仲間意識を持つことは良いことなのでしょうか?それとも悪いことなのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 仲間意識の良し悪しを決める「内集団バイアス」と「外集団バイアス」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
「外」より「内」をひいきして何が悪い
「内集団バイアス」と「外集団バイアス」の脳科学
- 自分の所属する集団を「内集団」、それ以外を「外集団」として区別して、「内集団ひいき」をするのは人間が生き延びるための脳の本能です。
- ささいな共通点がありさえすれば集団は形成され、「内」と「外」を区別するようになります。
- 「内集団」の中での感覚を「外集団」にも用いようとすると「感覚のズレ」が生じてとても危険です。
- 「内」と「外」にわかれたとしても、「情けは人の為ならず,巡り巡って己が為」の原理を思い出して、正しい仲間意識を生み出しましょう。
一緒に見ている友人たちはみんな日本人の選手を応援しています。
あなたも友人にせっつかれて日本人選手を応援しています。
しかしあなたはどうして友人たちがそんなにスピードスケートの試合に熱中しているのか理解できません。
その理由は主に3つあります。
1つ目の理由は、スピードスケートの競技自体が理解できません。
なぜスケート靴をはいてリンクをくるくる回る必要があるのでしょう?
3つのボールをジャグリングしながら片足走行をして、100メートルおきに設置されてある障害物をよけながら走るのではどうしてダメなのでしょうか?
2つ目の理由は、0.01秒というほんのわずかな差で競い合うことが理解できません。
常識的に考えれば、それほど結果に差がないのであれば勝負はほぼ運で決まってしまうのではないか…そのように考えてしまいます。
そして3つ目の理由は、どうして日本人の選手だけを応援しなければならないのかが理解できません。
日本人の選手といっても、誰ひとりとして親戚でも何でもありません。
知らない人ばかりです。
日本人の選手たちが、どのような子ども時代を過ごし、何を考えているのかもわかりません。
自分が日本に住んでいるから日本人の選手を応援するというのであれば、住んでいる場所がほんの数メートルでも国境の反対側であれば別の国の選手を応援しなければならないのでしょうか?
そのように思った人もいるでしょう。
“屁理屈の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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一見すると屁理屈に聞こえるかもしれませんが、「日本人であれば日本人の選手を応援しなければならない」という心理は意外と重要な問題を秘めています。
自分が住んでいる地域を「内集団」、その他の地域に住んでいる人やその他の地域から引っ越してきた人を「外集団」として区別するのは脳の本能です。
そして人間の心理として、自分が所属するグループである「内集団」には愛着があるので優れていると感じ、その他のグループである「外集団」には競争心や対立心を抱きがちになります。
このような脳の思考の傾向を「内集団バイアス」と「外集団バイアス」と呼びます。
なぜ人間は集団を形成するのか?
さきほど説明したスポーツにとどまらず、脳は人種や会社や国などさまざまなものと自分を同化させて仲間意識を持とうとします。
そして自分の仲間を「内」、それ以外を「外」と区別して、内を外よりも優遇したがります。
「内集団ひいき」が起こる時には、人間は必ず集団を形成します。
ですから「内“集団”」と呼ぶわけです。
そして自分を集団に同化させていきます。
つまり「自分という個人」=「集団」という構図を作り上げるのです。
ではなぜ人間はわざわざ集団を作ろうとするのでしょうか?
“仲間の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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人間は集団に属することで生きのびてきました。
1人では生きのびることはできませんでした。
ですから集団から追放されることは確実な死を意味していました。
1人で十分な食料を調達したり、外敵の攻撃から身を守ったりすることはほぼ不可能でした。
そもそも個人と集団が対立すれば、負けるのはほぼ間違いなく個人です。
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このように生きのびるための必然性から人間は集団を作ってきました。
何人かが集団を形成し始めると、まわりにいた全員があとに続いて集団に加わるしかなくなります。
なぜなら集団に加わらなければ集団の中に居場所を得られないだけでなく、遺伝子プールの中にも居場所がなくなってしまうからです。
わたしたちが集団に属そうとするのは、人類史において「自然のなりゆき」だったのです。
集団が「内」と「外」にわかれた理由
ではなぜ脳は集団を「内」と「外」にわけるのでしょうか?
