周囲の目が気になって他人と比べてしまうのはなぜなのでしょう?
比較癖を治す方法はあるのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 他人と比べたがる比較癖の意味、理由、治し方についてわかりやすく脳科学で説き明かします。
人間は他人と比較してしまう生き物である
比較癖の脳科学
- 脳が他人と自分を比べるのは生き残るための本能であり無意識の反応です。
- 「他人と比べる」には自分よりも優れた人と比較する「上方比較」と自分よりも劣った人と比較する「下方比較」があります。
- 「他人と比べる」の治し方にはさまざまな方法がありますがまずは自分自身を見つめなおして自分を再認識することから始めてみましょう。
人間は他人と比較してしまう生き物である。
これはアメリカの心理学者であるレオン・フェスティンガー氏の言葉です。
彼は「社会的比較過程論」という難しい理論を提唱しましたが、その中で「人は正確な自己評価を得るために他者と比較をする」と述べています。
たとえば買い物をする時に商品に対する評価基準がない場合に人は他人の考えをもとにして評価する傾向があります。
売れ筋の人気商品や芸能人が使用しているとその商品の評価はぐんと高くなり購買意欲が上がるのです。
“購買意欲の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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また年収や学歴や容姿などは比較対象としてよく使われますが、これらを他人と比較することで優越感や劣等感を感じます。
いずれも「社会的比較過程論」が関係していますが、このように脳はそもそも比較することが大好きな構造になっています。
難しい話はさておいて脳が他人と自分を比較するのは本能であり無意識の反応なのです。
ですから「周囲の目が気になって他人と比べてしまう」のはなにも自分だけではなく誰もがしていることですから自分を責めたり落ち込んだりする必要などないのです。
「他人と比べる」がもたらす心理
他人と比べる場合対象が誰なのかによって心理状態は大きく異なってきます。
実際に「他人と比べる」をよく観察してみるとその対象は大きく分けて2つに分類されます。
1つ目は自分より優れた人と比較する場合…『上方比較』
2つ目は自分より劣った人と比較する場合…『下方比較』
同じ「他人と比べる」でもこの2つでは心理状態が大きく違っています。
たとえばテストで70点をとったとします。
その点数が果たして良い点数なのか悪い点数なのか判断に困りますよね。
100点をとった人と比べれば決して良い点数とは言えないでしょう。
これが上方比較です。
一方40点をとった人と比べればとても良い点数と言えるでしょう。
これが下方比較です。
上方比較がもたらす心理
「上方比較」とは自分よりも実力や実績を上げている人と自分を比較することです。
自分と比べて仕事、勉強、スポーツ、収入、容姿などが自分よりも優っている人は山ほどいるはずです。
自分が一番と思っている人はきっと井の中の蛙ですね…
“井の中の蛙の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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スポーツで日本新記録を出して日本一になっても世界中にはもっとすごい世界記録があるはずです。
またたとえ世界新記録を出してももっと収入が高い人や容姿が優れている人がいるわけで比べ始めたらきりがありません。
ですから上方比較では自分と他人を比べれば比べるほど落ち込みますし不幸になっていきます。
しかし上方比較も決して悪いことばかりではありません。
人によっては自分よりも優れた人と比較することで「あの人のようになりたい」という感情が生まれ、さらにはモチベーションを高め達成への思いをより一層強くしてくれます。
このような考え方を持つことができる人は自分を成長させ多くの成果を成し遂げる可能性が高くなります。
