先入観にとらわれず「ひらめき」の力を簡単にしかも短時間で鍛えるにはどうすればよいのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い、勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 「ひらめき力」を簡単にしかも短時間で鍛えるために知っておくべき「心的制約」と「機能的固着」についてわかりやすく脳科学で説き明かします。
「ひらめき力」を簡単にしかも短時間で鍛える方法
ひらめき力の脳科学
- 「ひらめき力」を簡単にしかも短時間で鍛えるためには「ひらめき」に必要なことを身につけるのではなく「ひらめき」に不要で邪魔なものをいかに切り捨てるかが大切です。
- 脳科学的に「ひらめき」に不要で邪魔なものとは「心的制約」と「機能的固着」です。
- 「心的制約」とは人の問題解決をはばむ無意識的な先入観のことです。
- 「機能的固着」とはあるものにおいて本来の使い方に固執してしまい新たな使い方についての発想が疎外されることです。
- 「心的制約」と「機能的固着」のワナから脳を解放させて「ひらめき力」を鍛えてみてください。
ひらめき力の脳科学
「ひらめき力」を鍛えるためには「ひらめき」に必要なことを身につけるよりも「ひらめき」に不要で邪魔なものをいかに切り捨てられるかの方がずっと大切です。
「ひらめき」に必要なこととは知識であったり経験であったり思考力や発想力であったりさまざまなものが提唱されていますがどれもすぐに身につけられるものではありません。
これらは一般に「ヒューリスティック」と呼ばれています。
「ヒューリスティック」とは簡単に言えば自分の経験則や先入観に基づいて物事を解決しようとする手法です。
“ヒューリスティックの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考知らないと損をする「ヒューリスティック」とは~経験則を脳科学で探る
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しかし時間をかけてヒューリスティックの手法を身につけても「ひらめき力」が本当に鍛えられるかの保証などどこにもありません。
それは自分がすでに持っている「ひらめき」にとって不要で邪魔なものを捨ててしまうことです。
そもそも誰の脳にも「ひらめき力」はもともとちゃんと備わっています。
しかし脳の中には「ひらめき」を生み出す働きがある一方で「ひらめき」が生み出されるのを妨害する働きも存在しています。
ですから脳の中の「ひらめき」が生み出されるのを妨害する働きを停止させ切り捨ててしまえばよいのです。
これであればそう難しくはないはずです。
「ひらめき」にとって不要で邪魔なものとは脳科学的には「心的制約」と「機能的固着」です。
これらを脳の中からうまく切り捨てることができれば誰でも簡単に「ひらめき力」をアップさせることが可能です。
一見すると難しい言葉に聞こえますがそう難しいものではありません。
これを知っているかどうかであなたの「ひらめき力」は劇的に変わってきます。
「心的制約」を脳科学で探る
「心的制約」とは人の問題解決をはばむ無意識的な先入観のことです。
“思い込みの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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「心的制約」のワナ
まずは下の図を見てください。
9個の点が等間隔で配置されています。
これらの9点の上を一筆書きの直線で通らなければならないとしたら最低で何本の直線が必要でしょうか?
ちなみに同じ点を何度通ってもかまいません。
この問題を初めて解く人の多くは「5本」と答えます。
「9点問題」はシンプルに見えますが実は正答率は20%程度の難関なことで有名なテストの1つです。
この問題の難しさは9個の点をバラバラに認識するのではなくそれらから「1つの正方形の箱」を想像してしまうことにあります。
そして多くの人はその「箱」の中に納まるように直線を引こうと考えてしまいます。
このように問題を解くうえで妨(さまた)げになる無意識的なとらわれや先入観のことを「心的制約」と呼びます。
この「心的制約」を取り除き発想の転換をしない限りいつまでたっても箱にこだわり続けて手詰まりの状態になって抜け出せなくなります。
脳は知らず知らずのうちに「心的制約」のワナにはまっているのです。
「ひらめき」に至るまでのプロセスを理解しよう
「頭を柔らかくして考える」ことを英語では”think outside the box”とも言いますがこの熟語は先ほどご紹介した「9点問題」を由来としています。
問題を解くためには無意識的にとらわれてしまう前提を打ち破り
「直線は箱の外に飛び出す」
「直線は点のない所でも折れ曲がる」
