銭湯サウナで入れ墨、刺青、タトゥーはタブーなのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
入れ墨を脳科学で説き明かします。
銭湯サウナと入れ墨
入れ墨の脳科学
- 銭湯サウナでは、入れ墨、刺青、タトゥーのある人を入店禁止としている施設も少なくはありません。
- 入店禁止とする理由は、銭湯の雰囲気や安全性を保つこと、衛生管理、他の利用客への配慮などが主だったものです。
- 入れ墨に関する脳科学的な研究では、痛みと神経活動の関係、脳内の刺激応答、アイデンティティなどが調べられ、興味深い研究が数多く行われています。
- 最近では、入れ墨が芸術や個人の表現手段として広く受け入れられるようになり、多くの人々が入れ墨を身につけ、自己表現やアイデンティティの一部として楽しんでいます。
- 入れ墨、刺青、タトゥーは脳科学的には1つの個性であり、特別視することなど一切ないのです。
現代の日本では第3次サウナブームによって多くの施設がにぎわっています。
“サウナブームの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考【サウナの脳科学】なぜ今サウナは人気なのか?サウナブームを脳科学で探る
なぜ今サウナはこれほどまでに人気でブームを巻き起こしているのでしょうか? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として20 ...
続きを見る
サウナの醍醐味(だいごみ)は何と言っても、サウナトランス=「サウナでととのう」でしょう。
温かいサウナと冷たい水風呂、休息タイムを繰り返す温冷交代浴では徐々に体の感覚が鋭敏になってトランスしたような状態になっていきます。
トランス状態になると、頭からつま先までがジーンとしびれてきてディープリラックスの状態になり、得も言われぬ多幸感が訪れます。
これがいわゆるサウナトランスであり、そして「サウナでととのう」の状態です。
”サウナでととのうの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考【サウナ好き必見】「サウナでととのう」の意味、方法、効果を脳科学で探る
「サウナでととのう」とは脳科学的にどのような意味や方法や効果があるのでしょうか?? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医 ...
続きを見る
サウナ―達は至高のサウナトランスを味わうためにサウナに通うわけです。
「入れ墨、刺青、タトゥーの方の入場・ご利用をお断りします」
このような張り紙が貼ってあるのをよく見かけます。
入れ墨と聞くと、反社会勢力のイメージを持つ人も少なくないかもしれません。
しかし最近ではおしゃれ感覚で入れ墨を入れている人も増えています。
では、なぜ銭湯サウナでは入れ墨、刺青、タトゥーは入店規制されるのでしょうか?
銭湯サウナで入れ墨、刺青、タトゥーはタブーなのでしょうか?
そもそも入れ墨ってなに?
入れ墨について考える前に、まずは入れ墨の知識を持っておくことが必要です。
入れ墨とは?
入れ墨(いれずみ)は、皮膚に特定の色素を注入して、絵柄や模様を作ることを指します。
入れ墨は、古くからさまざまな文化や民族で行われており、様々な目的や意味を持っています。
入れ墨のプロセスは、通常専用の針や針棒を使って、皮膚の表面から外側の層である表皮と真皮の間に色素を刺し込むことで行われます。
これにより、色素が皮膚内に定着し、絵柄や模様が形成されます。
入れ墨は、個人の信仰や宗教、文化的なアイデンティティの表現手段として行われることがあります。
また、装飾や美的な要素を追求するためにも行われます。
入れ墨のデザインや模様は、個人の選択や好みによって異なり、花や動物、文字、シンボルなどさまざまな要素が用いられます。
入れ墨、刺青、タトゥーの違い
入れ墨は、刺青やタトゥーとも表現されますが、これらには言葉の意味と使用方法によって微妙な違いがあります。
どのような違いがあるのでしょう?
