日常の脳科学 脳を科学する

なぜ自分の所有物の価値を高く評価してしまうのか?「授かり効果」の意味を脳科学で探る

2022-02-23

授かり効果-A1

なぜ自分が所有している場合には、それを所有していない場合よりも、その価値を高く評価してしまうのでしょうか?

 

そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。

 

このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。

 

基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。

 

この記事を読んでわかることはコレ!

  • 自分の所有物の価値を高く評価してしまう「授かり効果」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。

 

買う時の価値と売る時の価値が違うワケ

授かり効果-1-min

「授かり効果」の脳科学

  • 「授かり効果」とは、同じものでも「自分のもの」になると、そうでなかった時よりも価値があるようにと感じてしまう現象です。
  • 「授かり効果」は脳の本能なので完全に排除することはとても難しいでしょう。
  • 「授かり効果」にはまり込むと、まだ手に入れてない物でも自分の物のように勘違いして自分の限界を超えた価値をつけてしまい、経済的な窮地におちいることがあります。
  • 「授かり効果」を少しでも減らす方法を身につけて、冷静に物の価値を評価できるように備えておきましょう。

たとえば中古車販売店で掘り出しものの車を見つけたとしましょう。

 

走行距離はまずまずで、外観には傷はなく車の状態は良さそうです。

 

とはいえ提示されている「100万円」は明らかに高く思えます。

 

中古車についていろいろ調べているのでそれなりに知識があるあなたには、この車の価値はどんなに高く見積もっても「80万円」が妥当と思えました。

 

そこで金額交渉を行ったすえ、「80万円」で手に入れることができました。

 

自分のものとなった愛車は乗り心地が最高です。

 

友人に自慢すると、友人もその車を気に入ってしまい、

 

へなこさん
120万円払うからその車を売ってくれない?

 

そのような交渉を持ちかけられました。

 

へなじんさん
すごく気に入っているから売る気はないよ…

 

あなたは友人の申し出をあっさりと断りました。

 

しかしよくよく考えてみると、自分はずいぶんと理屈に合わない行動をとっていること気づきます。

 

「100万円」で売っていた車を、「80万円」の価値しかないと考え、その値段で手に入れたものの、売る時には「120万円」以上の価値があると考えているわけです。

 

”屁理屈の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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冷静に考えれば「120万円」はかなりの高額です。

 

へなお
このような価値判断のズレを「授かり効果(endowment effect)」と呼びます。

 

簡単に言えば「授かり効果」とは、自分が実際に物を所有している場合には、それを所有していない場合よりも、その物の価値を高く評価してしまう現象です。

 

おもちゃを手元にとどめるか交換するかを決める子どもから、発明やアイデアや権利といった無形資産の価値を判断する大人まで、「授かり効果」は誰にでも影響を及ぼします。

 

コンサートチケットから自然環境にいたるまで、あらゆる対象への価値判断に影響を与えます。

 

チンパンジーですら、与えられたエサに対して「授かり効果」を示します。

 

へなお
ではなぜ脳は「授かり効果」という現象を起こすのでしょうか?

 

”価値観の違いの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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へなお
今回は自分の所有物の価値を高く評価してしまう「授かり効果」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしていきます。

 

「授かり効果」の原理

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授かり効果

『授かり効果(保有効果)』 endowment effect

授かり効果とは、対象のものを取得する際の支払意思額(Willingness to Pay, WTP)よりも、その対象物を手放す際の価値(受け取り意思額, Willingness to Accept, WTA)の方を大きいと感じ手放したがらない現象のこと。

売値と買値の乖離、あるいはそれに影響を受ける心理的効果である。

「賦存効果(ふぞんこうか)」「エンダウメント効果」とも呼ばれる。

利益を得るときの幸せよりも損失の痛みの方を大きく感じ、損失が大きいと判断した際に非合理的で感情的な判断を行いやすいという「プロスペクト理論」の応用、あるいは心的構成や質問提示によって意思決定が異なる「フレーミング効果」の一つといえる。

この現象は古くから観察されていたが、1980年にアメリカの行動経済学者Richard H. Thaler(リチャード・セイラー)が論文で初めて「endowment effect」と名付けて用いた。

シマウマ用語集

 

へなお
「授かり効果」を引き起こすとされる主な原理を3つご紹介しましょう。

 

交換の原理

無作為に物を1つ与えられた人は、それと同じ価値の別の物と交換するのを嫌がります。

 

それを証明した研究があります。

 

その研究によると、マグカップを与えられた人のうち、それと同じ価格の大きな板チョコと交換した人の割合はわずか11%でした。

 

逆に大きな板チョコを与えられた人が、それと同じ価格のマグカップと交換した割合も10%にすぎませんでした。

 

価値評価の原理

無作為に物を与えられた人(売り手)がそれを手放す際に要求する最低金額は、通常与えられていない人(買い手)がそれを得るために払ってよいと考える金額の2倍になります。

 

この価値観のズレは、対象物が特殊で抽象的であるほど大きくなるとされています。

 

たとえば宝くじや福引の券は、売り手は買い手に2.1倍の価格を要求します。

 

マグカップや板チョコなどの私的財産には2.9倍の価格を要求します。

 

健康や保全などリスクを低減するための保険には10.1倍の価格を要求します。

 

公共的な財産…たとえば郵便や土地などには10.4倍の価格を要求します。

 

所有の原理

授かり効果は「損失回避」の副産物です。

 

買い手は物を所有していない状態なので、それを獲得すれば利益になります。

 

かたや、売り手は物を所有している状態なので、それを手放せば損失になります。

 

脳は同じ価値の物を得る満足よりも、すでにある物を失う苦痛のほうが大きいため、損失を回避する傾向があります。

 