比較対象が自分よりも立場が高すぎたり成果が出せなかったりした時にはなおさらです。
挙句の果てには他人に妬(ねた)みを抱き欠点をあら探しして無意識的に攻撃的になってしまいます。
そしてネガティブ思考のスパイラルにはまり込むことになるのです。
下方比較がもたらす心理
「下方比較」とは自分より不幸であったり優れていなかったりする人と自分を比較することです。
下方比較によって脳は自分より優れていない人を見て安心を得ようとします。
特に自信を喪失していたり落ち込んでいたりする時に脳は下方比較をしたがります。
しかしこのような考え方を続けていることはとても危険です。
なぜなら自分の成長を促すことをしなくなり能力的に劣っている状態を維持することにつながりかねないからです。
このようにネガティブ思考にはまり込んでいきます。
「自分はまだマシだ…」という安心感を得る代わりに「もっと頑張ろう!」という向上心は消え失せてしまいます。
今のダメな自分に対する“ささやかな自己肯定感”が得られるだけです。
しかしわずかであっても自己肯定感を得ることはとても大切です。
特に自分自身が追い込まれて精神的にも肉体的にも病んでしまいそうな状況において下方比較はとても有効です。
時間や労力をあまり必要とせず自分より下の立場の人を見つけることさえできれば下方比較して自分の気持ちを落ち着かせることは簡単にできます。
とはいえその考え方が癖になってしまうといつまでも同じ状況から抜け出せなくなってしまいますので注意が必要です。
“自分より下の人はたくさんいるのだからまあいいか…”という気持ちが優先しすぎると“頑張ろう!”という思考が停止してモチベーションは下がる一方ですし自己成長も起きません。
常に自分よりもダメに見える人ばかりを探していずれは人を見下すようになってしまいます。
最終的には上方比較と同じようにネガティブ思考のスパイラルにはまり込むことになるのです。
「他人と比べる」の理由
上方比較にしろ下方比較にしろ「他人と比べる」ことは利点もありますが大きなリスクを伴います。
最初に「脳はそもそも比較することが大好きな構造になっている」と言いましたがその理由はどこにあるのでしょう?
脳は生命の維持をするためにたくさんの情報を処理していてその情報が多すぎると思考停止状態になってしまいます。
そのため脳は非常に省エネモードで動いています。
突然の脅威があった場合に思考停止状態になっては困ってしまいますのでそれを避けるために常に省エネモードで余裕のある状態を保とうとします。
多数の情報を得て自分で考えて結論を出すよりも他人と比較をして結論を出したほうがずっと効率的で無駄なエネルギーを消費せずに済むわけです。
ですから「他人と比べる」という機能は脳にもともと備わった生き残るための本能なのです。
70点は果たして良い点数なのか悪い点数なのか難しいところです。
そのため人は平均点や偏差値というものを生み出しました。
一人ひとりと比べるよりも平均点や偏差値を使えば全員とあっという間に比べることが可能になります。
その方がずっと楽ですし省エネですよね。
このようにわたしたちは子どものころからすでに平均点や偏差値という「他人と比べる」ための物差しのうえで転がされて生きているのです。
「他人と比べる」の治し方
では脳の本能である「他人と比べる」を治すこと、つまり比較癖をやめることはできるのでしょうか?
「他人と比べる」は生まれつき脳に備わっている機能なので完全に消し去ることは当然できません。
しかしその作用を弱くすることはいくらでもできます。
その方法をいくつかご紹介しましょう。
環境を変化させる
「他人と比べる」ことをせずに自分自身が成長できるような環境で過ごすことがなによりも重要です。
しかし環境を変えると言っても個人の努力ではできることには限界があります。
そのような中で一番簡単な方法は無駄な情報を遮断することです。
現代社会は黙っていても目を閉じていてもどんどん情報が入ってきます。
インターネット、SNS、テレビ、雑誌などなどさまざまな媒体を通して情報が飛び交っています。
