専門家の予測はなぜ外れてばかりで当たらないのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 外れてばかりで当たらない「予測」をわかりやすく脳科学で説き明かします。
「予測」について考えてみよう
「予測」の脳科学
- 専門家の予測はほとんどが外れで当たらないのが当たり前です。
- 予測がこんなにも当たらないのは「悲観論の存在」と「ブレークスルー」を予測できないことが主な原因です。
- 誰がした予測なのかをしっかりと理解して、当たらない予測に振り回されずに生きていきましょう。
予測
「何かを予測する」と聞いて多くの人が最初に思い浮かべるのは「天気予報」ではないでしょうか?
地域や季節によっても確率は変わってきますが、天気予報が当たる確率は平均するとだいたい75%程度と言われています。
翌日の天気となると当たる確率は80%くらいです。
この数字が高いと感じるか低いと感じるかは人それぞれでしょう。
しかし専門家が提言する予測の中で、天気予報が当たる確率はかなり高い部類に属することは間違いないでしょう。
天気予報の歴史は古く、紀元前340年ころにはギリシャの哲学者であるアリストテレスが天気予報の基礎となる気象学を確立したと言われています。
それから何千年もかけて天気予報は進化を続けてきました。
しかしそれでも当たる確率は75%程度なのですから、いかに予測することが難しいことなのかがおわかりいただけるでしょう。
われわれは未来について、2つのことしか知らない。
1つは、未来は知りえない。
2つは、未来は今日存在するものとも今日予測するものとも違う。
ピーター・F・ドラッカー(オーストリアの経営学者)
いくら専門家でも予測をすることはとても難しいことです。
しかしそれでも多くの専門家が予測をし続け、そして外し続けています。
ではなぜ当たらない予測をし続けるのでしょうか?
そもそもなぜ予測は当たらないのでしょうか?
当たらない予測を前にわたしたちはどのように対処したらよいのでしょうか?
専門家の予測は外れて当たり前
「10年後の携帯電話の市場規模はどのくらいなのか?」
「誰もが自由に宇宙旅行できるようになるのはいつなのか?」
「地球上から石油がなくなるのはいつなのか?」
「10年後の日本の人口はどのくらいかのか?」
わたしたちの生活の中では専門家の予測の嵐が吹き荒れています。
ではこれらの予測はどのくらい信用できるのでしょうか?
この疑問については意外なことに、つい最近まで誰も調べようとはしませんでした。
しかし数年前にアメリカで284人の専門家の82,361個の予測を10年間にわたって調査した結果が報告されました。
結論は「専門家の予測のほとんどは外れていた」というものでした。
特にメディアに頻繁に登場する専門家ほど予言者としては劣っていることが実証されました。
未来を予測する専門家については多くの皮肉がささやかれています。
未来を予測する人は2種類にわけられる。
何もわかっていない人。
そして、何もわかっていないことをわかっていない人。
ジョン・ケネス・ガルブレイス(アメリカの経済学者)
アメリカには経済の専門家が6万人いる。
その多くは経済危機や金利を予測するために企業などに雇われている。
予測が2回立て続けに当たっただけで、彼らは億万長者になれるだろう。
しかしわたしが知る限りでは、ほとんどの経済専門家は億万長者になれずに、相変わらず雇われの身である。
ピーター・リンチ(アメリカの投資家)
この発言は10年前のものです。
今日ではおそらく何十倍もの専門家がいるでしょう。
しかし予測の質は10年前とはほとんど変わっていません。
問題なのは「専門家の予測は外れて当たり前」という発想です。
専門家は間違えた予測をしても代償を払う必要がありません。
罰金を払う必要もなければ、評判を落とすこともほぼありません。
それどころか万一予測が当たれば、世間の注目を浴びて、新たな仕事が増え、雑誌や新聞の記事の執筆依頼を受けたり、著書を執筆して出版したりするチャンスに恵まれるでしょう。
だからこそ専門家はどんどん増殖しています。
専門家が増えれば予測の数はますます増加し、予測の1つが偶然にも当たる確率も高くなります。
予測が当たらない理由
いくら専門家でも神様ではないので未来の出来事を予知することはできません。
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ですから多くの専門家は膨大なデータを集めて、そのデータをあらゆる手段で分析して、未来を予測します。
しかしさまざまな手法を用いても未来を予測することは本当に難しいものです。
理由はいくつかありますが、1つ目は「悲観論の存在」です。
