相手の印象を決めるのは第一印象なのでしょうか?
第一印象に惑わされないようにするにはどうすればよいのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 相手の印象を左右する「初頭効果」と「新近効果」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
脳は第一印象に惑わされる
「初頭効果」と「新近効果」の脳科学
- 「脳は相手を第一印象で認識する傾向がある」という心理効果を「初頭効果」と呼びます。
- 一方で「脳は後から入ってきた情報の方が記憶に残りやすい」という心理効果を「新近効果」と呼びます。
- つまり脳は最初と最後の情報をもとに相手を認識しているわけです。
- 無意識的に行動していると「初頭効果」と「新近効果」に振り回されてミスを引き起こす危険性があります。
- 「初頭効果」と「新近効果」に惑わされないように、途中で受けた印象も意識する工夫を身につけましょう。
脳は最初の見た目や第一印象で他人を判断しようとする癖をもっています。
“第一印象の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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ですから第一印象が悪かった場合、それを挽回するのはなかなか難しいのが現実です。
しかし決して挽回できないわけではありません。
第一印象に失敗しても、目玉となる最大の情報をあえて最後に伝えることで、インパクトを残して印象を挽回することも可能です。
脳は基本的に第一印象に惑わされることがほとんどですが、逆に一番最後の印象に影響を受けることもあります。
相手への印象を状況に応じてうまく使い分けることで、相手への印象は大きく変わってきます。
第一印象で認識する「初頭効果」
初頭効果
『初頭効果(プライマシー効果)』
初頭効果(プライマシー効果, primacy effect)とは、最初に与えられた情報が印象に残って長期記憶に引き継がれやすく、後の評価に影響を及ぼす現象のこと。
情報を並列に扱った場合に起こりやすいとされる。
人物や物事の第一印象が長期間に渡って残るのは、初頭効果の影響である。
「初頭効果」は、ポーランドの心理学者ソロモン・アッシュ氏が1946年に行った印象形成の実験によって提唱されました。
実験は人物の性格を表す形容詞を羅列(られつ)した文章を2つ用意して、それを読んでどのような印象を持ったかを確認するというものです。
あなたに2人の男性を紹介します。
太郎と一郎です。
あまり長く考えずに、「2人のうちのどちらに好感が持てるか」を答えてください。
太郎は、知的で、勤勉で、衝動的で、批判的で、頑固で、嫉妬深い性格です。
一郎は、嫉妬深く、頑固で、批判的で、衝動的で、勤勉で、知的な性格です。
一緒にエレベーターに閉じ込められるとしたら、あなたはどちらの方がいいでしょうか?
もう気づいたかもしれませんが、2人の性格描写は実はまったく同じです。
違いは、太郎はポジティブな形容詞が先に、一郎はネガティブな形容詞が先に記載されています。
脳は「後ろの方に並んだ形容詞」よりも「始めの方に並んだ形容詞」に重きをおきます。
そのため、性格の異なる2人の人間がいるかのように感じられたのです。
太郎は知的で勤勉、一方で一郎は嫉妬深く頑固。
始めの方の性格の特徴が、その後に続く性格の特徴を薄めてしまうのです。
「脳は相手を第一印象で認識する傾向がある」という心理効果を「初頭効果」と呼びます。
「初頭効果」は日常の様々な場面で見られます。
大企業では豪華で非生産的なのエントランスロビーを誇らしげに見せています。
そしてそこで働く人は、いかにも高価そうなスーツに身をまとい、ピカピカに磨き上げられたブランドもののシューズをはいているはずです。
「食品添加物を気にしている方必見」や「スピード感に特化したSNSです」といったキャッチコピーは、最も強調したい強みを最初にユーザーに伝えることで「初頭効果」を発揮しています。
「初頭効果」をうまく使いこなすと、面接やプレゼンテーションや営業などで成果を挙げやすい話術としても活用できます。
最後の印象で認識する「新近効果」
新近効果
『新近効果(リーセンシー効果、終末効果)』
新近効果(recency effect, リーセンシー効果)とは、最後に与えられた情報や直前に与えられた情報が印象に残り、評価に影響を及ぼす現象のこと。
「新近性効果」「終末効果」とも呼ばれる。
より直近の新しい記憶の方が短期記憶に残りやすく、再生率が良い状態である。