先ほど登場した“食べログ”もそうですし特に危険なのは“広告”です。
企業の広告は当然ですが個人的な情報サイトでも「自分、すごいでしょ!」と言わんばかりの広告に踊らされると脳はすぐに影響を受けて比較癖が騒ぎ出します。
デンマークの「幸福度研究所」(Happiness Research Institute)が発表した「Facebook体験」と題する研究です。
デンマークではFacebookが国民的なSNSとして広く受け入れられています。
実験には1095人が参加しました。
この実験の目的は幸福度やSNSの利用頻度を調べてSNSにより他人と比べまくっている人のSNSの利用を強制的に止めたらどうなるのかということを調査することです。
参加者のFacebook利用頻度は、94%は毎日閲覧、78%は毎日30分以上閲覧、69%は日常的に投稿をしているという状況です。
実験期間は1週間で参加者をランダムに2つのグループにわけます。
1つはFacebookをいつも通りに使うグループで、もう1つは1週間Facebookを起動させずに利用を中止するグループです。
実験結果では幸福度に関しては2つのグループに差はほとんどありませんでした。
Facebookを使い続けた人たちのうち55%はストレスを感じ、3人に1人は「#Happy」タグのついた他人の投稿に嫉妬を感じ、39%は友人より幸福でないと感じていました。
つまりFacebookを使ったからといって幸せになれるわけではなく半数以上の人がストレスを感じやすい心理状態になったということです。
また幸福度に関しては差はないと言いましたが正確にはFacebookを続けていた人は幸福度は低下しましたが、使用をやめた人の18%は「幸せを感じやすくなった」と答えています。
たった1週間Facebookを使わなかっただけでこれだけの差が出るのです。
ちょっと驚きの結果です。
しかしこれが現実なのです。
ですから1日中とは言いませんが半日あるいは寝る前の数時間だけでもスマホを見ないで過ごすだけでもあなたもきっと比較癖から抜け出して自分を取り戻せるようになるはずです。
比べる世界から身を引く
他人がしていることは気になりますし、流行っているものはチャックしておきたくなりますし、みんながしていることはやりたくなります。
そして他人と同じような行動をしていたらどうしても「他人と比べる」がしたくなります。
もちろん自分がどうしてもしたいという理由がちゃんとあれば問題ありません。
しかし他人がしているから、流行っているからという理由でする行動は最終的には比較に結びついて無意識的に比べてしまいます。
“いいね”の数ばかり気にして投稿しているといつの間にか“いいね”を稼ぐための内容の投稿ばかりになってしまいます。
他人と比べてどうかではなく自分がしていることに自信と誇りが持てることに打ち込むことが「他人と比べる」機能を弱めることにつながるのです。
人は人吾は吾也とにかく吾行く道を吾は行くなり
日本の有名な哲学者である西田幾多郎の名言です。
自分の道をただひたすら歩めばよいのです。
「自分と比べる」癖をつける
そうはいっても「どうしても比べたい」という人は他人と比べるのではなく自分と比べてみてください。
今の自分がダメだとしても1か月前、1年前の自分と比べたらきっと成長していることに気づくはずです。
逆に過去の自分と比べて成長していなければ今から頑張って1か月後、1年後に結果を出すことを目標にすればよいのです。
そうすると1か月後、1年後には「以前の自分と比べてこんなに成長した」と実感できるはずです。
他人中心ではなく自分中心の考えに切り替えることで見える世界は大きく変わるはずです。
“自己中心の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考自分中心で、愛を叫ぶ~自己中心的であることの意味を脳科学で探る
自己中心的な人ってどんな人? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働い ...
