サブリミナル効果は危険なの?有害なの?なぜ禁止されているの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- サブリミナル効果の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
サブリミナル効果とはなに?
サブリミナル効果の脳科学
- 一般的に知られている「サブリミナル効果」は決して危険なものでも有害なものでもありません。
- しかし脳科学的に見ると「サブリミナル効果」は決して安全とは言い切れません。
- 「サブリミナル効果」を脳科学で説き明かすと閾下単純接触効果や知覚的流暢性といったさまざまな効果が関わっていることが分かります。
- 無自覚に取り込んだ多くの情報が知らず知らずのうちに脳の中でサブリミナル効果を働かせ意思決定に関わっていることを自覚しましょう。
「サブリミナル」とは「閾下」という意味です。
では「閾下」とはどういう意味でしょう?
「閾下」とは音、光、映像、味、触れた感覚、匂いなどの知覚の強さが小さすぎて人の意識には上らない状態のことです。
閾下を利用したのがサブリミナル効果で「知覚できるギリギリの限界値」の刺激によって人に何らかしらの影響を与える効果です。
もっと簡単に言えば「知覚できないほどの短さや音量で映像や音を提示すると、提示された内容に関連する商品の購買意欲が上がる」といった現象で広く知れわたっています。
サブリミナル効果が大衆に知れ渡るようになったきっかけは、アメリカの広告業者のある発表がきっかけです。
ジェームズ・ヴェカリーという市場調査業者が映画である実験を行いました。
映画の上映時に映画フィルムに「コカ・コーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」というメッセージをほんの一瞬(1/3000秒)繰り返し忍ばせました。
その結果コカ・コーラとポップコーンの売り上げが上がったというのです。
つまりサブリミナル効果によって知らず知らずのうちに洗脳されコカ・コーラとポップコーンを買いたくなってしまったのです。
サブリミナルメッセージがない条件とある条件での比較がされていない。
実験の詳細データが残っていない上に論文にもされていない。
1/3000秒だけ映像を投射するという繊細な技術自体当時はまだ開発されていなかった。
以上のことからそもそも実験を行ったという主張自体が虚偽のものであったとも言われています。
しかしサブリミナル効果は瞬く間に世界中に広まりました。
今ではサブリミナル効果は「公の利益に反する」「人を欺(あざむ)こうとしている」などの理由から、1974年にアメリカで禁止され1999年には日本でも全面的に禁止となっています。
しかしサブリミナル効果は決して人体に悪影響を与えるような危険なものでも有害なものでもありません。
それでもサブリミナル効果が禁止されているのは「たとえ知覚できないレベルであっても見たり聞いたりする視聴者側の承諾を得ずに宣伝目的の映像を流すことは視聴者にとって不公平であり視聴者を欺(あざむ)くことになる」という道徳的な観点からでしょう。
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ここまではあくまでも一般論です。
サブリミナルな知覚は確かに脳に備わっている
たとえば買い物をしていて店で同じような商品が並んでいるシーンはよくあることです。
多くの似たような商品の中から1つだけを選んで購入するわけですが、その商品を選んだ本当の理由はどこにあるのでしょう?
「ただなんとなく…」としか言いようがないかもしれません。
強いて言えば「パッケージが気に入ったから」「品質が良さそうだったから」などでしょうか。
知らず知らずのうちに自分の行動の理由にもっともらしい理由付けをしてしまっている可能性はないでしょうか?
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実験参加者に多角形の2つの図形を見せて「どちらの多角形の方がより好ましいか」を聞きます。
何とも奇妙な実験ですが、実は参加者には事前に1/1000秒の間ある多角形の映像を見せています。
映像が短すぎて「多角形を見た」ということを意識することも事前に何か映像を見せられたということを思い出すこともできないくらいです。
それでも多くの参加者は事前に映像で見た多角形の方を選んでいたのです。
Kunst-Wilson WR, et al. Science 207(4430):557-8. doi: 10.1126/science.7352271, 1980.
