ジャンボ宝くじの当選金額と当選確率はどちらを重視すべきなのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 確率を無視したジャンボ宝くじの当選金額と当選確率の不思議な関係についてわかりやすく脳科学で説き明かします。
ジャンボ宝くじの当選金額と当選確率
確率無視のワナの脳科学
- ジャンボ宝くじの当選金額にばかり目がくらみ当選確率を軽視してしまうのが「確率無視のワナ」です。
- 脳はそもそも確率を直感的に理解する力が弱いのですぐに「確率無視のワナ」にはまります。
- 「確率無視のワナ」は日常にもあふれています。
- 確率の中でも脳は特に「ゼロ」が大好きで「ゼロ」だけを重要視するゼロリスク志向で動いています。
- 高くなり続けるジャンボ宝くじの当選金額にばかり注目せずに当選確率にも注目してリスクの計算をしてみましょう。
ジャンボ宝くじの当選金額と当選確率の不思議な関係について脳科学で説き明かす前にまずは宝くじの当選金額と当選確率について知っておくべき知識を確認しておきましょう。
ジャンボ宝くじの種類
高額当選が期待できる「ジャンボ宝くじ」は現在5種類あります。
2-3月 バレンタインジャンボ
4-5月 ドリームジャンボ
7-8月 サマージャンボ
10-11月 ハロウィンジャンボ
11-12月 年末ジャンボ
ジャンボ宝くじの当選金額
ジャンボ宝くじが最初に登場したのは1979年で1枚200円、1等当選金額は2000万円でした。
購入金額は1980年に1枚300円に値上がりしましたがその後はずっと300円のままです。
しかし1等当選金額はどんどん上昇し現在の最高額は年末ジャンボ宝くじでなんと7億円です。
前後賞を合わせれば10億円です。
ジャンボ宝くじの1等と1等前後賞の当選金額は以下の通りです。
ちなみに1等の当選金額の上限は「当せん金付証票法」という法律でちゃんと決まっています。
最初に上限が設定されたのは1985年で最高当選額はくじ単価の20万倍までとなりました。
宝くじは1枚300円なので賞金の最高額は6000万円ということになります。
1998年に最高当選額がくじ単価の100万倍(上限3億円)となり、さらに2012年には250万倍(7億5000万円)まで引き上げられました。
2015年の年末ジャンボ宝くじでは1等賞金が前後賞を合わせて10億円という大台に達しました。
宝くじの当選金は非課税
日本における宝くじの魅力の1つはなんといっても賞金に税金がかからないことでしょう。
当せん金付証票法では「宝くじは非課税である」と定められています。
いくら頑張って働いてもどんどん税金で引かれていって最終的に手元に残る金額を見てがっかりするなんてことはよくある話です。
しかし宝くじは当選金額がそのまま手に入ります。
ですから仮に10億円当選すれば所得税の支払いや確定申告などの必要もなく10億円がそのままもらえます。
ジャンボミニの登場
ジャンボ宝くじは高額の賞金が非課税で手に入るのでとても魅力的ですが最大の問題は当選確率の低さです。
先ほどジャンボ宝くじの1等の当選確率を見ていただければわかるようにジャンボ宝くじの当選確率は天文学的な数字です。
2008年のドリームジャンボ発売時にジャンボ宝くじ30周年を記念して1等当選金を100万円とした「ミリオンドリーム」が発売されました。
これがジャンボミニの原型となっています。
その後2014年に1等5000万円の「ドリームジャンボミニ」が登場しました。
ジャンボミニの1等と1等前後賞の当選金額は以下の通りです。
ジャンボミニは当選金額はジャンボ宝くじと比べて低いものの当選確率が高いのが最大の魅力で現在はすべてのジャンボ宝くじと同時期に発売されています。
ジャンボ宝くじの還元率と期待値
還元率とは宝くじを買った時に支払った金額の何%が当選金として戻ってくるのかを統計学的に計算して算出された数字です。
そして実際にら戻ってくる金額が期待値です。
実は還元率は先ほどから何度も登場している「当せん金付証票法」で50%以下と決まっています。
実際に現在のジャンボ宝くじ、ジャンボミニの還元率を計算してみると45%程度に設定されています。
ですから当せん金付証票法が改訂されず還元率が50%以下のままで1等当選金額を今以上に上げるためには当選確率を下げるか2等以下の当選金額あるいは当選確率を下げる必要があるわけです。
低額の購入では還元率はなかなか高率にはなりませんが高額購入すればするほど最終的に還元率は50%に近づいていきます。
ジャンボ宝くじを買うことは果たして愚行なのか?