入れ墨(いれずみ)とは
「入れ墨」は、日本の伝統的な文化や歴史に関連している言葉です。
入れ墨は、先ほども説明しましたが、針や針棒を使用して皮膚に色素を刺し込み、絵柄や模様を作る技術やその結果のことを指します。
伝統的な入れ墨は、刺青師(いれずみし)と呼ばれる専門家によって施され、しばしば特定の意味や社会的な地位を示すために使用されます。
刺青(いれずみ)とは
「刺青」も入れ墨と同様に、皮膚に色素を注入して絵柄や模様を作ることを指します。
つまり入れ墨も刺青も同じものです。
最近では言葉的に、「入れ墨」よりも「刺青」の方が多く用いられているかもしれません。
「刺青」は本来は「しせい」と読まれますが、明治43年に谷崎潤一郎が「刺青」という小説を発表して以来、「いれずみ」の当て字として用いられることが多くなりました。
ただし、「刺青」は「入れ墨」に比べて広義の用語であり、主に西洋文化や一般的な文脈で使用されます。
タトゥー(tattoo)とは
「タトゥー」は、入れ墨や刺青の両方を指す広い意味の言葉です。
現代では、日本的な絵や文字の入った和彫りや、手彫りのもの、全身に入っているものに対して「入れ墨」や「刺青」を用い、西洋的な絵や文字の洋彫や、機械で彫っているもの、ワンポイントなど小さめのサイズでファッション的に彫るものに対して「タトゥー」を用いる、と使いわけられていることが多いようです。
ですから「タトゥー」は、個人の表現やアートとしての要素を持つことが一般的です。
入れ墨、刺青、タトゥーの違いを簡単に言ってしまえば、「入れ墨」は日本の伝統的な文化に関連し、「刺青」は広義の用語であり、「タトゥー」は入れ墨や刺青の両方を指す言葉と言えるでしょう。
入れ墨の歴史
入れ墨の歴史は非常に古く、さまざまな文化や地域で行われてきました。
入れ墨の歴史の一部を紹介します。
古代アルプスの入れ墨
古代人の皮膚から入れ墨が確認された例として有名なのは、アルプスの氷河から発見された紀元前5300年頃のアイスマンです。
その体には61か所の入れ墨が確認され、それらは損傷がある骨と関節の位置などを示していました。
古代エジプト:の入れ墨
紀元前4000年頃のエジプトでは、入れ墨が実践されていたとされています
エジプトのミイラ化された遺体の中からは多くの入れ墨の跡が見つかっています。
古代中国の入れ墨
中国では、紀元前2000年頃から入れ墨が行われていました。
入れ墨は社会的な身分や犯罪者の罰として使用されることがありました。
日本の入れ墨
日本では、入れ墨は古代から広く行われてきました。
弥生時代にあたる3世紀の倭人(日本列島の住民)について記した魏志倭人伝によると、邪馬台国の男はみな入れ墨をしていたという記述があります。
また、日本の戦国時代の雑兵が、自らの氏名などを指に入れ墨したケースも知られています。
現在のように,
特定の社会的なグループや組織のメンバーシップを示すために使用され始めたのは江戸時代に入ってからです。
ポリネシアの入れ墨
ポリネシアの文化圏では、入れ墨が広く行われてきました。
マオリ文化やサモア文化では、入れ墨は家族の系統や社会的な地位を示すために重要な役割を果たしていました。
近代の入れ墨
近代になると、入れ墨の人気は上昇し、文化やファッションの一部として広がっていきます。
特に20世紀以降は、タトゥーアーティストやスタジオの普及により、入れ墨が一般的になりました。
近年では、入れ墨が芸術や個人の表現手段として広く受け入れられるようになっています。
多くの人々が入れ墨を身につけ、自己表現やアイデンティティの一部として楽しんでいます。
なぜ銭湯サウナでは入れ墨、刺青、タトゥーは入店規制されるのか?