脳はポジティブな情報よりもネガティブな情報に対してより敏感に反応します。
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“悲観論を秘かに喜ぶ”というネガティブなメンタリティが脳の中に一般的な傾向としてあることが、無意識のうちに予測を暗い方向、悪い方向へと誘導しているのです。
そして悲観論が語られる時にはたいていの場合、ネガティブな状況に対して人間は有効な救済法を見つけられないという前提が含まれています。
しかし現実世界では人間は新たな困難に直面するたびに多くを学び対策を講じて乗り越えてきました。
石油危機や地球温暖化などの環境問題に対してはエネルギー対策や環境対策を行ってきたからこそ現在があるのです。
あらゆる問題は対応可能ですし、その対応の結果当初予測された悪い未来も当然変わってきます。
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2つ目の理由は、「ブレークスルー」です。
ブレークスルーとは目の前の障壁となっていた事象を突破することです。
過去の世界に生きる人は未来のブレークスルーを予測することはなかなかできないものです。
たとえばスマートフォンやAIの開発、発展に伴う現代のネットリテラシーは人間が予測できる限界を超えています。
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しかし一方でブレークスルーを当然のように考えるあまり制約要因を考慮しない予測が乱立している事実もあります。
たとえばDNAの技術を使ってクローンを作る技術はすでに可能となっています。
クローンがどんどん産生されていく未来の予測は数々言われています。
しかし現実では社会的道義や倫理観の見地から、クローンの研究は制限されていて予測通りには進んでいません。
その他にもさまざまな理由がありますが、予測が当たらない理由はそう単純なものではないのです。
なにもいい加減な予測をしているから当たらないわけではありません。
実際はその逆で、いろいろな思惑や制約が影響して予測は当たりづらくなっているのです。
ですから予測は内容が複雑になればなるほど、予測する時期が遠くなればなるほど、将来への見通しがぼやけてくるのです。
当たらない予測に振り回されるな
当たらない予測に対応するにはどうしたらよいのでしょう?
大切なことは「予測」に対して疑いの目を向けることです。
先行きの暗い悲観的な予測を聞いたら、まずは笑うことです。
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そうすることでその予測と一歩距離を置いて冷静に考えることができるようになるはずです。
そして自分自身に2つのことを問いかけてみてください。
1つ目の質問は「予測をしている専門家はその予測をすることでどのようなメリットがあるのか?」という問いかけです。
メディアにたびたび登場する専門家の予測は人目をひいて注目されがちです。
しかし彼らの予測はほとんど当たりません。
「当たらない予測をしている専門家は予測することでどれくらいの報酬を得るのだろうか?」
「予測をして生計を立てているような事象カリスマ的な指導者なのだろうか?」
どういう立場の人が予測しているのかをよく見極めてください。
2つ目の質問は「予測をしている専門家の予測の的中率はどれくらいなのか?」という問いかけです。
「この5年でいくつくらいの予測をしたのだろうか?」
「そのうちいくつが当たって、いくつが外れたのだろうか?」
予測に振り回される前に予測をする人を良く知っておくことはとても重要なことです。
わたしは予測しない。
これまでにもしたことがない。
そして、これからも決してしないだろう。
トニー・ブレア(イギリスの元首相)
彼は予測をしないという予測をしています。
人間はそもそも予測することが下手な生き物です。
彼の言葉がそのことを的確に言い表しているのではないでしょうか。
“「予測」の脳科学”のまとめ
外れてばかりで当たらない「予測」をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 専門家の予測はほとんどが外れで当たらないのが当たり前です。
- 予測がこんなにも当たらないのは「悲観論の存在」と「ブレークスルー」を予測できないことが主な原因です。
- 誰がした予測なのかをしっかりと理解して、当たらない予測に振り回されずに生きていきましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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