に富んだオシャレで革新的な保温インナー「ヒートテック」が生まれたのです。
ヒートテックは、「先端材料の創出」を掲げる東レと快適なカジュアルウェアを追求するUNIQLOがゼロベース思考で成功した事例なのです。
ゼロベース思考がなかなか実践できない理由
ここまで「ゼロベース思考」について学んできましたがいかに「ゼロベース思考」が大切で効果的な思考法であるかをご理解いただけたでしょうか?
なぜ「ゼロベース思考」はなかなか実現できないのでしょうか?
理由の1つは“脳は現状維持をこよなく好む”という性質です。
かつては画期的だったアイデアでもいつのまにか時代に合わなくなったり競合が増えたりして気がついたらうまくいかなくなっているということはよくある話でしょう。
たとえば車の使う意味を考えてみましょう。
以前は車を“所有する”のが当たり前でした。
しかし現代では車を“シェアする”人たちが増えています。
ですから昔のように車をただ作るだけでは売れなくなっているわけです。
うまくいってもあぐらをかかず世の中を見続けて「変化」させていく必要がありますが実際にはこの「変化」が難しいのです。
なぜなら脳はうまくいっている時ほど現状を維持しようとするからです。
しかし時代の変化によってニーズが変わっていった時に気がつかないと気がついた時に「ユーザーが離れてしまった…」なんてことが起こります。
このようなことが起こる理由は成功した原因を手放せなくなるからでしょう。
うまくいったことを経験として“常識”として記憶してしまうからやり続けてしまうのです。
“現状維持の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考【今のままが一番イイ】現状維持は退化であり後退なのか?「現状維持バイアス」を脳科学で探る
挑戦して失敗するくらいなら最初から挑戦しない方がイイ…なんて思ってませんか? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として ...
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もう一つの理由は“知識の呪縛”です。
発想は単純、素直、自由、簡単でなければなりません。
しかしそのような素直で自由な発想を邪魔するものがあります。
それはなまじっかな知識=知っていると思う心でです。
本来は自分を助けるために働くはずの知識が「これ以上は無理」と限界を決めてしまう思い込みを生み出します。
“思い込みの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考#名前一文字変わってても気づかないだろ~思い込みをなくす方法を脳科学で説く
#名前一文字変わってても気づかないだろ”って何ですか? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病 ...
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知識や思い込みにとらわれずに「何ができるか」に意識を集中することこそ問題解決のカギになります。
既成の枠の中で考えていてはゼロベース思考は実現されません。
「知識の呪縛」が持つ意味を探る
知識の呪縛
「知識の呪縛」とはさまざまな分野において知識を持っている人は知識を持たない 人の立場から考えることが厳しくなるという現象です。
なんだかわかったようなわからないような感じかもしれません。
ゼロベース思考を実現するためにぜひ「知識の呪縛」を理解しましょう。
なぜ子どもに勉強を教えるのは難しい?
平成から令和へと時代が変わった今教育現場では「子どもに勉強を教えるのは難しい…」といった声が上がっています。
たとえば“お釣り”を知らいない子どもがいるというのです。
おもに小学校低学年以下に多いようですがその理由について一瞬で正解を出すことは大人には難しいかもしれません。
その理由は「電子マネーの普及により現金で払わないことが増えたから」です。
ある程度成長してから電子マネーが登場した大人にとっては電子マネーのメリットの1つとして「お釣りない」ということを実体験として知っています。
お釣りの間違いも小銭で財布が膨らむこともなく便利になったと感じているでしょう。
しかし物心がついたころには電子マネーが普及していた幼い世代には現金で支払うということを知らずそのために“お釣り”という概念が存在しないのです。
このような子どもに“お釣り”とは何かを説明して教えることは今までになかったことでありとても難しいのです。
無意識で起こる「知識の呪縛」
“お釣り”の話を聞いて「お釣りを知らないなんてそんなことがあるわけない…」と思った人も多いでしょう。
しかし知識や常識は個人や世代の間で大きく異なります。
その違いに気づかずに自分が知っていることは他人も当然知っているだろうと思い込み知識を持たない人の立場から物事を考えることができなくなってしまう現象こそが「知識の呪縛」の正体です。
ご紹介する本には “タッパー・リスナー実験”という有名な知識の呪縛の実例が書かれています。
2人1組になった実験参加者のうち1人が頭の中で何らかの有名な曲を思い浮かべます。
そしてそのリズムでテーブルをたたいて(タッパー)それを聴いた別の1人(リスナー)に曲名を当てさせるという実験です。
Chip Heath and Dan Heath, Made to Stick: Why Some Ideas Survive and Others Die, Random House, 2007.