ジャンボ宝くじにしてもジャンボミニにしても当選金額は魅力的ですが当選確率は天文学的な数字です。
日本で1年間に交通事故で亡くなる確率が約30万分の1であることと比較すると桁違いの数字です。
このように考えるとジャンボ宝くじを買うことは「夢をお金で買う」こととも言えるでしょう。
それでも毎回多くの人がジャンボ宝くじを購入します。
なぜ当たる確率が低いとわかっていながらジャンボ宝くじを買うのでしょう?
その謎についてはこちらの記事をご参照ください。
参考【2024年】ハロウィンジャン宝くじの当選確率は?当たる確率が低いのになぜ宝くじを買うのか?
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少しでも当選確率を上げようとして1等当選者を多く出している売り場にわざわざ買いに行く人もたくさんいます。
東京の西銀座チャンスセンターや大阪駅前第4ビル特設売場などは多くの高額当選者が出ていてとても有名な売り場です。
高額当選者が出ている売り場は単にその場所で購入する人が大勢いるので結果的に当選者が多く出るというだけであり決して当選確率が高いわけではありません。
ジャンボ宝くじを買うことが愚行とされる理由は他にもあります。
先ほど説明しましたがジャンボ宝くじの還元率の上限は50%以下と定められています。
現在のジャンボ宝くじの還元率はおおよそ45%程度ですので控除率は55%になります。
つまりジャンボ宝くじの全売り上げ金額の55%は胴元が取っていて残りの45%を当選者で配分するということになります。
競馬の競馬の控除率は75~80%、パチンコは70~90%程度ですのでジャンボ宝くじはとても割に合わないギャンブルと言えます。
まさに一か八かの賭けです。
“一か八かの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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このように考えるとジャンボ宝くじを買うことはお金をドブに捨てるのに等しい愚行と言えるかもしれません。
しかしジャンボ宝くじを買う人は年々増加しています。
一見すると不思議な現象のように思えますがこれは「確率無視のワナ」に脳がはまり込んだ結果でありある意味当然のことなのです。
当選金額と当選確率…重視すべきはどちら?
当選金額と当選確率には不思議な関係があります。
高額の当選金額は低率の当選確率
低額の当選金額は高率の当選確率
ある意味当たり前ですがこの2つのどちらを選ぶかに脳は翻弄(ほんろう)されるのです。
当選金額と当選確率の不思議な関係
ジャンボ宝くじでもっとも当選金額が高いのはなんといっても年末ジャンボ宝くじです。
1等の当選金は7億円、前後賞と合わせるとなんと10億円です。
一方で年末ジャンボミニの1等の当選金は3000万円、前後賞と合わせると5000万円です。
5000万円でも当たればうれしいですが10億円と比べると20分の1です。
当選確率で見るとジャンボ宝くじの1等は2000万分の1、前後賞でも1000万分の1です。
一方で年末ジャンボミニは1等は250万分の1、前後賞は125万分の1で、いずれもジャンボ宝くじの8倍の当選確率です。
この2つの宝くじの比較が難しければもっとわかりやすい比較で考えてみましょう。
1つは10億円が当たる宝くじ。
当たる確率は1億分の1です。
もう1つは100万が当たる宝くじ。
当たる確率は1万分の1です。
あなたならどちらの宝くじを購入しますか?