そのような発想が求められます。
そのためには「心的制約」から抜け出す必要があります。
ではどのようにして「心的制約」から抜け出して発想の転換をすればよいのでしょう。
それにはまずは「ひらめき」に至るまでのプロセスを理解しておくことが大切です。
脳が「ひらめき」に至るまでのプロセスには「準備」「孵化(ふか)」「啓示」「検証」の4段階あります。
1.ひらめきのための「準備」
「準備」の段階では脳は問題解決に集中し挑戦と失敗を繰り返します。
「9点問題」で言えば箱の内側で試行錯誤している状態です。
そして正解への道筋が得られず手詰まりにおちいります。
2.ひらめきのための「孵化(ふか)」
次に訪れるのが「孵化」の段階です。
「孵化」とは卵からかえる前の温めの時間です。
「孵化」ではぼんやりしたり別の簡単な作業を始めたりするため他人から見ると問題を解いていくための努力を放棄したように見えるかもしれません。
しかし実は「孵化」のあいだも無意識的な努力は継続されています。
3.ひらめきのための「啓示」
「啓示」の段階に到達するとついに「ひらめき」が生み出されます。
「啓示」の状態の脳はある瞬間に「唐突に正解を思いついた」ように感じられそれは驚きや感動を伴うことがあります。
4.ひらめきのための「検証」
最後の「検証」では思いついたアイデアを試してその有効性を確かめる段階です。
以上4つの段階はそれぞれ独立して起こるものではなくお互いに作用しあっています。
ですからどれも大切なステップなのですが「ひらめき」において特に重要なのは意外に思われるかもしれませんが「孵化」の段階です。
しかし「孵化」は「ひらめき」の最終準備の段階であり「孵化」という準備の段階で問題に集中して取り組み問題の基本的構造を理解しているからこそ「啓示」で「ひらめき」が誕生するのです。
「ぼんやり」が生み出す「ひらめき」の秘密
古代ギリシアのアルキメデスは王冠の体積を測定するための方法を入浴している時に浴槽からあふれるお湯を見て思いついたとされています。
先ほど脳が「ひらめき」に至るまでの4つのステップをご説明しました。
そしてその中でも「孵化」が「ひらめき」においてもっとも重要であると説明しました。
「孵化」の段階はある意味「ひらめき」が生まれる前の休憩の時間とも言えます。
たとえばアメリカのある研究では「ひらめき」のための課題を用いて「孵化」の効果について検討しています。
創造性をはかる課題を行ってもらいます。
参加者は課題中に「休憩あり」「休憩なし」の2つのグループにわけられます。
さらにはいったん課題を中断して別の課題(集中を要する課題、またはぼんやりしながらでも取り組める課題)にそれぞれ参加するグループという計4グループにわけられます。
創造性をはかる課題に対してより多くのひらめきをもっとも生み出したグループはどのグループだったでしょうか?
結果は「創造性をはかる課題の途中でいったん休憩を入れ、しかも途中でぼんやりしながらでも取り組める課題にも取り組んだグループ」がもっとも多くのひらめきをもたらしました。
このことは仕事の流れ作業の中に作業に集中する時間とそれを中断する時間を組み込むことで孵化の段階がもたらす効果が意図的に引き起こされること証明していると言えます。
しかし勘違いしてはいけないことはひらめきのためには単に「休憩をとればいい」というものではないということです。
脳がぼんやりとリラックスすることがひらめきには重要なのです。
“パワーナップの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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なにも良いアイデアが浮かばずに煮詰まって休憩をとろうとするのであればスマホを操作したり気になる小説の続きを読んだりするよりも意図的に「何もしない」時間を作ることがより効果的です。
「ひらめき」のためにあくせく知識を詰め込み、経験を積んで、思考力や発想力を身につけることはそう簡単なことではありません。
しかし何もせずただぼんやりとする脳の休憩時間をとるだけで「ひらめき」が生まれるのであればこんな簡単なことはありません。
まずはだまされたと思って試してみてください。
そのように思うかもしれません。
しかしこの発想ができるかできないかが「ひらめき」を生み出せるか生み出せないかの差なのです。
「機能的固着」を脳科学で探る
「機能的固着」とはあるものの使い方についてある特定の用途に固執してしまい新たな使い方についての発想が疎外されることです。
「機能的固着」も「心的制約」と同様に「ひらめき力」においては不要で邪魔なものです。
「機能的固着」のワナ
あなたの目の前に3つの道具があります。
マッチ
ロウソク
箱に入った画鋲(がびょう)
これらの道具だけを使って床に蝋(ろう)を垂らすことなく壁にロウソクを固定するにはどうすればよいでしょう?
