相手に誤解されやすい、理解してもらえない、分かってもらえないのはなぜなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 誤謬(ごびゅう)を犯さないために「三段論法」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
誤謬(ごびゅう)を犯さないための「三段論法」
三段論法の脳科学
- 自分が意図しない間違いや誤解を避けるには三段論法を理解して実践することが大切です。
- 多くの意味を持つ言葉はより注意をはらって使う必要があります。
- 感情が絡む言葉は誤謬を生み出しやすくなります。
- 三段論法はあくまでも3つの概念で展開すべきで4個目の概念には注意しましょう。
「相手に誤解されやすい、理解してもらえない、分かってもらえない」…そのように感じたことがある人は少なくないでしょう。
言葉を重ねて一生懸命説明しているはずなのにどこか空回りしてなかなか自分の意見が伝わらない…なんとももどかしいですよね。
そのようになってしまうのは言葉の使い方や文章の作り方に何かしらの問題があるからです。
しかしそう言われてもそもそも
そのように思っている人がほとんどかもしれません。
誤謬(ごびゅう)とはなにか?
多くの人は聞いたことがないかもしれません。
「誤謬」を辞書で調べてみてもよくわからないかもしれません。
簡単に言ってしまえば「誤謬」とは自分が意図しない間違いや誤解です。
「詭弁」は「詭弁を弄(ろう)する」という言葉で時々使われます。
「弄する」とは、「もてあそぶ」「欺(あざむ)く」という意味です。
ですから「詭弁を弄(ろう)する」とは「意図的に仕向けられた道理に合わない間違った議論」といったところでしょうか。
このように「詭弁」は聞いたことがある人が多いかもしれませんが「誤謬」はあまり耳にしない言葉ですよね。
しかしあまり聞いたことがない言葉であっても実は気づかぬうちにわたしたちのすぐ身近で起きている物事もたくさんあります。
「誤謬」はまさにそんな言葉です。
わたしたちはこの「誤謬」によって「相手に誤解されやすい、理解してもらえない、分かってもらえない」という現象を引き起こしているのです。
三段論法とはなにか?
三段論法とは「異なる2つの前提となる命題から結論となる1つの命題を導き出す」という文章展開の基本の手法です。
もっとわかりやすく言えば「誰もが正しいと思える事実を起点として妥当な結論を導き出す手法」です。
前提となる命題は時に「大前提」と「小前提」に分けられます。
大前提とは一般的な事象や絶対的な事実
小前提とは具体的な事実
この2つの前提をもとに結論を導き出すわけです。
前提1:雨が降っている日は蒸し暑い。
前提2:今日は雨が降っている。
結論:したがって今日は蒸し暑い。
こんな感じです。
一見するとなんとも当たり前の文章ですが「三段論法」は文章の基本的あり論理的で説得力のある文章を作るには大切な手法です。
三段論法には応用編がたくさんあり三段論法をうまく使いこなすことでより相手に理解しやすく伝わりやすい文章を作ることが可能となります。
たとえば先ほどの文章ですが
結論:今日は蒸し暑い。
前提1(理由):なぜなら雨が降っている日は蒸し暑く、
前提2(証拠):今日は雨が降っているからだ。
このように順番を書き換えるだけで相手に何を言いたいのかがよりわかりやすくなります。
そのためには三段論法をしっかり理解していなければなりません。
三段論法の使い方を間違えると誤謬を犯して自分が意図しない間違いや誤解を招いてしまいます。
言葉の意味の取り違え~「多義の誤謬」のワナ
同じ言葉でも言葉にはいろいろな意味があります。
一見わかっていそうで実はちゃんと理解していなくてわかっていないことはたくさんあります。
そんな言葉の多義によって「相手に誤解されやすい、理解してもらえない、分かってもらえない」といった現象はよく起こります。
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ある学生の会話をみてみましょう。
この会話を見てどう思うでしょうか?
最後は「何言ってんだよ…」と突っ込んでいますがへなぞうさんの言葉は推論の形式としては決して間違えてはいません。
推論の前提がいずれも真であり真な命題に対して正しい推論を展開したにも関わらず明らかに間違えた結論が導かれています。
この会話を「三段論法」に当てはめてみましょう。
三段論法とは先ほどご説明した「異なる2つの前提となる命題から結論となる1つの命題を導き出す」という文章展開の手法です。
前提1:財産があれば働かなくていい。
前提2:親友は財産である。
結論:したがって親友がいれば働かなくていい。
前提1と2は決して間違えたことは言っていません。
したがってそこからは正しい結論が導かれるはずです。
それは前提の中で言葉を多義的に使っているからです。
ここでは「財産」という言葉が多義的に用いられています。
「財産」の意味はいくつかあります。
1つ目は文字通り「お金」です。
2つ目は「貴重な価値を備えたもの」という意味で比ゆ的な意味です。
この前提の段階で同じ言葉を異なる意味で使ってしまうとおかしな結論がでてきてしまうのです。
このように複数の意味を持つ言葉はたくさんあります。
ですから多義の誤謬は日常でもよく起こります。
たとえば「適当」。
「適当」は「ほどよく当てはまる」と「いい加減」という異なる意味を持ちます。
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「結構」もそうです。
「結構」は「申し分ないこと」と「十分」という異なる意味を持ちます。
「相手に誤解されやすい、理解してもらえない、分かってもらえない」と感じた時は自分や相手が多義の誤謬におちいってないか疑ってみることが大切です。
置き換えの知識不足が引き起こす取り違え~「覆面男の誤謬」のワナ
みなさんは「スパイダーマン」を見たことがあるでしょうか?
