「食べ物を落としても3秒以内に拾えば大丈夫!」って本当なの?
そもそもなんで3秒なの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い手術、血管内治療、放射線治療を中心に勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 「3秒ルール」の真実を脳科学で説き明かします。
「3秒ルール」とはどんなルール?
3秒ルールの脳科学
- 食べ物を地面に落とすと3秒以内でもバイ菌だらけになります。
- 脳は3秒を時間の基準としていて「3秒であれば大丈夫」ととらえます。
- 食べ物以外にも世の中には3秒ルールがたくさん存在します。
- 3秒を意識して生きるときっといいことが起こります。
「3秒ルール」とは「食べ物をうっかり地面に落としても3秒以内に拾えばバイ菌がつかないから食べても大丈夫!」というルールです。
日本では3秒ですがアメリカでは5秒が一般的です。
また国によっては10秒だったり0.5秒だったりとさまざまです。
なんて人もいるでしょう。
3秒ルールが始まったのは1970年代ころと言われいています。
1970年代は学校給食が全国に広まり子どもたちが集団でご飯を食べるということが当たり前になった時代です。
集団でご飯を食べていれば食べ物をうっかり床に落としてしまうなんて人も一人や二人いるでしょう。
そんな中で生まれたのが3秒ルールと言われています。
食べ物を地面に落としてしまうと当然食べ物にバイ菌がついてしまいます。
ですから
そう思いますよね。
では次はそんな「3秒ルール」を科学的に調べた研究をご紹介しましょう。
「3秒ルール」とバイ菌の関係
実際に「3秒ルール」について真剣に調べた大学の研究データはたくさんあります。
そのほとんどは落とした食べ物にどのくらいのバイ菌がついてしまうのかという微生物学的な研究です。
その中でもっとも有名な研究はアメリカのラトガーズ大学の食品科学者ドナルド・シャフナー先生らが2016年に発表した論文です。
研究では床面サンプルとしてステンレス鋼、陶製タイル、木材、カーペットの4種類を用意しています。
食品サンプルとしてはスイカ、パン、バターを塗ったパン、ストロベリーグミキャンディを用意しています。
実験はサルモネラ菌を塗った4種類の床に適当な大きさに切った食品サンプルを置く方法で行われました。
床に食べ物を置いてから1秒未満、5秒、30秒、300秒が経過した後に食べ物を拾って菌がどれくらいついているかを調べます。
Robyn C. Miranda, Donald W. Schaffner. Appl Environ Microbiol. 82(21): 6490–6496, 2016.
その結果もっとも菌が少なかった床面サンプルはカーペットでした。
陶製タイルとステンレス鋼では食べ物にそこそこ菌がついていて、木材の床は木の材質や表面によってかなりばらつきが出るという結果でした。
食べ物の種類による違いは水分量がもっとも影響していました。
最もみずみずしいスイカにパンやグミのような乾いた食品よりも多くのバイ菌がついていました。
時間経過の観点からは食べ物の種類や床の材質ほどの違いはないにせよ1秒未満であってもバイ菌は必ずついていて時間が経過すればするほど菌の量は増えていきます。
これが実験結果の概要です。
結論としては
食べ物はどのようなものでも地面に落ちてすぐの時点ですでに大量のバイ菌がついている。
湿った食べ物は乾いた食べ物よりも地面に落とした時には多くのバイ菌がつきやすい。
地面に落ちてからの時間が長いほど多くのバイ菌がついている。
つまり科学的には3秒であれ5秒であれルールとしては間違えている。
まあ当たり前の結果なのですがこの結論を科学的に証明するために2500回以上もの実験を繰り返したというのですから驚きです。
しかしこの研究はあくまでも食べ物を地面に落とした時にどのくらいのバイ菌がつくのかを調べることが目的です。
究極的には食べ物にバイ菌がついたからと言って食べたら必ずお腹をこわして腹痛で苦しむというわけではありません。
つまり3秒ルールの誤りを科学的に証明したからと言って地面に落ちた食べ物を食べるのは必ずしも危険というわけではないということです。
実際に「床に落として多少ほこりがついた食べ物を食べたところで正常な免疫機能が働いている人であれば99%のケースでは安全である」とシャフナー先生も言っています。
また食べ物についたバイ菌の種類によっても状況は変わってくるでしょう。
路上で落とした場合と家の中で落とした場合では当然バイ菌の種類も量も大違いです。
3秒ルールがいまだに存在し続けるのは「多くの人はこのルールが事実であってほしいと心から願っているからだ」とシャフナー先生は言っています。
地面に落ちた食べ物を素早く拾って食べてしまうことは好ましくないと分かっていても誰もがやってしまうことです。
3秒ルールはそのような本来であれば好ましくない行為を正当化して社会的に受け入れてもらうための言い訳として存在しているのでしょう。
「3秒」に隠された真実
ここまでは「3秒ルール」を微生物学的に解説してきました。
落としたものをいくら素早く拾ってもバイ菌はついているので食べるのはお勧めできません。
しかしなぜ「3秒であれば大丈夫」と脳は思ってしまうのでしょう?
1秒でも2秒でもなく3秒である理由はどこにあるのでしょう?
