10%割引と10%ポイント還元ってどっちがお得なの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 視点を変えると世界が変わる『フレーミング効果』の脳科学的な意味がわかります。
ポイント還元から『フレーミング効果』を学ぶ
視点を変えると世界が変わる『フレーミング効果』の脳科学
- 何をフレームの中心に持ってくるかで似たような物事でも印象が変わり意思決定に影響を及ぼす現象が『フレーミング効果』です。
- 『フレーミング効果』は損得に敏感であり脳は時に不合理な意思決定や行動選択をしてしまいます。
- わたしたちは気づかぬうちに『フレーミング効果』に踊らされて生きているのです。
フレーミング効果の脳科学
10%割引と10%ポイント還元をくらべると10%割引の方がお得です。
1万円の商品を買う時のことを想像してみてください。
① 1万円の商品が10%割引
② 1万円の商品お買い上げで10%ポイント還元
2つの宣伝文句を見てどちらがお得に感じるでしょうか?
しかしちゃんと計算をしてみると【① 10%割引】の方が割引率が高くお得なことが分かります。
【① 10%割引】では10%割引なので9000円で商品を購入できます。
【② 10%ポイント還元】ではちょっと計算がややこしくなります。
1万円の商品を購入して10%ポイント還元なので1000円分のポイントがもらえます。
つまり視点を変えると11000円の商品を1万円で購入したことになります。
割引率を計算すると…
1-10000/11000×100≒9.1
となり割引率は9.1%です。
したがって【① 10%割引】の方が割引率が高いのです。
しかし実際には多くの人はポイント還元を選びます。
【① 10%割引】では9000円を支払うのみで出費のみなので金銭的なお得感が薄れます。
【② 10%ポイント還元】では1万円を支払いますが1000円分のポイントをもらうことで買い物をしたのに利益を得たというお得感が高まります。
人の脳は金額的な損得よりも脳が感じる損得を優先させるのです。
では『フレーミング効果』とはどのような効果なのでしょう?
『フレーミング効果』で視点が変わる世界が変わる
フレーミング効果の脳科学-その1
物事をながめる時にどこをフレームの中心に持ってきて注目し強調するのかで印象が変わり意思決定に影響を及ぼす現象が『フレーミング効果』です。
Tversky A, et al, Science 211:453-458, 1981
フレーミング効果とは利益や損失に関わる意思決定のメカニズムをモデル化した行動経済学の「プロスペクト理論」に基づいた理論です。
人が物事に価値を感じる時には多くの場合偏り(かたより)が生じます。
利益と損失のどちらを強調するかで人が損得を感じる基準は大きく変わります。
利益が出ている時はより確実性を求め損失を避けようと脳は働きます。
一方で損失が出ている時はリスクを負ってでも利益を求めるように脳は働きます。
つまり利益が強調されれば損失を回避し損失が強調されれば利益を求めようとするのです。
あなたはチケット代が5000円するコンサートに行きます。
ここでチケットに関する2つの状況を考えてみてください。
① コンサート会場についたのですが事前に購入していたチケットを家に忘れてきたことに気づきました。しかし家に取りに戻る時間はありません。
② 当日券を買おうと考えていましたがコンサート会場に向かう途中5000円札を落としてしまいました。
あなたの財布には5000円以上あるのでチケットを買うことは可能です。
どちらの場合がチケットをより強く買おうと思いますか?