普段は普通の青年であるピーターが時に正義の味方であるスパイダーマンに変装して悪を倒して活躍するという設定の映画です。
ある女性は知り合いであるピーターがスパイダーマンであることを知りません。
彼女は知人から「あなたはスパイダーマンと知り合いなの?」と聞かれます。
しかし彼女はピーターがスパイダーマンと同一人物とは知らないので「スパイダーマンと知り合いではない」と否定します。
三段論法を用いてみましょう。
前提1:ピーターはスパイダーマンである。
前提2:彼女はピーターと知り合いである。
結論:したがって彼女はスパイダーマンと知り合いである。
このように考えると彼女が「スパイダーマンと知り合いではない」と否定してしまうのは間違いになります。
では「スパイダーマンと知り合いではない」と否定した彼女の何が間違えているのでしょう?
まずは「ピーターはスパイダーマンである」という絶対的な大前提があります。
そして次に「彼女はピーターと知り合いである」という小前提があります。
この小前提の「ピーター」を「スパイダーマン」に置き換えると「彼女はスパイダーマンと知り合いである」となるわけです。
この置き換えは大前提と小前提で示されている絶対的な事実のもとで行われているので決して間違えではありません。
ただ彼女がその事実に気がついていないというだけで結論としては正しいことになります。
このように置き換え可能な命題を「外延的な命題」と言います。
外延的な命題の置き換えは本人が前提を知らなくても成り立ってしまうので誤謬が生じやすいのです。
置き換え可能な命題があるということは置き換えができない命題も当然存在します。
置き換えができない命題は「内包的な命題」と言います。
たとえば「信じる」「愛する」「望む」「疑う」などが含まれる命題です。
これらの言葉の特徴はその行為を行う人のとらえ方や見方が文章に大きな影響を与えるというところにあります。
前提1:ピーターはスパイダーマンである。
前提2:彼女はピーターを愛している。
結論:したがって彼女はスパイダーマンを愛している。
多くの人はこのような展開にはちょっと無理がある…と感じるのではないでしょうか?
「愛する」という言葉を含むことで内包的な命題となり置き換えをすることができなくなり思いがけない問題が生じます。
「彼女はスパイダーマンのことをどのように思っているのか?」
という問いに明確な答えは出せません。
「彼女はスパイダーマンを愛している」
「彼女はスパイダーマンを愛していない」
「どちらでもない」
3つの答えの候補があるわけですがどれを選んでも決して正解とは言い切れません。
「愛する」という感情が絡んでくると物事は複雑となりそう簡単にはいかなくなるのです。
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愛することを「それは間違いだ」と否定されたり、愛していないのに「愛しているはずだ」と不当に責められたりする場面は誰にでもあるはずです。
こんな時はその原因を自分や他人の至らなさに求めてしまいがちです。
しかし実際はそうではないことがほとんどです。
「覆面男の誤謬」を知ることで誤謬の原因が「置き換えの知識不足にあるのではないか…」と別の観点から問題をとらえれることができるようになるはずです。
余計な概念が引き起こす取り違え~「四個概念の誤謬」のワナ
ここまで説明してきたように何げない日常会話にも三段論法は無意識的に用いられています。
そして正しい三段論法の知識を身につけることで多くの誤謬を回避することは可能になります。
しかし裏を返せば三段論法を誤った方法で用いると簡単に誤謬は犯されていきます。
それは「三段論法で用いる概念は3個だけ」というものです。
そのように思う人も多いかもしれません。
しかし実際には余計な概念が追加されている状況は決して少なくありません。
次のような状況を考えてみてください。
前提1:雨が降っている日は蒸し暑い。
前提2:今日は雨が降っている。
前提3:今は梅雨の季節です。
結論:したがって梅雨の季節は蒸し暑い。
何となく正しいような気がして聞き流してしまいそうな文章ですがよくよく考えるとおかしいことに気づくはずです。
概念1:雨が降っている日は蒸し暑い
概念2:今日は雨が降っている
概念3:今は梅雨の季節
概念4:梅雨の季節は蒸し暑い
梅雨の季節は蒸し暑いという印象があるかもしれません。
しかし話の展開としては「雨が降っている日が蒸し暑い」ということが大前提です。
梅雨の季節では肌寒い日もあるでしょうしからっと晴れている日もあるでしょう。
ですから必ずしも「梅雨の季節が蒸し暑い」とはいえずこの結論は間違えていることになります。
つまりこの例では4つの概念が用いられているので間違った論証になるのです。
このように3つしか用いることのできない概念を4つ用いてしまったために生じてしまう推論の間違いを「四個概念の誤謬」と言います。
余計な概念を加えることで話の展開に混乱が生じて正しくない流れになってしまうのです。
文章で書かれていると気づきやすいことも口頭でより巧妙な表現をされると見破ることはより難しくなります。
言葉巧みに「自分が条件に当てはまっている」と言われ何かの申し込みや購入をしたとします。
しかし後から条件を満たしていなかったので「契約不履行」「違反したから返金できない」などと言われる場合では「四個概念の誤謬」がうまく使われていることがよくあります。
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しかし「四個概念の誤謬」を知っていればまずは概念の数を数えることで何ら頭の落とし穴がある可能性を疑うことができるはずです。
その結果以前よりもより正しい判断を導けるでしょう。
「相手に誤解されやすい、理解してもらえない、分かってもらえない」
その原因の多くは三段論法をうまく使いこなせていないことにあります。
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“三段論法の脳科学”のまとめ
誤謬(ごびゅう)を犯さないために「三段論法」の意味を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 自分が意図しない間違いや誤解を避けるには三段論法を理解して実践することが大切です。
- 多くの意味を持つ言葉はより注意をはらって使う必要があります。
- 感情が絡む言葉は誤謬を生み出しやすくなります。
- 三段論法はあくまでも3つの概念で展開すべきで4個目の概念には注意しましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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