銭湯サウナは公衆浴場法によって規制されています。
しかし入れ墨、刺青、タトゥーに関する項目はありません。
つまり法律で入れ墨、刺青、タトゥーがある人を入店規制することはできません。
銭湯サウナで入れ墨、刺青、タトゥーのある人を入店規制するのは施設側の思惑のみです。
銭湯サウナの施設で入れ墨の人の入店を禁止する理由は、文化や考え方、地域の習慣によって異なりますが、一般的な理由はいくつかあります。
伝統と風習
一部の伝統的な銭湯では、入れ墨がヤクザや犯罪者と関連付けられ、社会的な問題や暴力行為と結びつけられてきました。
そのため、入れ墨を持つ人々の入店を制限することで、銭湯の雰囲気や安全性を保つことを目的としている可能性があります。
衛生と衛生管理
入れ墨の施術は、衛生管理に慎重な対応が必要です。
一部の銭湯では、入れ墨の人の皮膚には傷や感染リスクがあると考えられ、他の利用客に対する衛生上の懸念から入場を制限することがあります。
公衆浴場法でも衛生管理は義務づけられています。
公衆浴場法によれば、銭湯は施設内の衛生管理に対して十分な注意を払う義務があるとしています。
ですから衛生面での規定に違反した場合や、感染症の予防策を講じなかった場合には、営業停止や罰金などの処罰が課されることがあるので、入れ墨のある人を入店規制するわけです。
他の利用客への配慮
銭湯は多くの人が利用する公共の場所であり、他の利用客の快適さや安心感を考慮する必要があります。
一部の人は入れ墨に対して特定の偏見や固定観念を持っている場合があり、入れ墨を持つ人がいることで他の利用客の不快感を引き起こす可能性があるため、入店を制限することがあります。
しかしこれについては当然逆のことも言えます。
偏見や固定観念を持つこと自体が不快感を引き起こす可能性もあります。
最近では入れ墨の受容が広がりつつあり、そのため銭湯においても制限が緩和されてきています。
入れ墨を脳科学で探る
ここまでは入れ墨の基本的な知識をご紹介してきました。
ここからが本題です。
入れ墨に関連する脳科学的な研究はさまざま行われていますが、その中でいくつかの興味深い研究をご紹介しましょう。
痛みの神経活動
入れ墨を施すときに感じる痛みに関して、脳内の神経回路や神経活動が研究されています。
先ほどご紹介したアイスマンですが、アイスマンは1991年にイタリア・オーストリア国境付近にあるアルプスの氷河から発見されたミイラの呼称です。
5300年前の人体、着衣、道具類が氷漬けになって保存されていたため、超一級の文化遺産とされています。
そのアイスマンですが皮膚にいくつもの入れ墨が見つかっています。
そして驚くべきことに入れ墨が施されている部位は、鍼灸で使われるツボ(経穴)とほぼ一致していたのです。
つまり入れ墨を施す時に感じる痛みが治療として使われていたと考えられます。
脳内の刺激応答
入れ墨が施されると、脳内では感覚刺激や視覚刺激として処理される可能性があります。
脳の特定の領域やネットワークが入れ墨を処理し、それに関連する感情や記憶を呼び起こすという研究が行われています。
入れ墨を施す時には痛みを伴いますが、痛みとは感覚・情動体験です。
皮膚に存在する神経の末梢には、侵害受容器、つまり痛みを起こす刺激…熱の刺激や機械刺激や化学物質による刺激などの受容器があります。
そしてそこからの信号は、背骨の中にある脊髄という神経の束(たば)に伝わり、脳へとかけ上がり、最終的には脳の視床という部分に入っていきます。
視床の外側に行く信号は感覚、つまり痛いという感覚に関わり、内側に行く信号は情動に関わっています。
たとえば、過去に受けた傷の痛みで苦しむ人は、痛いという感覚よりも情動…つまり傷を受けた出来事の情景や光景に苦しんでいることが多いとされています。
つまり痛みが感覚刺激や視覚刺激に置き変わっているわけです。
逆に他人に蹴られて痛いと感じても、蹴った人が好きな人であればうれしいという感情が起こることもあります。
このような場合は痛いと感じても、苦しんではいません。
そのようなことから、入れ墨にも同様の作用があるのではないか、という研究が行われています。
入れ墨を施す時に感じた痛みが、脳に伝わった時に感覚刺激や視覚刺激として処理され、特別感情や記憶を呼び起こすというわけです。
アイデンティティ
入れ墨は個人のアイデンティティの一部としてとらえられることができます。
アイデンティティは、個人が自分の存在や特徴を認識し、他人との関係性の中で自分を理解し定義するための概念です。
アイデンティティには、自分の独自性や一体性、所属意識、価値観、信念、文化的・社会的な属性などが含まれます。