「新近効果」は、アメリカの心理学者ノーマン・H・アンダーソン氏が1976年に行った実験によって提唱されました。
模擬裁判を行い、証言の提示順で裁判官の判断がどう変わるのかを観察しました。
証言は弁護側、検事側にそれぞれ6つ用意され、裁判は2通りの方法で進められています。
ひとつ目の方法は、証言を2つずつ順に述べる方法です。
弁護側2証言→検事側2証言→弁護側2証言→検事側2証言→弁護側2証言→検事側2証言
もうひとつの方法は、6つの証言すべてを1度に提示し合う方法です。
弁護側6証言→検事側6証言
このルールに則って模擬裁判をすると、どちらのケースも最後に証言を提示した側が勝利するという結果になりました。
この実験から、脳は複数の情報を元に判断する場合においては、最後に与えられた情報に左右されやすいということが証明されました
「脳は後から入ってきた情報の方が記憶に残りやすい」という心理効果を「新近効果」と呼びます。
「新近効果」は、脳の短期記憶の容量が極めて小さいことから起こる現象で、新しい記憶が入ってくると古い記憶は外に追い出されてしまうのです。
“記憶の仕組みの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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ここまで「初頭効果」と「新近効果」について説明してきました。
一番印象に残したいことを最初に伝える「初頭効果」と最後に伝える「新近効果」は、いわば真逆の心理効果です。
「初頭効果」と「新近効果」の使い分け
「初頭効果」が効果的な場合
「初頭効果」が優勢になるのは、すぐに何らかの対処をしなくてならない場合です。
たとえば先ほどの太郎と一郎の例では、性格描写を聞いたあとに、すぐにどちらに好感が持てるかを判断しなくてはならないので、「初頭効果」が優勢に働きます。
プレゼンテーションの場では、自分の話に対して関心が低い相手はこちらの話を最後まで聞いてくれるとは限りません。
そのため、最も相手にとって重要な話題や情報などを始めにもってくることで、相手の関心を引きつける「初頭効果」が有効となるわけです。
もっと言えば、「初頭効果」は自分の観察力に自信のある人に起こりやすい傾向があります。
自分の観察力に自信があると、最初に抱いた印象が間違っているとは感じにくいため、自信を持って最初から自分の主張をしてきます。
「新近効果」が効果的な場合
「新近効果」が優勢になるのは、時間が経過してから対処をすればよい場合です。
たとえば何週間か前に聞いたスピーチを思い出してみてください。
きっと記憶に残っているのは結論や話のオチの部分だけのはずです。
「新近効果」は相手が自分の話に関心を持っている場合において効果的であり、そのような場合には時間的に余裕を持って話を進めることができます。
ですから、より確実に相手を説得するためには、前半部分に重要度の低い情報、後半部分に重要度の高い情報を持ってきて、「新近効果」を期待するのが有効なのです。
相手の判断を後押しする情報を小出しに提示して、最後に最も強みとなる情報を伝えるのです。
「初頭効果」と「新近効果」をより効果的にする方法
「初頭効果」と「新近効果」はそれぞれ単独で用いるよりも、他の心理効果と組み合わせることでより効果をアップすることができます。
ハロー効果
ハロー効果とは「人やものごとの特徴がその他の要素の評価にも影響を与える心理効果」です。
“ハロー効果の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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簡単に言えば、ハロー効果とは、どこか優れている(あるいは劣っている)点を見つけるとその他においても優れている(あるいは劣っている)と考えがちになる現象です。
ですから最初に良い情報を与えられると、その他の情報もすべて素晴らしいと推測しがちになりますし、その逆もありえます。
自分のスピーチに「この世界で著名な○○先生も推奨(すいしょう)している」といったコメントを添えるだけで、信頼度は間違いなくアップします。
このように、何かしらの権威ある人や組織からの推薦、実証などがあれば、それを全面的に押し出すことで「初頭効果」や「新近効果」との相乗効果が期待できます。
アンカリング効果
アンカリング効果とは、先に与えられた数字や情報(アンカー)によって、その後の判断や行動に影響が及ぼされるという心理効果です。
ですから、アンカリング効果は「初頭効果」の一部であるともみなせます。
