つい他人と同じ行動をとってしまうのはなぜなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- つい他人と同じ行動をとってしまう「社会的証明」の原理と効果についてわかりやすく脳科学で説き明かします。
「社会的証明」の法則とは?
「社会的証明」の脳科学
- 「社会的証明」とはある状況下では自分よりも他人の判断を頼りにしてしまうという法則です。
- 「社会的証明」は人間が進化の過程で生き残っていくために獲得した原始的な原理です。
- 「社会的証明」は時に効果的ですが、時にワナにはまり込むことがありますので注意しましょう。
社会的証明
『社会的証明』とは「他人と同じように行動するのが正しい」と思ってしまう現象のことです。
自分の判断より周囲の人たちの判断を頼りにしてしまう…そのような状況に遭遇したことがきっとあるはずです。
まさに他人頼みです。
しかし脳は社会的証明をこよなく好み、そのワナにはまっていきます。
実際に日常生活には社会的証明があちこちで見られます。
大勢の人が新型iPhoneを非常に魅力的だと思い、そのために行列に並ぶことにかなりの長い時間を費やすという事実は、そのスマホの価値に対するわたしたちの印象に大きな影響を及ぼして欲しくてたまらない気持ちにさせます。
コンサートで見事な演奏が終わると誰かが拍手を始めます。
すると会場全体が拍手喝采(かっさい)に包まれます。
そしてあなたも一緒に手をたたくでしょう。
テレビショッピングで「お電話お待ちしております」と聞くとオペレーターが消費者からの電話を今か今かと待ち構えているような印象をあたえます。
ところが「電話が繋がらない場合は~」と付け加えることで大勢の消費者が電話を一斉にかけていてオペレーターが手一杯な印象を受けます。
すると電話を多数の人がかけているから自分もかけなくてはと思ってしまいます。
「視聴者に電話を促(うなが)す」という主張ひとつとっても一言付け加えるだけで社会的証明が働き大きな影響をあたえ結果は全然違ってきます。
「○○人」という具体的な数字を出すこともとても効果的です。
大勢の人が買っていると思わせ新たな消費者を獲得できます。
コンサルティングでは「1000人の指導実績」など具体的な人数の実績を出す社会的証明の法則を使った誘導テクニックはよく見られます。
寄付や募金ではあらかじめ見せ金としてある程度のお金を箱に入れておきます。
これは「他の人が寄付しているからあなたも寄付することが正しい」と相手に思わせて寄付を促す誘導テクニックです。
“寄付の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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このようにわたしたちは知らぬ間に多くの社会的証明にあやつられて生きています。
多くの人が正しいと感じていればいるほどその考えは正しいと思い込んでしまうものです。
たとえそれがばかげたことでも正しいことになってしまうのです。
“思い込みの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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社会的証明はファッションの流行、マネジメント・テクニック、余暇の過ごし方、宗教やダイエットなどなどあらゆるジャンルで用いられています。
ではなぜわたしたちは社会的証明にあやつられてしまうのでしょう?
「社会的証明」の原理とは?
社会的証明の歴史はとても長いです。
社会的証明という法則は1950年にアメリカのソロモン・アッシュという心理学者がある実験を行い証明されました。
「人間は集団になるとどのくらい冷静な判断ができなくなるのか?」
このことを実証することで社会的証明を調べたのです。
被験者には最初に1本の線を見てもらいます。
その後さまざまな長さの線を見てもらい、最初に見た線よりも長いか、短いか、それとも同じ長さなのかを判断してもらいます。
とても単純な実験です。
被験者は1人で実験をしている時には見せられた線の長さを正しく判定します。
その後7人のサクラと一緒に実験を行ってもらいます。
被験者には7人がサクラであることは知らせていません。
サクラは次々と誤った回答をしていきます。
見せられた線が最初の線よりも明らかに長くても「短い」と答えます。
すると被験者の30%はサクラと同じように誤った回答をするようになるのです。
心理的な圧力がかかっただけでサクラにつられてしまうのです。
社会的証明の原理は「人間の進化の過程」において生き残るために有効な作戦であることです。
“人類史の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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たとえば5万年前、あなたは狩りをするために仲間と一緒に大平原を歩いていたとします。
すると突然仲間が走り出しました。
さて、あなたはどうしますか?
仲間と一緒に走り出すでしょうか?
それともその場に立ちつくすでしょうか?
自分が先ほど見たのはライオンだったのか?
それともライオンに似ている危険のない動物だったのか?
このように頭の中で記憶がぐるぐるかけめぐるでしょうか?
きっとあなたは仲間を追って全力で走り出すはずです。
じっくりと考えることは後からでもできます。
とりあえず安全な場所まで逃げてからあれこれ考えればいいのです。
しかし中には走り出さずにその場に留まった人もいたはずです。
その人はどうなったでしょう?
きっと走り出さなかった人は消えていき後世に遺伝子を残せない結果となるでしょう。
つまり仲間と同じ行動をしていれば生き残ることができたのに、それに逆らう行動をとったばかりに命を落とすことになります。
こうした行動パターンは人間の奥深い部分にしっかりと根付いているものです。
生き残ることとは関係ない場面でも脳が他人と同じように行動してしまう「社会的証明」はこうした人類史の原理が脳に染みついているからなのです。
「社会的証明」の効果とは?
たとえばあなたは見知らぬ街で行われるサッカーの試合のチケットをもらいました。
最寄り駅に着きましたが競技場がどこにあるかわかりません。
しかしサッカーファンとわかる人たちの流れに身を任せて歩いていけば競技場にたどり着けるはずです。
お笑い番組やトークショーではここで観客を笑わせたいという場面にうまくサクラの大きな笑い声や効果音が入り、笑いが誘導されています。
コマーシャルでははっきりと目に見える長所や短所がない “あなたやわたし”のようなどこにでもいそうな普通の人が登場することで安心感をあたえ購買意欲をそそってきます。
”好感度の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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このように同調圧力によってみんなの意見に流されて無条件に物事を受け入れる現象を「バンドワゴン効果」と呼びます。
“バンドワゴン効果の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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企業が自社商品を「一番売れているから優れた商品である」と主張する場合には注意が必要です。
「一番売れている」というだけでどうしてその商品が他の商品よりも優れていることになるのでしょう?
「たとえ5千万人が間違ったことを正しいと主張したところで真実にはならない」
サマセット・モーム(イギリスの作家)
他人と同じ行動をとってしまうのはとても楽なことです。
しかし他人に流されすぎず時には立ち止まってじっくり考えることも忘れてはいけません。
“「社会的証明」の脳科学”のまとめ
つい他人と同じ行動をとってしまう「社会的証明」の原理と効果についてわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「社会的証明」とはある状況下では自分よりも他人の判断を頼りにしてしまうという法則です。
- 「社会的証明」は人間が進化の過程で生き残っていくために獲得した原始的な原理です。
- 「社会的証明」は時に効果的ですが、時にワナにはまり込むことがありますので注意しましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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