なかなか手に入らない希少性の高いモノに価値を感じてしまうのはなぜなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 希少性の高いモノに価値を感じてしまう「希少性の原理」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
めずらしいものには価値がある
「希少性の原理」の脳科学
- なかなか手に入らないめずらしいもの、希少性の高いモノに価値を感じてしまうことを「希少性の原理」と呼びます。
- 「希少性の原理」には数量(数が少ない)と時間(今手に入れないといけない)が大きく関わっています。
- 「希少性の原理」に惑わされることなく、自分に役立ち必要なモノかどうかを冷静に判断してみてください。
脳は「めずらしい」と感じると本来そのモノが持つ以上の価値を感じてしまいます。
大人同士で会話を楽しんでいる間、子供たちは家の中で騒ぎまくっています。
その時、あなたは子供たちのお土産にビー玉を袋いっぱいに買ってきていたことを思い出しました。
子供たちにビー玉を渡したら、暴れていた子供たちもきっとおとなしくなるだろうと期待していました。
しかし当てが外れました。
というのもしばらくたつと子供たちが激しくケンカし始めたからです。
はじめはなぜケンカが始まったのかわかりませんでした。
しかし注意深く子供たちを観察してみると、ケンカの理由がわかりました。
数えきれないほどあるビー玉の中にたった1つだけ「金色のビー玉」が混ざっていて、子供たちはそれを奪い合っていたのです。
ビー玉はどれも同じ大きさで、キラキラと美しく輝いています。
「金色のビー玉」も他のビー玉と比べてもこれといった違いはなさそうに見えます。
しかし子供たちにとって「金色のビー玉」には他のビー玉にはない決定的な強みを持っていました。
「金色のビー玉」が2個あればこのようなケンカは起こらなかったでしょう。
しかし1個しかないことが「めずらしさ」を生み、そしてケンカを引き起こしたわけです。
なんて思っていませんか?
そんなあなたも「めずらしいものには価値がある」という思い込みに振り回されて生きているはずです。
希少性の原理のワナ
希少性の原理
『希少性の原理』
きしょうせいのげんり
principle of scarcity
水は人間が生活するうえにきわめてたいせつなものであるけれども価格は低く、それに対しダイヤモンドは水ほど人間生活には必要とされないが高価である。
これは水よりもダイヤモンドが希少性をもつために高い価格がつけられるのである。
このようにすべての財・サービスの経済的価値は、それらのものの希少性に依存するという説を「希少性の原理」といい、G・カッセルによって名づけられた。
希少性とは、人々の欲望あるいは必要性を十分に満足させるだけの財・サービスが存在しないところから生じる。
多くの財・サービスの存在量と人々がそれを充足する手段とは限られている。
しかしながら、人々の充足手段は複数存在し、人々の行動目的も多様であるから、これらの間における選択および配分が重要な経済問題となる。
限られた財・サービスが最適な手段を用いて最適な配分に決定されるのは「希少性の原理」に従うためであると解釈できる。
「希少性の原理」とは簡単に言ってしまえば、なかなか手に入らないめずらしいもの、希少性の高いモノに、脳は価値を感じてしまうという本能です。
実際に希少性がなかったとしても、脳が希少性があると思い込んでしまえば、それが欲しくてたまらくなってしまいます。
「めずらしいものには価値がある」という思い込みは、なにも現代社会が生み出した心理ではなく、古代ローマの時代から存在しています。
“人類史の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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現代社会では、ロボットによる生産工程の自動化や世界中の安い労働力の供給によってモノがあふれかえっています。
ですから平凡に暮らそうと思えば、あふれかえる汎用品のみを購入してあまりお金をかけずに暮らすことが可能です。
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しかしそれではおもしろくありません。
ですから脳は刺激を求めて、希少性の高い商品やサービスに反応してしまうのです。
一方で企業側も希少性を強調することで、商品やサービスの価値を高く見せて購買意欲を刺激するわけです。
“購買心理の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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そんなふうに思っている人もいるかもしれません。
2つのグループにクッキーの価値を評価してもらう実験です。
グループAにはクッキーを箱ごと渡します。
グループBにはクッキーを2枚だけ渡します。
どちらのグループがクッキーに対してより高い価値を感じたでしょうか?