簡単に言ってしまえば、アイデンティティは“自分とは何なのか?”の表現方法です。
ですからアイデンティティは、個人が自分自身を認識し、他人との関係の中で自分の存在を位置づけることによって形成されます。
人間は自己のアイデンティティを通じて、自分自身の存在の意味や目的を見出し、自己価値感や所属感を獲得します。
アイデンティティは多面的な概念であり、様々な要素から成り立っています。
たとえば個人的アイデンティティは、個人の独自性を表す要素であり、個人の性格、能力、興味、嗜好などが含まれます。
社会的アイデンティティは、個人が特定の社会集団や文化的・民族的グループの一員であることを認識する要素であり、国籍、宗教、民族、性別、性的指向、職業などが含まれます。
文化的アイデンティティは、個人が特定の文化や共同体に所属することによって形成されるアイデンティティであり、言語、習慣、伝統、食文化などが含まれます。
また個人の信じる価値観や倫理観、宗教的な信念、政治的な立場などもアイデンティティとなり得ます。
つまりアイデンティティは、人間が生きていくうえで、自分の発展や心理的・社会的な幸福感に影響を与える重要な要素なわけです。
脳科学的な研究では、アイデンティティ形成に関与する脳の領域やプロセスを理解することで、入れ墨が自分自身の意識や自己認識にどのように影響するかが調べられています。
さらには、入れ墨が他人との関係性や社会的な認知にどのように影響するかが探求されています。
例えば、入れ墨があることで人々の評価がどのように変わるのか…差別や偏見、あるいは仲間意識や信頼などといった心理にどのような影響を与えるのか、といったことが研究されています。
入れ墨、刺青、タトゥーがあって銭湯サウナに入ってなにが悪い?
脳科学的に言えば、入れ墨、刺青、タトゥーは1つの個性です。
ですから、入れ墨、刺青、タトゥーがあるからと特別視することなど一切ないのです。
銭湯サウナは多くの人にとってリラクゼーションや癒しの場です。
入れ墨があろうがなかろうが、誰しも日常の疲れやストレスを癒(いや)すために銭湯サウナに行くわけです。
最近では、入れ墨は以前よりもずっと社会的に受け入れられるようになってきています。
銭湯は一般的に多様性や包容のある場であり、入れ墨を持つ人が自分自身を受け入れてくれる環境として好んで選ぶこともあります
また中には、自分の入れ墨を誇示することで、自己の独自性や個性を表現し、他人との差異化を図る心理が働くこともあります。
銭湯への訪問は、自分自身のアイデンティティを受け入れる場として好まれやすいのかもしれません。
先日、ある銭湯の脱衣所で、素っ裸で一生懸命モップがけをしているおじさんがいました。
その人の背中から手足には大きな文様の入れ墨が入っていました。
常連さんのようでしたが、いかにその銭湯を愛しているかがとても伝わり、ほっこり気分になりました。
“マナーの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考【サウナの脳科学】銭湯やサウナでマナーを守らない理由はどこにある?マナーを脳科学で探る
銭湯やサウナでマナーを守らない人がいるのはなぜなのでしょう? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの ...
続きを見る
あくまでも個人的な感想ですが、入れ墨、刺青、タトゥーのある人ほどアイデンティティがしっかりしていて、マナーを守っている人が多いと感じますが、そのような印象を持っている人は少なくないはずです。
“入れ墨の脳科学”のまとめ
入れ墨を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 銭湯サウナでは、入れ墨、刺青、タトゥーのある人を入店禁止としている施設も少なくはありません。
- 入店禁止とする理由は、銭湯の雰囲気や安全性を保つこと、衛生管理、他の利用客への配慮などが主だったものです。
- 入れ墨に関する脳科学的な研究では、痛みと神経活動の関係、脳内の刺激応答、アイデンティティなどが調べられ、興味深い研究が数多く行われています。
- 最近では、入れ墨が芸術や個人の表現手段として広く受け入れられるようになり、多くの人々が入れ墨を身につけ、自己表現やアイデンティティの一部として楽しんでいます。
- 入れ墨、刺青、タトゥーは脳科学的には1つの個性であり、特別視することなど一切ないのです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
最後にポチっとよろしくお願いします。