実験結果ですがリスナーは実際にはおよそ2%しか正解できませんでした。
しかしタッパーは50%程度正解できるだろうと予想していました。
曲を思い浮かべてテーブルをたたいた人にとっては簡単に思えることでもそうでない人にとってはたとえその曲を知っていたとしてもリズムと結びつけることは難しいのです。
自分の知っている曲を口ずさんで相手に伝えようとしてもなかなか伝わらずわかってもらえない…
相手の立場から物事を見ることは自分で思っている以上にとても難しいものです。
脳は「知識を得ることによって知識がない時の状況がわからなくなる」=「他人が何かを理解できないことがわからない」という知識の呪縛を無意識のうちに起こしているのです。
「知識の呪縛」を解き放て!
そもそも知識の呪縛が起きるのは脳の中に知識や常識が蓄積されているからです。
そのような知識の呪縛におちいっている人を「嫌な人」と一蹴(いっしゅう)することは簡単です。
しかしそうしていると結局損をするのは自分です。
いくら教えられても教える側が知識の呪縛にかかったままですと「教える側にとって肝心なこと」を教えないで終わってしまいます。
その結果思うような成果が出ず教える側としては
と悩んでしまうことになります。
知識の呪縛はなにも他人に対して起こるだけではなく自分に対しても起こり得ます。
知っているつもりで発した言葉や起こした行動を振り返ってみた時に実は自分でもよくわかっていなかった…なんて経験したことがある人も少なくないはずです。
知識の呪縛は無意識に作用します。
ですからそれに気づいて防ぐことはとても難しいことです。
メタ認知とは「自分の認知活動を客観的にとらえる、つまり自らの認知(考える・感じる・記憶する・判断するなど)を認知すること」です。
自分自身を超越した場所から客観的に自分自身を知ること(=知識)に加えて、自分自身をコントロールでき冷静な判断や行動ができる能力(=技能)までを含めて「メタ認知」です。
“メタ認知の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考おすすめの自己分析の方法をわかりやすく解説します!メタ認知の意味を脳科学で探る
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知識の呪縛から解き放たれるには 知識の呪縛の知識を理解することが最初の一歩です。
次いで知識の呪縛におちいらないように脳をコントロールする技術を習得することです。
自分が生みだした思考を他人に理解してもらいたいのであればまずは自分でしっかりと理解したうえで自分以外の誰もが使いこなせるようにする必要があります。
他人の嗜好や考え方を充分想像することができなければ自分だけしか使えない思考しか生みだすことはできないでしょう。
自分の脳の中を理解することすら難しいのですから他人の脳の中を知るのは難しいことです。
しかし常に他人からのフィードバックに耳を傾けるような努力が必要だということを充分認識していれば知識の呪縛のために失敗する可能性を最小限にすることは可能でしょう。
“知識の呪縛の脳科学”のまとめ
ゼロベース思考を身につけるために「知識の呪縛」が持つ意味についてわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「ゼロベース思考」とは過去の経験や知識の枠組みを外し白紙の状態から物事を考える思考法です。
- ゼロベース思考は今までにないイノベーションを生みだす可能性を秘めています。
- ゼロベース思考を身につけるには正しい方法を理解する必要があります。
- ゼロベース思考を実践しようとしてもうまくいかない最大の原因は「知識の呪縛」です。
- 「知識の呪縛」とは自分の常識が他人にも通用するという思い込みです。
- 知識の呪縛は無意識のうちに脳の中で生じる現象です。
- 知識の呪縛を理解してぜひ自分の脳を知識の呪縛から解き放ってください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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