答えはクッキーを2枚だけもらったグループBです。
実験は何度も繰り返し行われましたが、結果は毎回同じでした。
少ししかもらえない方がクッキーは美味しく感じられるのです。
学生たちに10枚のポスターを好みの順に並べてもらいます。
お礼として学生たちはその中の1枚をもらえます。
並べ終わってから5分後に、「3番目にいいと評価したポスターは、ここにあるのが“最後の1枚”で二度と手に入らない」と伝えます。
その後もう一度10枚のポスターを好みの順に並べてもらいます。
すると“最後の1枚”と言われたポスターは、前回よりも価値が上がり順位が上がりました。
脳は何かに自分の行動の自由を脅かされたり、実際に自由を奪われたと感じた時、その自由を回復するように強く動機づけられます。
心理的リアクタンスが生じやすい典型的な状況は、他の人からある特定の行動をとるように強制された時や、行動の選択肢が制限されたと感じる時です。
ポスターの実験では、「“最後の1枚”で二度と手に入らない」という選択肢の制限が加えられたことで「心理的リアクタンス」が働き、そのポスターの希少性がより高まったのです。
“心理的リアクタンスの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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さらに言えば、心理的リアクタンスが働きすぎて、「絶対にやるべき」あるいは「絶対にやるべきではない」などの強制的な表現が加わると、むやみに腹が立ったり、反発したい気持ちになりやすくなります。
“ロミオとジュリエット効果の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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そのように言われると、脳は価値を認めつつも“選ぶ自由”が奪われたことに反発心を抱き、あえてそのポスターを選ばない…といったことも起こり得ます。
このように脳の中ではさまざまな本能が錯綜(さくそう)して、複雑な感情を生み出しているのです。
数量と時間の希少性
脳が「希少性」を感じる対象には大きく分けると「数量」と「時間」があります。
それぞれについて考えてみましょう。
数量の希少性
「数量の希少性」とは、実在する数が少ないために滅多に手に入らないことで希少性があるものです。
具体的には次のようなものが「数量の希少性」にあたります。
老舗の料亭が作るお節料理、限定30個
ワインを飲ませて育てた和牛、しかも1頭からほんの少ししかとれないシャトーブリアン
鮭1万匹のうち1~2匹しか捕れない鮭児
現地でしか食べられない民族料理
スイスの職人が半年の時間をかけて作り上げる時計
有名サッカー選手が着用したユニフォーム
プロ野球やJリーグのエキサイティングシート
オリンピックやワールドカップの観戦チケット
都内、駅近で、最上階、南向き、角部屋のマンション
などです。
品薄になると買いだめしようとするのも、「数量の希少性」によって価値が高まった影響と言えるでしょう。
時間の希少性
「時間の希少性」とは、「今手に入れないともう二度と手に入らない」という時間的な制約を与えることで希少性があるものです。
具体的には次のようなものが「時間の希少性」にあたります。
閉店セール
タイムセール
通販番組などの「今回に限り」「今から30分以内のお申込みに限り」
滞在時間が短い旅先での買い物
などです。
当然「数量の希少性」と「時間の希少性」が掛け合わさると、さらに強力な「希少性の原理」が働きます。
偶然にも自分の理想とするような立地のマンションが見つかりました。
不動産屋の店員も、
そのように「数量の希少性」を強調してきます。
しかし提示された値段は自分の想定していた値段よりも高く、迷ってしまいます。
そこで不動産屋の店員は追い打ちをかけてきます。
早い者勝ちという「時間の希少性」です。
脳の中では本来は普通のマンションであったはずが一転して、「めずらしいほど素晴らしい立地で、しかもそれをねらっている人がいて早い者勝ちのマンション」といったように一気に価値が高まります。
もっとじっくり探せば、似たような立地のマンションは他にもあるはずです。
たとえ自分の理想とするような立地のマンションであっても、想定以上の値段であれば買うべきではないはずです。
早い者勝ちといった発想は、本来はまったく関係ないはずです。
しかし「数量の希少性」と「時間の希少性」の前では冷静に必要なものを購入する見極めができなくなり、結局マンションを購入して後悔するのです。
「希少性の原理」に振り回れるな
脳は「希少性の高いモノ」に反応している時には論理的に考えられなくなっています。
これは脳の本能ですから仕方ありません。
しかし「希少性の原理」に振り回されてばかりいては、成功はつかめません。
“失敗学の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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「希少性の原理」に振り回されないためには、モノの価値を評価する時に、数量や時間ばかりを気にするのではなく、そのモノが実際に自分にどれくらい役に立って必要なモノなのかを基準に判断してみてください。
わずかしかない…
早い者勝ち…
今すぐ買わないともう二度と手に入らない…
そのようなことは実際にはまったく重要ではないのです。
“「希少性の原理」の脳科学”のまとめ
希少性の高いモノに価値を感じてしまう「希少性の原理」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- なかなか手に入らないめずらしいもの、希少性の高いモノに価値を感じてしまうことを「希少性の原理」と呼びます。
- 「希少性の原理」には数量(数が少ない)と時間(今手に入れないといけない)が大きく関わっています。
- 「希少性の原理」に惑わされることなく、自分に役立ち必要なモノかどうかを冷静に判断してみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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