1つ目のくじに当たればあなたの人生は大きく変わるでしょう。
利息で十分ぜいたくな生活できるようになるので仕事は辞めるでしょう。
一方2つ目のくじでは豪華な海外旅行を楽しんだらそれでお金はなくなってしまうでしょう。
もしかしたら自分の住むマンションすら買えないかもしれません。
客観的に見れば2つ目のくじの方が当たる確率は1万倍高いので魅力的かもしれません。
しかし多くの人が惹かれるのは1つ目のくじでしょう。
つまり脳は「高率の当選確率でも低額の当選金額」よりも「低率の当選確率でも高額の当選金額」を選ぶように仕組まれているのです。
確率を無視してしまう落とし穴
当選金額と当選確率の不思議な関係をもっとわかりやすく解説しましょう。
1972年に行われた電気ショックの有名な実験をご紹介します。
実験参加者を次の2つのグループにわけます。
グループA:「必ず電気ショックを受ける」と伝える。
グループB:「電気ショックを受ける可能性は50%」と伝える。
この2つのグループに対して心拍数、手のひらの発汗具合、緊張の度内などの肉体的な興奮度を電流が流れると思われるタイミングの少し前に測定し比較します。
Monat A, et al. J Pers Soc Psychol 24(2):237-53, 1972. doi: 10.1037/h0033297
結果はおそらく多くの人が予想したであろうものとは違った意外なものでした。
AとBの両者のあいだには興奮の度合いに差が見られなかったのです。
つまり両方のグループはまったく同じように反応し同じような心理状態だったのです。
その後実験ではグループBの電気ショックを受ける確率を20%、10%、5%と下げていきました。
しかしそれでもなおAとBのあいだには差は見られませんでした。
電圧を強めて電気ショックの刺激を上げると両グループともに肉体的な興奮度は高まりました。
しかし両グループのあいだに反応の違いは見られませんでした。
脳は「ある出来事」(たとえば電気ショックの電圧の強さや宝くじの当選金額など)の予想される「結果の規模や程度」には反応しますがそのことが起こる「確率」には反応しないのです。
言い方を変えれば脳は「確率を直感的に理解する力」をあまり備えていないと言えるでしょう。
起こる確率は考えずに結果だけに反応してしまう…これこそが「確率無視のワナ」です。
脳は簡単に「確率無視のワナ」にはまってしまうのです。
「確率無視のワナ」にご用心
脳は当選金額にばかり目がくらみ当選確率には無関心…この「確率無視のワナ」こそが当たる確率が天文学的数字であっても宝くじをつい買ってしまう理由の1つです。
「確率無視のワナ」は実は日常のさまざまなことに関わっています。
リスクの計算をお忘れなく
「確率無視のワナ」にはまるのは、たとえば起業したばかりの企業に投資する時です。
立ち上がったばかりの企業に投資をする時にはその企業が期待しているほど大きな利益を上げる確率がどれほどあるかを割り出すことを多くの場合は忘れています。
たとえ忘れずに計算したとしてもその計算はいい加減になりがちです。
これは何も企業から企業への投資のような大きな話でなくても個人での投資でも同じことです。
多くの素人の投資家は利回りだけを考えて投資先を比較しがちです。
利回り20%の急成長を遂げる企業の株への投資は利回り10%の不動産投資よりも2倍の利益があるように見えてしまいます。
冷静になって分別がつけられればさまざまな側面から2つの投資先のリスクを比較するはずです。
しかし多くの投資家は危険に対する感覚が欠けていて「結果」だけしか見えなくなっていきます。
その結果リスクの計算を忘れてしまうのです。
たとえば大規模な飛行機事故が起きたというニュースを耳にしただけで多くの人は飛行機が墜落する「確率」はほんのわずかしかないことを忘れ「飛行機はとても危険」と考えるでしょう。
人によっては自分が予約していた飛行機をキャンセルする人もいるでしょう。
たとえ飛行機事故が起こった後でも事故が起こる確率は以前とまったく変わらないのにリスクの計算を忘れてしまうのです。
「ゼロリスク志向」のワナ
脳はリスクの計算において「ゼロ」であることをこよなく好みます。
逆を言えば「ゼロ」でなければ1%も10%も100%もみな同じなのです。
グループA:「必ず電気ショックを受ける」と伝える。
グループB:「電気ショックを受ける可能性は50%」と伝える。
AとBの両者のあいだには興奮の度合いに差が見られませんでした。
グループBの電気ショックを受ける確率を20%、10%、5%と下げていってもAとBのあいだには差は見られませんでした。
ではさらにグループBの電気ショックを受ける確率を4%、3%、2%、1%…と下げていったらどうなるでしょう。
最終的にグループBの電気ショックを受ける確率が「ゼロ」%になるまでAとBのあいだには差は見られないのです。
つまりほんの少しでもリスクが残っていればそれが何%であっても同じなのです。
「ゼロ」%でなければ脳は安全とは感じないのです。
同じ大きさの2つの都市における飲料水の浄水処理を比較してどちらを実施するかを判断してみてください。
作業Aを実施すると不衛生な水が原因で死亡する確率が5%から2%に減少します。
作業Bを実施すると1%から0%にすることができ完全に浄化することが可能です。
あなたならAとBのどちらの作業を選びますか?