例えば、職場で同じ地域の出身であったり、高校や大学が同じ部下や同僚がいると、まだよく知らないうちから好印象や親近感を抱きがちになります。
逆に、別の地域の出身であったり、高校や大学が違う部下や同僚に対しては、なんとなく「よそ者」感を感じてしまいます。
最初のスピードスケートの話でもわかるように、スポーツではっきりと「内」と「外」が現れます。
どのようなスポーツでも地元のチームを応援したくなるものです。
逆に他の地域のチームに対しては、無意識的に対立心や競争心を感じやすくなります。
集団が「内」と「外」にわかれるのは、出身地や出身校だけではありません。
性別においてもこの現象はみられます。
特に女性はその傾向が強く出るとされています。
たとえば選挙で女性の候補者がいると、女性は女性の候補者を応援したくなりがちです。
男性よりも女性のほうが良いと感じて、ひいきするわけです。
また年齢においても集団の「内」と「外」は存在します。
自分と同年代の人たちの方が、他の年齢層の人たちよりも身近に感じますし、世の中で活躍している同年代を見ると嬉しくなるものです。
ささいな共通点だけで集団は「内」と「外」にわかれる
集団は、最小限のどうということのない基準をもとにしてでも形成されます。
スポーツで言えば、「自分の出身地のチーム」というだけでそのチームと自分を同化できます。
ビジネスの世界で言えば、「同じ会社で働いている者同士」というだけで集団意識を持つことができます。
ささいな共通点さえあれば集団が「内」と「外」にわかれることは研究で証明されています。
イギリスの心理学者であるヘンリー・タジフェル氏が発表した実験をご紹介しましょう。
無作為に集めたお互いに面識のまったくない人たちにコインを投げてもらい、表が出たか裏が出たかで2つのグループにわかれてもらいます。
そして片方のグループのメンバーに、「このグループにわけられた人は全員、もう1つのグループの人たちは誰も知らない、ある特殊なタイプの芸術を好む傾向がある」と告げました。
すると驚くべきことが起こりました。
お互いのことをまったく知らず、単なる偶然によって寄せ集められ、芸術のことなどまったくわからない人たちで構成されたグループにも関わらず、「同じグループのメンバーを、もう1つのグループのメンバーよりもずっと親近感があり好ましいと感じる」と答えたのです。
必要最小限の共通点さえあれば「内集団ひいき」は生じる。
このことはそのほかの様々な研究者たちによっても証明されています。
脳は「私は他の人よりも 足が速いことが自慢だ」というように,個人間の比較によって自尊心を高めます。
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一方で「私が所属している◯◯大学は××大学よりも野球が強い」というように、自分の所属する集団を他の集団と比較して自尊心を高めることもあります。
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つまり、自分自身と自分が所属する集団を重ね合わせて、集団との一体感を感じる状況で あれば、「内」の良いことが自分にとっても良いことのように感じられ、自尊心が高まるのです。
無意識のうちに「外」よりも「内」をひいきしてしまう
脳はささいな共通点でもそれを見つけると集団を形成したがります。
そして「自分が所属する集団」=「内集団」に属していない人たち、つまり「外集団」に対しては自分たちよりも多様性が低く、無個性に感じるようになります。
外集団同質性バイアスは、「外集団」をステレオタイプ化したり、多集団に対して先入観を持ったりすることで発生します。
ステレオタイプとは、性別や出身地や職業などの特定の集団やカテゴリに対して個人の違いを無視して、1つの特徴でまとめてとらえる現象のことを言います。
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無意識のうちに集団は形成され、そして無意識のうちに集団間に「外」と「内」という隔たりを築き上げ、「内集団ひいき」が生じているのです。
「内」と「外」での感覚のズレ
集団は、先ほどから説明しているようにささいな共通点が見つかれば無意識的に形成されていきます。
そのため集団は「共通の価値観」を持つ者同士で形成されています。
ですから集団のメンバーの意見は、他のメンバーから過剰なほどの支持を受けます。
一方で自分の所属していない「外集団」に対しては敵意にも似た感情が生まれやすくなります。
集団の「内」と「外」でのこのような「感覚のズレ」はとても危険です。
「内集団」の理論や価値基準に慣れすぎると、それが外社会では通用しないことに多くの場合気づかなくなります。
家族が困った時に助け合うのは自然な反応です。
あなたと同じ遺伝子を持つ兄弟や姉妹の成功は、あなた個人にとっても生物学的に成功を意味します。
しかしこの感覚をスポーツに用いると思考の誤りが生じます。
偶然に同じ地域に住んでいる、同じ国に住んでいるという偶然によって形成されただけの集団に家族のような感情を抱かせ、自分の地域や国の選手を応援しなくてはいけない…そんな感情を押し付けるのは思考の誤りと言えるでしょう。
地域や国と個人とのあいだに血縁関係があるかのように思わせるのはいささか危険です。
同じ国の兵士たちを「兄弟」として一体化させるような思考は、「内集団ひいき」の悪用と言えるでしょう。
仲間意識を持つことは良いことなのか?それとも悪いことなのか?
自分の所属する集団を「内」、部外者を「外」と区別して、「外集団」に対して先入観を持ったり反感を抱いたりするのは生物学的にある意味自然なことです。
しかし集団に依存しすぎて、集団と個人を同化していると思考にゆがみが生じてくるのも事実です。
そもそも脳が集団を形成するのは、「外」に敵を作るためではなく、「自分が他者に良いことをすると、その他者自身からだけではなく、他者が所属する集団からも良いことが返ってくる」 からです。
逆に言えば、そうした互恵性が働くからこそ、脳は「内」と「外」 を形成するのです。
「内」と「外」とが協力し合って、仲間意識を持って存在していれば、争いごとなど生じないはずです。
仲間意識は時にプラスに働き、時にマイナスに働きます。
人間は進化の歴史において集団生活に適応するための心の仕組みを身につけてきました。
それは「情けは人の為ならず」の原理による集団内協力をもたらす心理であり、決して「外」の人々を攻撃するような心理ではなかったはずです。
“「内集団バイアス」と「外集団バイアス」の脳科学”のまとめ
仲間意識の良し悪しを決める「内集団バイアス」と「外集団バイアス」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 自分の所属する集団を「内集団」、それ以外を「外集団」として区別して、「内集団ひいき」をするのは人間が生き延びるための脳の本能です。
- ささいな共通点がありさえすれば集団は形成され、「内」と「外」を区別するようになります。
- 「内集団」の中での感覚を「外集団」にも用いようとすると「感覚のズレ」が生じてとても危険です。
- 「内」と「外」にわかれたとしても、「情けは人の為ならず,巡り巡って己が為」の原理を思い出して、正しい仲間意識を生み出しましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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