「閾下」とは先ほど説明したように音、光、映像、味、触れた感覚、匂いなどの知覚の強さが小さすぎて人の意識には上らない状態のことです。
「閾下単純接触効果」をわかりやすく言うならば、もしある人にとって0.05秒程度の映像がギリギリ「何か一瞬見えた」と感じられる長さであるとすれば、それよりも短い映像はその人にとってサブリミナルな映像となり「見えた」という感覚は生じないということです。
実際に脳が「閾下単純接触効果」の影響を強く受けるのは1秒よりも短い時間で何度も同じものを見ない場合です。
逆に言えば映像に気づいてしまった状態では「閾下単純接触効果」は生じにくくなります。
ですから買い物をしていて何げなく選んだ商品にも、もしかしたらサブリミナルな知覚が関わっていて、無意識的に意識決定に影響を及ぼしている可能性は充分に考えられることです。
サブリミナル効果に振り回さるな!
ここまで読み進めてきて多くの人は「ではいったいサブリミナル効果は本当にあるの?ないの?」という疑問を持っているかもしれません。
サブリミナル効果は確かに脳に備わっている能力です。
それは間違いのない事実です。
しかしサブリミナル効果によって購買意欲が刺激されて、ついつい買ってしまうほどの強い効果はありません。
あくまでも選択の段階においてどちらを選ぶのかという意思決定に関してサブリミナル効果が影響しているかもしれない…そんな程度です。
しかしそれだけでもサブリミナル効果はわたしたちの日常にさまざま影響を及ぼしています。
たとえばサブリミナルに提示されたものをただ単に「好ましい」と感じるだけでなく、メロデイはよりまとまりが良く美しく聞こえ、色はより明るく鮮やかに感じます。
この現象を説明する1つに「知覚的流暢性誤帰属説」というものがあります。
なんだかややこしい名前ですが、「知覚的流暢性」とはたとえば以前見たことがある対象に再び接する際は、たとえそのことを忘れていたとしても比較的スムーズに知覚されるという脳の性質です。
「初めて見た」と思っていても実は以前見たことがあるものは無意識的にスムーズに何の障害もなく脳に入ってきます。
その感覚を人は「自分はこれが好きなんだ」と誤って解釈してしまうのです。
本当に初めて見たものであれば「こんなもの好きになるはずない…」と思えるようなものでも、知覚的流暢性が働くと好きに感じてしまう…といったことが起こり得るわけです。
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このようにサブリミナル効果と一言で言っても、脳科学的に言えば「閾下単純接触効果」や「知覚的流暢性」と言ったさまざまな効果が合わさって起きている現象なのです。
ですから多くの人は誰もが知っているであろう「サブリミナル効果」という言葉を使うのです。
そしてその結果「サブリミナル効果」という言葉が独り歩きしてしまいその解釈が曖昧(あいまい)になっているのです。
現代は情報社会です。
テレビやラジオだけでなくスマホを眺めていると、とても多くの情報が目や耳を通して脳に伝えられ蓄積されていきます。
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先ほど説明した「閾下単純接触効果」や「知覚的流暢性」は多くの情報を元にその効果を発揮します。
ですから無自覚に取り込んだ情報がわたしたちの意思決定に思いもよらない影響を与える場合があること、時にはその意思決定が危険や有害なことをもたらす可能性があることを充分に自覚しておく必要があるでしょう。
口では「サブリミナル効果なんて意味ないよ…」なんて言っていても、実はあなたの脳に蓄積された記憶によって知らず知らずのうちに実は「サブリミナル効果」がさまざまな場面で働いています。
くれぐれもサブリミナル効果に振り回されすぎないようにサブリミナル効果を意識して気をつけて生きていきましょう。
“サブリミナル効果の脳科学”のまとめ
サブリミナル効果の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 一般的に知られている「サブリミナル効果」は決して危険なものでも有害なものでもありません。
- しかし脳科学的に見ると「サブリミナル効果」は決して安全とは言い切れません。
- 「サブリミナル効果」を脳科学で説き明かすと閾下単純接触効果や知覚的流暢性といったさまざまな効果が関わっていることが分かります。
- 無自覚に取り込んだ多くの情報が知らず知らずのうちに脳の中でサブリミナル効果を働かせ意思決定に関わっていることを自覚しましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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