何か物事が起こった時にその原因を突き止めて犯人探しをしようとしてしまうのはなぜなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 犯人探しをしてしまう「単一原因の誤謬」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
誰もがおちいる「犯人探し」
「単一原因の誤謬」の脳科学
- 何か物事が起こった時にその原因を1つに定めて犯人探しをする脳の本能を「単一原因の誤謬(ごびゅう)」と呼びます。
- 「単一原因の誤謬」から抜け出すためには複数の原因の中から自分で解決できるものだけを抜き出して自分自身で修正することが唯一の方法です。
- 脳の本能に抗(あらが)って「犯人探し」はやめてみませんか。
ニュースを見ているとほとんどのケースで専門家たちが登場してきてさまざまな質問をしていきます。
“ニュースの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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たとえば交通事故を伝えるニュースでは、
事故の原因はなんだったのでしょう?
暗い夜道で照明が少なかったことが事故を引き起こした要因でしょうか?
アクセルとブレーキを踏み間違えたことが本当の理由なんでしょうか?
運転手が高齢であったことがそもそもの事故の引き金になっているのではないでしょうか?
とにかく原因を探ろうとする質問がうんざりするほど繰り返されます。
どれも事故の原因としては正しく、そして正しくはありません。
なぜなら交通事故はこれらすべての原因が相まって引き起こされるからです。
しかし脳はそのようには考えません。
単一原因の誤謬
きっと何か見落としていて、原因となる最も重要なことが1つだけあるはず…
この脳の作用を「単一原因の誤謬(ごびゅう)」と呼びます。
誤謬(ごびゅう)とは思考内容と対象との一致しない思惟(しゆい)、判断などのことを言い、真理の反対語です。
簡単に言ってしまえば誤謬とは、”自分が意図しない間違いや誤解”です。
“誤謬の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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「単一原因の誤謬」とは、いくつもの複雑に絡み合った原因によって引き起こされたはずのものを、単一の単純な原因によって発生したと誤解することです。
別名では“因果的過度の単純化”、“因果的還元主義”、“還元的誤謬”などとも呼ばれますがますますわかりづらいですよね。
「単一原因の誤謬」は要するに、何か物事が起こった時にその原因を突き止めて、無理やりでも犯人捜しをしようとする作用です。
「単一原因の誤謬」から抜け出す方法
友人が結婚するのも、ウイルス感染が拡大するのも、AIの発明も、地球の温暖化も…これらの原因は決してて1つだけではありません。
多くの原因が重なった結果として起きています。
このことは明晰な思考を持つ人ならきっとすぐ理解できるでしょう。
りんごは熟すれば地面に落ちます。
ではなぜ落ちるのでしょうか?
地球の引力のせい?
枝が枯れるから?
日の光で乾燥するから?
りんごが重たすぎるから?
強風に揺さぶられたから?
りんごを食べたいと誰かが願ったから?
これらのどれも原因ではありません。
それらすべての理由が重なり合ってりんごは地面に落ちるのです。
これはロシアの作家トルストイの有名な著書「戦争と平和」の一節ですが、まさに的を射ていると言えるでしょう。
脳はどうしたって犯人探しをして、自分に都合がよく、自分が納得できる原因を探し出そうとします。
これは脳の本能ですから誰にも止めることはできません。
たとえばあなたは栄養ドリンクの製作販売責任者で、オーガニックにこだわり、カロリー控えめで、しかも健康増進するような新商品を開発し、売り出したとしましょう。
しかしその商品はまったく売れず、明らかな失敗作になってしまいました。
ではその原因はどこにあるのでしょうか?
ここで重要なことは自分に都合がよく、自分が納得できる原因ばかりを考えるのではなく、考えられる原因をとにかく紙に書き出してみることです。
原因は決して1つではないはずです。
たくさんの原因の中から真の犯人を見つけ出そうとしても、それは何の意味も持ちません。
ただの自己満足で終わってしまいます。
あなたもきっとそのことに気づいているはずです。
しかし責任逃れから、「自分に都合がよく、自分が納得できる原因を探し出して、なんとか上司から怒られないようにしよう」…そんな浅はかな考えに引きずられてはいけません。
紙に書き出したたくさんの原因を、線を使って関連図として整理してみましょう。
またそれぞれの原因の背後因子についても紙に書き出して、同じように線を使って関連図として整理してみましょう。
すると失敗の原因として考えられる要素のつながりを理解できるはずです。
そしてその中であなた自身が自分の力で解決できる原因には〇印をつけ、あなた自身では解決できない原因には×印をつけて削除してみましょう。
仕上げは、〇印をつけた原因をあなた自身の力で解決していってください。
この作業にはそれなりの時間と労力が必要です。
しかし脳の本能である「単一原因の誤謬」から抜け出すには、この方法が最適で確実な方法です。
「犯人探し」という浅薄な推測の沼からはい上がるためにはこの方法しかありません。
「犯人探し」よ、さようなら
「単一原因の誤謬」という「犯人探し」は何も新しいことではありません。
ずっと昔から脳の本能としてわたしたちに寝ずいてきたいわば悪しき風習です。
そもそも冷静に考えれば、“何か物事が起こった時にその原因が1つしかないなどということはあり得ない”ということは誰でも理解できるはずです。
しかし脳の本能というものは恐ろしいもので、「単一原因の誤謬」の作用によって、成功も大惨事も誰か一人のせいになり、その人は“功労者”あるいは“悪の元凶”という烙印を押されるのです。
起きた出来事の責任を負わせるための「犯人探し」は理屈的には馬鹿げていますが、権力を行使するには最適の手段です。
「犯人探し」で“犯人”になった人を、賞賛するか、あるいは生贄(いけにえ)にして罰を与えるかをすることで事件が解決するのであれば、こんな簡単なことはありません。
人間はこの愚かな「犯人探し」のゲームを何千年も繰り返し続けてきたのです。
アメリカのシンガーソングライターであるトレイシー・チャップマンは「単一原因の誤謬」を「Give Me One Reason」(理由を1つ教えてください)という歌にして大きな成功をつかみ取りました。
しかしこれもまた「単一原因の誤謬」かもしれません。
なぜなら彼女が成功した理由は、この曲のお陰だけではなく、きっとももっとたくさんの理由があるはずだからです。
“「単一原因の誤謬」の脳科学”のまとめ
犯人探しをしてしまう「単一原因の誤謬」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 何か物事が起こった時にその原因を1つに定めて犯人探しをする脳の本能を「単一原因の誤謬(ごびゅう)」と呼びます。
- 「単一原因の誤謬」から抜け出すためには複数の原因の中から自分で解決できるものだけを抜き出して自分自身で修正することが唯一の方法です。
- 脳の本能に抗(あらが)って「犯人探し」はやめてみませんか。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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