アンカリング効果によって、脳は先に知っている情報を基準として、その後の判断を歪(ゆが)めてしまう癖があるので、日常生活においても無意識的に活用されています。
ピーク・エンドの法則
ピーク・エンドの法則とは、脳はあらゆる過去の経験の良し悪しを、もっとも感情が動いた時(ピーク)と、一連の出来事が終わった時(エンド)の印象で判断するという心理効果です。
ですからピーク・エンドの法則は「新近効果」の一部であるともみなせます。
“ピーク・エンドの法則の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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たとえば昔見た映画を思い出してみてください。
きっとストーリーが一番盛り上がったシーンと、ラストのシーンしか思い出せないはずです。
ラストシーンが悲しい終わり方なら悲しい映画、ハッピーエンドであれば楽しい映画として記憶に刻み込まれているはずです。
「初頭効果」と「新近効果」に惑わされるなかれ
「初頭効果」と「新近効果」はうまく使いこなすことができれば、自分の実力以上の効果を発揮して相手に好印象を与えることができます。
多くの場合、脳は第一印象に惑わされます。
つまり「初頭効果」の方が強く働くわけです。
しかし「初頭効果」に惑わされていると、脳は行動におけるミスを引き起こすことがあります。
たとえばテストの採点をしているとしましょう。
たいていの場合は1人ずつ、「問題①」から順番に採点していきます。
ここで「初頭効果」が働くと、最初の方の問題で完璧な解答をして好印象を持った生徒に対しては、その後の解答の評価が甘くなり点数を高くつけてしまう傾向があります。
当然その逆も成り立ちます。
最初の方の問題を間違えまくっている生徒に対しては印象が悪くなり、その後の解答は辛口の採点となるはずです。
この場合「初頭効果」を抑制する方法としては、学生ごとに採点するのではなく、まずはすべての生徒の「問題①」の解答を採点して、次にすべての生徒の「問題②」の解答を採点する…といった方法が効果的です。
しかし残念ながらこの方法はどのような場合にも適用できるわけではありません。
たとえば面接で応募者全員を一列に並ばせて、同じ質問を順番に答えてもらうことは不可能でしょう。
どのような場面でも、「初頭効果」を意識して、最初の印象だけでものごとを判断しないようにすればよいのです。
“判断力の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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良きにつけ悪しきにつけ、第一印象だけで判断を下すことは決して正しいとは言えません。
先入観にとらわれず、その人のあらゆる面を評価するように心がけることです。
第一印象が良くなくても、「新近効果」によって最後に印象が上昇することもきっとあるはずです。
また「初頭効果」と「新近効果」を意識して話の最初と最後だけに集中するのではなく、受け流しがちな話の途中で受ける印象についてもよく考えることが大切です。
そうは言っても頭ではわかったつもりでも、実際にやってみると簡単そうでなかなかうまくできないものです。
たとえばあなたが面接官であったなら、5分おきに評価して点数をつけていってみてください。
そして最終的にその点数の平均点をその人の評価とすればよいのです。
きっと面接の途中で受けた印象も、最初と最後の印象と同様に評価できるはずです。
そのようなちょっとした工夫で相手の印象は大きく変わるはずです。
“「初頭効果」と「新近効果」の脳科学”のまとめ
相手の印象を左右する「初頭効果」と「新近効果」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「脳は相手を第一印象で認識する傾向がある」という心理効果を「初頭効果」と呼びます。
- 一方で「脳は後から入ってきた情報の方が記憶に残りやすい」という心理効果を「新近効果」と呼びます。
- つまり脳は最初と最後の情報をもとに相手を認識しているわけです。
- 無意識的に行動していると「初頭効果」と「新近効果」に振り回されてミスを引き起こす危険性があります。
- 「初頭効果」と「新近効果」に惑わされないように、途中で受けた印象も意識する工夫を身につけましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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