この視点の違いゆえに、自分が売り手の場合は買い手の場合より物の価値を高く評価してしまうのです。

 

「授かり効果」が引き起こす危険性

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「授かり効果」は、一度何かを所有するとそれを手に入れる以前に支払ってもいいと思っていた以上の犠牲を払ってでも、その所有している物を手放したがらない現象です。

 

しかしここで注意が必要なのは、 “すでに自分のものになっている”場合だけではなく、“もうじき自分のものになりそう”な状況でも「授かり効果」は起こり得ることです。

 

へなお
その典型的な例が“入札”です。

 

入札では「授かり効果」をうまく利用して「勝者の呪(のろ)い」を引き起こしています。

 

入札において最後まで参加し続けている人たちの脳では、その商品を「必ず手に入れて自分のものにする」という気持ちが強く働きすぎて、その商品を「ほぼ自分のものにした」という勘違いが起きています。

 

その結果、まだ手に入れていない商品であっても、自分が手に入れた後にそれを入札にかけたと想定して未来の落札者に対してより高い価値を求めてしまいます。

 

そのため入札金額はどんどんつり上がっていくのです。

 

そして最終的には、自分の予算を超えた金額でも払ってもいいと思ってしまいます。

 

しかもそこには勝ち負けの意識も加わります。

 

入札競争から脱落すると“負け”の気分になるため、あとに引けなくなり「何としてでも手に入れよう」という意識が強く働きます。

 

こうなると、たとえ入札で商品を手に入れて“勝者”となったとしても、自分の限界を超えて高い値段をつけすぎてしまい、経済的な窮地(きゅうち)に追い込まれるてしまいます。

 

へなお
これが「勝者の呪い」です。

 

もし入札で最後まで競り合ったにもかかわらず、商品を手に入れられなかったらきっとがっかりするでしょう。

 

失望感はきっととても大きいはずです。

 

”一か八かの賭けの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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へなお
しかしよくよく考えてみれば、そのような失望感など感じる必要はないのです。

 

なぜならあなたはそもそもその商品をまだ手に入れていないのですから、そこに必要以上の価値を感じる必要などないからです。

 

もし価値をつけたいのであれば、実際に手に入れて気に入ってからゆっくりと自分なりの価値を高めていけばよいのです。

 

「授かり効果」を少しでも減らす方法

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「授かり効果」は言うならば脳の本能です。

 

ですから「授かり効果」を完全に消し去ることはできません。

 

へなお
しかし少しでも「授かり効果」を減らす方法はあります。

 

その方法をご紹介しましょう。

 

価値の視点をずらす

1つ目の方法は、買い手(非所有者)と売り手(所有者)の意識を、通常ならば注目しない情報に向けさせることです。

 

購入する時に、買い手にはその物から得られるであろう価値特性(買うべき理由)を考えてもらうと、対象をより高く評価するようになります。

 

また売り手には受け取るお金(その物を所有することの機会費用)で何をしたいのかを考えてもらうと、物を手放す際に要求する金額が下がる傾向があります。

 

参考価格を提示する

2つ目の方法は、脳が物の価値を評価する際に連想する参考価格を変えることです。

 

物を購入したり取得したり時には、売り手に対して似たような物でも、より価格の安い代替物を連想させると効果的です。

 

逆に買い手に対しては、提供物より価格の高い代替物を連想させれば価値評価が上がる可能性があります。

 

所有感覚を操作する

3つ目の方法は、買い手と売り手の所有感覚をうまく操作することです。

 

買い手にその物を触らせたり、実際に使ってみたりしてもらいます。

 

実際に所有権がまだ自分の手元になくても、その物の価値を体感して所有している自分の姿を想像するだけで、買い手にとってその物の価値はぐっと上がるはずです。

 

逆に売り手に対しては、所有意識を薄れさせるのが効果的です。

 

自分の所有しているものは“宇宙”から一時的に借りただけであり、いつでもすべてをもっていかれてしまいなくなってしまう可能性がある…“決して自分だけのものではない”という意識を持たせることができれば、不必要な価格高騰は防げるはずです。

 

他にも「授かり効果」を減らす方法はいろいろありますが、いずれの方法を用いたとしても、少しでも「授かり効果」に振り回されず冷静に価値を評価できるように脳を鍛えておくことをお勧めします。

 

へなお
「授かり効果」についてもっと知りたい方は、こちらの書籍がお勧めです。

 

 

へなお
ぜひ参考にしてみてください。

 

“「授かり効果」の脳科学”のまとめ

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自分の所有物の価値を高く評価してしまう「授かり効果」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。

今回のまとめ

  • 「授かり効果」とは、同じものでも「自分のもの」になると、そうでなかった時よりも価値があるようにと感じてしまう現象です。
  • 「授かり効果」は脳の本能なので完全に排除することはとても難しいでしょう。
  • 「授かり効果」にはまり込むと、まだ手に入れてない物でも自分の物のように勘違いして自分の限界を超えた価値をつけてしまい、経済的な窮地におちいることがあります。
  • 「授かり効果」を少しでも減らす方法を身につけて、冷静に物の価値を評価できるように備えておきましょう。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

 

今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。

 

最後にポチっとよろしくお願いします。

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  • この記事を書いた人

へなお

▶脳神経外科専門医でアラフィフおじさんの「へなお」です。▶日々脳の手術、血管内治療、放射線治療を中心に某総合病院で勤務医をしています▶一般の方でも脳についてわかりやすく理解していただけるように、あなたのまわりのありふれた日常を長年の経験からつちかった情報をもとに脳科学で探っていきます▶多くの方に脳に興味をもっていただき、少しでもこれからの生活の役に立つ知識をつけていただければと思います!

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