Roy F. Baumeister. The Cultural Animal: Human Nature, Meaning, and Social Life. Oxford University Press P206, 2005.
多くの人はきっと作業Bを選ぶかもしれません。
しかしそれは間違えた選択です。
その理由がわかりますか?
作業Aを実施すれば死亡率は3%も低下します。
しかし作業Bではたった1%低下するだけです。
作業Aは作業Bよりも3倍も効果があるのです。
よく考えれば簡単な話です。
しかし脳は作業Bの「ゼロ」%という響きについつい吸いよせられて正しいリスクの計算ができなくなってしまうのです。
これが「ゼロリスク志向」です。
「ゼロリスク志向」をジャンボ宝くじに当てはめて考えると当選確率が「ゼロ」%でなければそれが1%でも10%でも何%でもすべて脳にとっては同じなのです。
脳は危険がまったくない「ゼロ」の状態を除いてはさまざまなリスクを正しく判断することがとても苦手です。
ですから脳がリスクを直感的にとらえることができないような状況の時は一度冷静になってきちんと計算しなければならないのです。
脳はジャンボ宝くじに魅了され続ける
起こる確率は考えずに結果だけに反応してしまう「確率無視のワナ」に「ゼロリスク志向」が加わればたとえ当選確率が天文学的な数字であっても脳はジャンボ宝くじに魅了され続けます。
ジャンボ宝くじは当選確率は一向に上がらないのに当選金額だけは上がり続けています。
ジャンボ宝くじに関しては発売が始まった1979年と比較すると1等当選金額は35倍ですが宝くじ自体が始まった1945年の1等当選金額と比較すると約70年で1万倍まで膨れ上がっています。
ロト6のように当選確率がある程度わかっている場合にはリスクの計算は簡単です。
しかしジャンボ宝くじのように当選確率が等数によってばらばらでまた年間を通してのジャンボ宝くじでもそれぞればらばらな状態においてはもはやリスクを推測することは不可能です。
そしてこの「確率無視のワナ」はわたしたちの日常の様々な場面で襲いかかって来てリスクを無視させ行動させようと仕掛けてきます。
直感的に行動することも決して悪いことではありません。
“直感の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考「孤独のグルメ」の“ちょっかんを研ぎ澄ます”に学ぶ~直感と直観の違いを脳科学で説く
「孤独のグルメ」で井之頭五郎さんがお店を探している時の決めセリフ「焦るんじゃない。落ち着け。”ちょっかん”を研ぎ澄ますんだ。」の“ちょっかん”って直感と直観のどっちなんでしょう? そのよ ...
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しかし脳の直感にばかり頼ってリスクを計算せず確率を無視し続けることは避けたいものです。
“確率無視のワナの脳科学”のまとめ
確率を無視したジャンボ宝くじの当選金額と当選確率の不思議な関係についてわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- ジャンボ宝くじの当選金額にばかり目がくらみ当選確率を軽視してしまうのが「確率無視のワナ」です。
- 脳はそもそも確率を直感的に理解する力が弱いのですぐに「確率無視のワナ」にはまります。
- 「確率無視のワナ」は日常にもあふれています。
- 確率の中でも脳は特に「ゼロ」が大好きで「ゼロ」だけを重要視するゼロリスク志向で動いています。
- 高くなり続けるジャンボ宝くじの当選金額にばかり注目せずに当選確率にも注目してリスクの計算をしてみましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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