多くの人は「② 5000円札を落としたが当日券を買う」を選びます。
どちらの場合も5000円損をしている事実は同じです。
しかし脳は同じ5000円でもその時の状況つまりどのようなフレームで5000円を眺めるかによって感じ方が変わり決断の方向性も変わってきます。
脳は数学的に同等であるなどという合理的な判断は下しません。
①では前売り券をすでに購入しているので5000円の自己投資はすでに済んでいます。
したがって自分の過失によってチケットを忘れてきてしまった場合同じチケットを2度買う気分にはなかなかならないものです。
チケットを忘れたという“損した感覚”に加えて同じチケットを購入することに“余計な出費”という感覚が生まれるので二重に損をした気分になります。
一方②ではまだチケットを購入していないので5000円の自己投資はまだ済んでいません。
所持金の紛失問題とチケット購入の自己投資は別の問題つまり別のフレームになるのでチケットを購入することに関して損を感じにくくなるのです。
なんとも不思議な感じがしますが『フレーミング効果』は脳にとても大きな影響を与えます。
特に“損”に関して脳は敏感であり“得”よりも2.25倍の価値を感じると言われています。
損得の判断はいわゆる相対評価と絶対評価の違いのようなものです。
“相対評価と絶対評価に関する脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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脳は40%を損得の境界ラインととらえています。
つまり損をする確率が40%を超えると途端に不安におちいり損を回避するように脳は働き始めます。
これは情報を他人に伝える時にも影響します。
損をする可能性のある情報に関しては「○○%の確率で××する」というリスク表現を用います。
一方で得をする可能性の高い情報に関しては「確実に○○する」という確実性の高い表現を用います。
『フレーミング効果』は日常生活でも仕事の場でもいろいろな場面で登場してきます。
わたしたちは”おとり効果”に踊らされて生きている
そんな方が多いと思います。
しかし私たちの日常生活には“おとり効果”があふれかえっています。
スーパーでりんごを買う状況を思い浮かべてみてください。
2種類のセットがあります。
セットの内容としてりんごは同じですが個数と値段が違います。
① 20個で3000円
② 30個で4000円
あなたはどちらを選びますか?
りんごをたくさん買いたい人は②を選ぶでしょう。
しかし支払う金額が安いのは①です。
1個当たりの値段は①は150円、②は133円で②の方がお得です。
ここで店主はできるかぎり②のセットを買ってもらい販売個数を伸ばしたいと考えました。
あなたが店主ならどのような戦略をたてるでしょうか?
① 20個で3000円
② 30個で4000円
③ 25個で4500円
これだとどうでしょう。
あなたならどれを選びますか?
③の選択肢を追加するとなぜか②を選ぶ率が上昇するのです。
それはなぜでしょう?
3つのセットの中で③を選ぶ人はおそらくほとんどいません。
③は1個当たり180円で①と②と比較して割高です。
しかもりんごの個数でも②に劣っています。
ですから③はあってもなくても意味がなく選択肢の1つとして機能していないように思えます。
しかし実際には③は間接的に他の選択肢に対して影響を与え購買傾向を変化させます。
②は個数も多く値段も安くその両面で③よりお得です。
一方①は値段では③よりもお得ですが個数では③の方が勝っています。
つまり②は全面勝利なのに対して①の③に対する優位性は部分的です。
そのため新たに加えた③が参考対象の基準となって②が好んで選ばれるようになるのです。
フレーミング効果の脳科学-その2
一見無意味な選択肢を追加することで人の行動が変化することを“おとり効果”と言います。
“おとり効果”はフレーム効果の典型的な1例です。
損得を決める対象に“おとり”を使うことで意思決定にゆがみを生じさせ合理性に欠いた行動選択をさせるのです。
それでは今度は①のセットを多く買ってもらい1個当たりの利益を伸ばすためにはどのような選択肢を増やすのが得策でしょう?
① 20個で3000円
② 30個で4000円
③ 15個で3500円
新しい選択肢である③のセットに比べて個数と値段の両者で優れているのは①のセットです。
②のセットは値段で負けています。
脳が選択を行う時は理詰めではなく驚くほど感覚的で意外なほどに不合理です。
わたしたちの脳は『フレーミング効果』に踊らされているのです。
最後にもう1つ。
食堂で次のようなカレーのメニューがあったとします。
カレー 1000円
特製カレー 1500円
これではほとんどの人は特性カレーを選んではくれません。
しかし次のようなメニューだったらどうでしょう?
カレー 1000円
特製カレー 1500円
極上カレー 3000円
こんなお店に出会ったら店主は間違いなく脳科学的にキレものです。
『フレーミング効果』についてもっと知りたい方にお勧めの本をご紹介しましょう。
行動経済学を一般の方にもわかりやすくまとめた世界的ベストセラーです。
“視点を変えると世界が変わる『フレーミング効果』の脳科学 “のまとめ
視点を変えると世界が変わる『フレーミング効果』を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 何をフレームの中心に持ってくるかで似たような物事でも印象が変わり意思決定に影響を及ぼす現象が『フレーミング効果』です。
- 『フレーミング効果』は損得に敏感であり脳は時に不合理な意思決定や行動選択をしてしまいます。
- わたしたちは気づかぬうちに『フレーミング効果』に踊らされて生きているのです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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