実は「なぜ3秒ルールは3秒なのか?」の理由にこそ3秒ルールの真実が隠されているのです。
脳が時間を処理するメカニズムは完全には解明されておらずいまだ研究の途上です。
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3秒ルールの脳科学
現時点で分かっていることは「脳は3秒以内の長さの時間を正確に処理できる一方で3秒を超えると処理能力を超えて理解できなくなってしまう」ということです。
3秒ルールを脳科学で探った研究もちゃんと存在します。
ある実験をご紹介しましょう。
健常者を対象として0.5秒以上7秒以下の持続時間をもつ光を見てもらい、そのあとでその長さを再現してもらいます。
この課題を光の持続時間をランダムにして繰り返します。
どのくらい正確に光の時間を再現できるかを調べる研究です。
結果は光りの持続時間が3秒以下であれば正確にその長さを再現できます。
しかし3秒を超えた光の長さは再現が不正確となり再現された長さは実際よりも短くなっていました。
「被験者に提示した光の持続時間」と「被験者が再現した時間の長さ」の関係をを図で表すとよく分かります。
3秒まではかなり正確に再現していますが3秒を超えると青のラインは目標であるオレンジのラインを下回るようになっていきます。
この結果からわかることは脳はある程度の時間を一塊(いっかい=ひとつのかたまり)の単位として扱っていてその扱える長さの限界が3秒であるということです。
このように時間を連続する数字としてとらえるのではなく一塊として扱う能力は「時間的統合」と呼ばれています。
ネッカーキューブと言って立方体の骨組みだけを描いた図形を思い浮かべてみてください。
立方体を斜め上から見下ろしたものと斜め下から見上げたものか2通りの見え方があります。
この図形をずっと見ていると3秒間隔で2つの見え方が切り替わることが証明されています。
つまりこの実験でも3秒という時間は脳内の時間処理の一つの基本的な単位になっているわけです。
「同期タッピング課題」と呼ばれる実験です。
規則的に繰り返される音に合わせてボタンを押すという課題をしてもらいます。
音の間隔が3秒以内であれば簡単に音に合わせてボタンを押すことが可能です。
しかし音の間隔が3秒を超えるとボタンを押すのは音よりも遅れてしまいます。
この実験からも時間的統合の限界は3秒であることを証明しています。
なんとも不思議ですが3秒というのは脳にとって時間軸の基準になっていることは間違いない事実です。
先ほども書きましたが脳の中で時間的な情報を処理するメカニズムはまだ完全には解明されていません。
しかしさまざまな研究によって徐々に明らかになりつつあります。
脳の中では1か所だけでなくさまざまな部分が連動して時間の情報をとらえています。
脳の中のある同じ部位に障害を持っている人たちを集めて先ほどの同期タッピング課題を行ってもらい健常者と比較します。
健常者では3秒を超えるとボタンを押すのが遅れていきます。
一方障害を持った人では3秒よりももっと短い時間でボタンを押すのが遅れていきます。
つまり障害されている脳の部分が時間的統合に関係しているということになります。
このように時間的統合に関係している脳の部位はいくつもあり決して1か所だけではないことが分かっています。
まだまだ脳の時間的な情報の処理については未知だらけです。
しかし脳にとって3秒という時間はとても重要なのです。
世界は「3秒ルール」で支配されている
「3秒ルール」と聞くと食べ物を地面に落とした時のルールをまず思い浮かべるでしょう。
しかし世の中には他にもたくさんの「3秒ルール」が存在します。
やる気が出ない時は3秒ルールが有効です。
何かやりたいことややるべきことを思いついたら「3、2、1」と数えてカウントゼロになるまでに行動に移すと人生は好転するというルールです。
アメリカではメル・ロビンス氏が提唱した「5秒ルール」が有名です。
2017年に刊行された「The 5 Second Rule」は全米で100万部を超えるベストセラーになり日本語版も発売されています。
やる気スイッチが入るまでの時間は日本では3秒、アメリカでは5秒という違いはあるもののやはり脳には時間的統合というシステムが備わっているのです。
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面接試験の時にも3秒ルールは存在します。
面接の最初の3秒はとても大切でこの時間ですべてが決まると言っても決して言い過ぎではありません。
最初の3秒の判断は15分面接しても30分面接してもその判断が変わることはほとんどないのです。
熟練の面接官になると人を見抜く「3秒の精度」は格段に上がります。
3秒で判断をしたらあとの時間は自分の判断が正しかったかを確認するだけの時間です。
会話をする時にも3秒ルールは存在します。
会話での沈黙の許容時間は3秒とされています。
3秒以上の間があくと気まずい雰囲気になりかねません。
「話に興味がない」「話を続けたくない」と誤解されてしまうこともあります。
スポーツではバスケットボールには3秒ルールが存在します。
攻撃をしている時に相手のゴール付近の制限区域に3秒以上留まっていると反則を取られて相手ボールになってしまいます。
世の中は3秒ルールで支配されていることがたくさんあります。
脳が3秒を基準にして時間をとらえているのですからある意味当たり前のことなのかもしれません。
3秒ルールの脳科学
脳は3秒までは許せるけどそれ以上時間がたつと何秒でも何分でも同じで許せない。
これこそが3秒ルールの真実なのです。
みなさんもさまざまなシーンで3秒を意識して生きてみてください。
“3秒ルールの脳科学”のまとめ
「3秒ルール」の真実を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 食べ物を地面に落とすと3秒以内でもバイ菌だらけになります。
- 脳は3秒を時間の基準としていて「3秒であれば大丈夫」ととらえます。
- 食べ物以外にも世の中には3秒ルールがたくさん存在します。
- 3秒を意識して生きるときっといいことが起こります。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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