若者がよく使う「エモい」ってどういう意味?
感情移入しやすい人の心理ってどうなっているの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い手術、血管内治療、放射線治療を中心に勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 「エモい」を探ることで感情移入しやすい人の理由や心理をわかりやすく脳科学で説き明かします。
若い人がよく使っている【エモい】を学ぼう!
エモいの脳科学
- 「エモい」は感情が揺れ動かされ状況や人や物事に脳が感情移入している状態です。
- 「エモい」という感情は相手に自分を重ね合わせる共感ではなく自分とは異質なものとして共感する感情移入によって生じます。
- 脳が感情移入して「エモい」状態となるのは一種の脳のバグであり時間的長続きはしません。
- 過去にとらわれずその瞬間だけ感情移入することこそが「エモい」の実態なのです。
何となく意味は分かっていてもいざ実際に自分で使ってみようとすると「使い方がよくわからない」「なんだか恥ずかしい」…なんて人は少なくないはずです。
そもそも「エモい」とはどう意味なのでしょう?
「エモい」はどのようなシーンで使うのが正しいのでしょう?
「エモい」の意味
「エモい」とは「感情が動かされている」「感情が高まって強く訴えかける心の動き」「状況や人や物事に感情移入している」…そんな状態です。
なんだかわかったようなわからないような…そんな感じですよね。
「エモい」状態とはそもそも「なんとも言い表すことができない心が揺れ動いている状態」なのでそもそもわかりにくいのです。
「これがエモいだ!」というように一つの明確な答えがあるわけではなくさまざまな気持ちを表現する際に使われます。
「エモい」の語源
「エモい」の語源にはさまざまな説があります。
最も有力な説は1980年代のアメリカで広がったロックミュージックの一つのジャンルであるEmo(エモーショナル・ハードコア)から派生したという説です。
Emoは情緒的に心情を揺り動かし表現する歌詞が特徴の音楽ジャンルです。
そもそもEmoという名前自体も感傷的、情緒的を意味する英語「emotional」を略したものです。
その流れで音楽業界では激情的で感動的な音楽を「エモい」と表現していて、その後音楽に限らず日常生活でも激情的、感情的なものに対して表現されるようになったと言われています。
もう一つは日本語の「えもいわれぬ」から派生したという説です。
「えもいわれぬ」とは「なんとも言い表せない」という意味です。
「えもいわれぬ」を略して「エモい」となったと言われています。
言葉の語源は後付けのものもたくさんあるので結局はっきりした語源はよくわからないのが現状のようです。
「エモい」が流行った理由
三省堂が開催する「今年の新語2016」に2位に選ばれたことから話題となりました。
その後若者を中心にSNSなどで頻繁に使われるようになり流行り言葉になったようです。
特にSNSの「ストーリーズ」の機能の登場によって自分の想いを自由に発信する機会が増えたことも「エモい」が頻繁に用いられるようになった理由でしょう。
「エモい」の正しい使い方
「エモい」は感情が揺さぶられた時、予期せず感動した時、とりわけ心地の良い懐かしさや良質なセンチメンタルに襲われた時などに使われます。
実際の使用例をご紹介しましょう。
感動した時 「この映画のラストシーンはエモかったなあ」
何とも言えない気持ちになった時 「好きな人に話しかけられてうれしかったけど友達としか思われてないから切なくてエモい気持ちだよ」
懐かしい気持ちになった時 「同窓会で久しぶりに昔の友達に合って思いだ話をしてエモかったなあ」
「エモい」を他の言葉で置き換えるのであれば「哀愁を感じる」「感動する」「ノスタルジックな気分になる」「センチメンタルな気持ちになる」などでしょう。
「エモい」はそもそも「なんとも言い表すことができない心が揺れ動いている状態」ですからどんなシーンでも使え大変便利な言葉です。
感情移入しやすい人の脳の仕組み
ここまでは「エモい」について解説してきました。
ここからは「エモい」を脳科学で探っていきます。
「エモい」という感情に脳がなっているのはいわば「感情移入」している状態です。
「感情移入」とは「状況や人や物事に対して喜怒哀楽などのさまざまな感情で共感している状態」と言えるでしょう。
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共感とは自分自身の脳が対象となる状況や人や物事に同化している状況です。
映画を見てエモい感情になるのは主人公や登場するキャラクターの気持ちになるからです。
ただし瞬間的な共感のほとんどは感情移入まで到達していません。
自分の弱さや抱えている問題を相手にそのまま投影しているいわば「自己投影」にすぎません。
自己投影は結局のところ同情でしかありません。
正しい意味で感情移入するためには自己投影をせず対象を自分とは違う異質なものとして認識して共感する必要があります。
なぜなら対象を自分とは違う異質なものとして認識するためには自分の理解の枠組みを超える必要があるからです。
脳は自分の自分の理解の枠組みを超えた情熱を持つ人を目の前にすると奇異に感じたり軽んじたりしがちです。
そのような相手はそもそも自己投影しづらく脳は避けようとします。
しかしそのような相手に触れたときこそ自己投影を卒業し感情移入(異質なものへの共感)の段階に進むことが大切です。
それこそが自分自身を超えて脳が「エモい」という感情を生み出す唯一の方法なのです。
ちなみに脳は一度感情移入して「エモい」状態になるとその後はその感情を持たない立場から対象を考えることが難しくなってしまいます。
この現象を「感情移入ギャップ」と言います。
脳は「エモい」という感情を生み出すかわりに「感情移入ギャップ」によって「エモい」状態から抜け出せなくなるのです。
それでは実際に脳が感情移入して「エモい」と感じる状況を探っていきましょう。
恋は盲目
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一度相手に好意を持ってしまうとその人のすべてが魅力的に見えてしまう…そんな経験をしたことがある人はおそらく少なくないでしょう。