なんと1945年にドイツの心理学者であるカール・ドゥンカー氏によって発表されましたがいまだに「機能的固着」の説明の際に用いられています。
答えは箱から画鋲を取り出して画鋲で箱を壁に固定しロウソクを箱の中に立ててマッチで火をつけるというのが正解です。
この問題の鍵はもうおわかりかと思いますが画鋲の入っている箱の用途に気づけるかということです。
箱の持つ「容器」という本来の機能に引きずられてしまうとそれ以外の使い道が思いつけなくなってしまいます。
このような状態のことを「機能的固着」と言います。
「機能的固着」と「ひらめき」の関係
「機能的固着」について説明しましたが仮に脳が「機能的固着」を起こしても別に困らないという人もきっといるでしょう。
そのような意見もあるでしょう。
しかし「機能的固着」のワナから抜け出す力こそ何かに困ったりアイデアが煮詰まったりしたときに「ひらめき」を生み出しブレークスルーをもたらす力になるのです。
日常ではたった1つの正解にたどり着くために必要な思考(収束的思考と言います)ではなく、新しい発想をどんどん出していくタイプの思考(拡散的思考と言います)が求められるシーンが数多くあります。
この拡散的思考こそが「ひらめき」を導き出す力なのです。
たとえば500mlのペットボトルを見てあなたはどのような使い道を思い浮かべることができるでしょうか?
本来の機能は中に液体を入れて持ち運ぶことです。
しかしそれ以外にもペットボトルロケットで飛ばしたり水耕栽培に使ったり水をいれておもりに使ったりいくらでも使い道はあるはずです。
「ひらめき」というとなにか高尚なイメージを持たれがちですがこのような簡単な発想から「ひらめき力」は生み出されていくのです。
「機能的固着」を捨て去らなければ正解には決してたどり着けません。
そして「機能的固着」は意識しなければ決してそのワナから逃れることはできません。
AIも及ばない人間の「ひらめき力」
「人の雇用は数十年後には人工知能(AI)に奪われる」
そのような話をよく耳にします。
“AIの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考人工知能(AI)は人間の脳を超えるのか?~AIができることを脳科学で探る
人工知能(AI)は人間の脳を超えることができるのでしょうか? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの ...
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アメリカでは国内の702の職業を対象にしてその業務のコンピュータ化についての将来的な確率が推定されています。
それによるとコンピュータによる自動化がこの10年か20年以内に可能になる仕事はアメリカの総雇用の半数にも上ると報告されています。
本当に現代の仕事はもうすぐAIに取って代わられてしまうのでしょうか?
わたしたちが日々直面しているちょっとした「想定外」な問題の解決には「ひらめき力」が必要となってきます。
「ひらめき力」については多くの研究者がAIにさまざまな創作活動を行わせ「ひらめき力」を実現させようと日々研究を積み重ねています。
なぜなら「ひらめき力」については先ほど説明した「心的制約」と「機能的固着」以外にも実際には多くの脳の働きが関与していていまだ未解明な部分が多いからです。
今後ますますグローバル化が進み未来の予想が不可能な時代が到来します。
”未来予想図の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考自分の想像する未来予想図はどんな世界?記憶の一貫性バイアスを脳科学で探る
あなたの想像する未来予想図はどんな世界ですか? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き ...
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未知の未来へと急速に変化する時代の流れの中でより重要となるのは従来のやり方にこだわらずに柔軟な発想で時代を乗り切る「ひらめき力」です。
「ひらめき」に関して難しいことを考える必要などありません。
「ひらめき」に必要なことを身につけるよりも「ひらめき」に不要で邪魔なものをいかに切り捨てられるかが「ひらめき力」を鍛えるためには鍵になってくるのです。
“ひらめき力の脳科学”のまとめ
「ひらめき力」を知っておくべき「心的制約」と「機能的固着」についてわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「ひらめき力」を簡単にしかも短時間で鍛えるためには「ひらめき」に必要なことを身につけるのではなく「ひらめき」に不要で邪魔なものをいかに切り捨てるかが大切です。
- 脳科学的に「ひらめき」に不要で邪魔なものとは「心的制約」と「機能的固着」です。
- 「心的制約」とは人の問題解決をはばむ無意識的な先入観のことです。
- 「機能的固着」とはあるものにおいて本来の使い方に固執してしまい新たな使い方についての発想が疎外されることです。
- 「心的制約」と「機能的固着」のワナから脳を解放させて「ひらめき力」を鍛えてみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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