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他人と比べると「自分のマイナスな部分」ばかりが目についてしまいます。
しかし過去の自分と比べると「自分の変化した部分」が浮き彫りにされます。
その中から自分のプラスの自己成長に気づくことで自分に自信が持てるようになるはずです。
他人と比べる前にまずは自分自身を振り返ってみてください。
テレビショッピングで有名なジャパネットたかたの高田明さんの名言をご紹介しましょう。
周囲の誰かと自分を比べても優越感や劣等感が生じて疲れるだけで何の得にもなりませんが、昨日の自分と比べると自分の成長につながります。
「他の人より上」でなく「自分史上最高」を目指せばいいのです
まさにこの精神です。
他人を観察することに注目する
他人ではなく過去の自分と比べるといっても自分の近くに自分よりもできる人、成功した人がいるとどうしてもその人に注意がいってしまいます。
いくら自分が頑張って自分なりに成長したと思ってもそれ以上に他人が成長して成果を出しているのを見ると他人と比べずにはいられなくなってしまうものです。
しかしそんな時こそやるべきは「他人と比べて落ち込んだり妬(ねた)んだりして感傷にひたっているヒマがあるのであれば成功した他人をよく観察する」ことなのです。
「なぜ自分よりも成長して成果をあげたのか?」
「どんな方法で成果をあげたのか?」
「自分との違いはどこにあるのか?」
成長して成果を上げた人、つまり「成功のための教科書」が自分のすぐ目の前にいるわけですからそれを利用しない手はないはずです。
自分と他人を比べてネガティブ思考のスパイラルにはまり込むのではなくよく「観察」するのです。
なんて悪口を言ってはいけません。
むしろそのような人とは徹底的に仲良くなって成功への秘訣を聞き出すのです。
秘訣を教えてくれなくてもその人の普段の行動やよく読んでいる本や生活習慣などを聞き出すだけでもきっと収穫はあるはずです。
どうせ「他人と比べる」ならリスペクトすべし
最後はいろいろやってみたけどやっぱり「他人と比べる」を止められない…そんな人のための最終手段です。
脳は嫌いな相手からは決して学ぶことはできません。
嫉妬心、嫌悪感などネガティブ思考で相手をいくら観察しても自分にプラスになることなど見えてくるはずがありません。
ですからどうせ「他人と比べる」なら思い切って方向転換してひたすらリスペクトしてみてください。
最初はなかなかうまくいかないかもしれません。
しかし無理にでもリスペクトしているとどんな嫌いな相手に対しても多少なりともリスペクトできる部分が見えてくるはずです。
リスペクトは脳に「自分もそうなりたい」という欲求を起こさせます。
すると相手の良い部分、うまくいっている部分、その人独自の工夫などがどんどん目に入るようになります。
相手をリスペクトするだけで相手の長所を無意識のうちに探し出して無意識のうちにマネするようになります。
“マネの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考「ピンチはチャンス」を生み出す勝利の方程式~真似して学ぶ学習法を脳科学で探る
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徹底して観察して徹底的にリスペクトして徹底的にマネするのです。
嫉妬心、嫌悪感などのネガティブ思考からはなにも生まれてきません。
どうせ「他人と比べる」のであればネガティブ思考は捨て去ってあくまでもニュートラル(中立的)な気持ちで「自分にできていないのに相手にできていること」を観察してリスペクトしてマネしてみてください。
そうすればあなたの能力は必ずアップするはずです。
他人の前にとにかく自分自身と向き合おう
「他人と比べる」はそう簡単には治る癖ではありません。
しかしあきらめずにまずはいろいろ試してみてください。
己達せんと欲して人を達せしむ
中国の有名な孔子の言葉です。
「自分が目的を達成しようと思ったらまずは人を助けて人の目的を達成させよう」という意味です。
仁者は何かするときに自分と他人をそもそも区別しないのす。
他人と自分を区別しなければそもそも比較のしようがありません。
必ずしも自分が成長できなくても成功しなくても、他人を助けて他人が成功すれば自分も一緒に嬉しいしそれでよいのです。
ですからすごい人と自分を比べる必要などそもそもないのです。
さすがに達人にはおよばなくとも日常の中で自分と向き合う時間をぜひ作ってみてください。
まずは自分を見つめなおすことできっと新たな自分らしさを再認識できるはずです。
他人と比べたいならそれからでも決して遅くないはずです。
“比較癖の脳科学”のまとめ
他人と比べたがる比較癖の意味、理由、治し方についてわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 脳が他人と自分を比べるのは生き残るための本能であり無意識の反応です。
- 「他人と比べる」には自分よりも優れた人と比較する「上方比較」と自分よりも劣った人と比較する「下方比較」があります。
- 「他人と比べる」の治し方にはさまざまな方法がありますがまずは自分自身を見つめなおして自分を再認識することから始めてみましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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