かっこいいと思っている男性が実は運動音痴で走るのが遅かったとしてもそれさえも魅力の一つに思えてしまう…そんな感じです。
「意外性」も魅力の一つになってしまうわけですから恋愛はすごいパワーを持っていますよね。
ちなみに女性よりも男性の方が相手の外見を重視しやすいと言われているので男性の方がこのような状況におちいりやすいかもしれません。
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ただの友達の時には何とも思わなかったのに一度でも相手のことを意識して「好き」と思ってしまうと何でもどんなことでも魅力的に見えてしまうということは珍しくないことでしょう。
これは先ほど説明した「エモい」が生み出す「感情移入ギャップ」です。
そしてこの現象のことをわたしたちは「恋は盲目」と呼ぶわけです。
ダイエットが成功しない理由
「感情移入ギャップ」は英語では「Cold-Hot Empathy Gap」と言います。
「Cold」というのはその状況に対して対象となる人が巻き込まれていない脳が冷静な状態です。
一方で「Hot」というのは逆に巻き込まれていて脳が興奮している状態です。
このHotの状態こそ脳が「エモい」という感情を生み出している状態と言えるでしょう。
Coldである人はHotの状態を、またHotである人はColdの状態想像することが難しく「感情移入ギャップ」が生み出されるわけです。
たとえばお腹がすいていない時…Coldの状態の時にダイエットを決意したとしましょう。
そんなふうに誓っていてもお腹がすいている時…Hotの状態の時に目の前にお菓子があるとどれだけ魅力的に映るかということをColdの状態の時に想像することは無理なのです。
そのような理由で結局はがまんできずにお菓子を食べてしまうとダイエットは永遠に成功しないのです。
この現象は自分に対してだけでなく他人に対しても同じように起こります。
脳は自分と逆の状態の人の感情を想像することは難しく共感を示さない傾向にあります。
しかし先ほどもご説明したように相手のことを自己投影せず自分とは異質なものとして共感できるようになると脳は感情移入して「エモい」という感情が生み出すことができます。
ですからダイエットにおいても感情移入ギャップから抜け出してダイエットに成功した人やその状況を「エモい」と感じるようになることが成功への一つの道となります。
だまされたと思ってぜひ実践してみてください。
脳は喉元(のどもと)過ぎれば熱さを忘れる
ある実験をご紹介しましょう。
実験に参加した人を3つのグループに分けます。
それぞれのグループで操作をして以下のような感情を生じさせます。
① 仲間はずれにされているような疎外感を感じさせる
② 平等にあつかわれていると感じさせる
③ 何もしない
3つのグループに監禁されている被害者に対する共感の強さを調べます。
Nordgren LF, et al, Psychol Sci 22(5):689-94. doi: 10.1177/0956797611405679, 2011.
結果はどうだったでしょう?
①の疎外されて苦痛を味わったグループは他の2つのグループよりも監禁をやめるように強く訴えました。
これは自分も疎外されたことで社会的な孤立に対して先ほど登場した「Hot」な状態、つまり脳が興奮した状態となりそれによって監禁されている被害者に対して感情移入しやすくなった結果と考えられます。
実験には続きがあります。
続いての実験では経験をした直後ではなく経験したのが過去だったとしたら同じような境遇の人に対して感情移入するのかを調べています。
① 氷水に手を浸す
② 常温の水に手を浸す
③ 氷水に手を浸すがその後10分間別の課題をする
以上の3つのグループにわけます。
その後それぞれのグループに極寒の地で監禁されている被害者の話をしてどの程度被害者に感情移入するかを調べます。
結果は①の氷水に手を浸したままだったグループのみ強い感情移入を示しました。
⓷の氷水に手を浸した後に別の課題をしたグループはたいして感情移入しませんでした。
このことからどのような結論が導き出せるのでしょう?
この実験の結論では「過去に似たような経験をしたことは時間が経過してしてしまうと感情移入する理由にはならない」と記されています。
いくら脳が感情移入して「エモい」状態になったとしても長続きはしないということです。
過去に「エモい」経験をしていたとしても今後同じ状況に対して同じように「エモい」状態になるとは限らないのです。
たとえば事故で大けがを負ってつらい経験をした人でも事故から時間がたってけがが治ってしまうと必ずしも現在けがをしてつらい思いをしている人を思いやれるわけではない…ということです。
脳が感情移入して「エモい」状態に浸っている時間はしょせんその時だけなのです。
立場の違う人に感情移入できない…そんな状況は日常生活では頻繁に起きています。
親と子、夫と妻、いじめられている生徒と教師、被害者と加害者…など立場や状況が違う場合には自分が相手と同じところにいないと理解することは難しいものです。
両者にすれ違いが生じるのは脳が感情移入して「エモい」状態になっているのがほんの短い時間であることを考えれば当たり前のことなのです。
そのため相手の立場に立って考えるためには過去の経験を活かすのではなく時を同じくして実際に経験してみる…ロールプレイを行うことがギャップを解決する第一歩です。
脳が感情移入して「エモい」状態になるのは脳のバグであるために決して永続的な感情でないのです。
“エモいの脳科学”のまとめ
「エモい」を探ることで感情移入しやすい人の理由や心理をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「エモい」は感情が揺れ動かされ状況や人や物事に脳が感情移入している状態です。
- 「エモい」という感情は相手に自分を重ね合わせる共感ではなく自分とは異質なものとして共感する感情移入によって生じます。
- 脳が感情移入して「エモい」状態となるのは一種の脳のバグであり時間的長続きはしません。
- 過去にとらわれずその瞬間だけ感情移入することこそが「エモい」の実態なのです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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