記憶力を上げる方法は存在するのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い、勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 記憶のメカニズムを脳科学で説き明かします。
記憶力はテストでしか測れない?
記憶の仕組みの脳科学
- 記憶には短期記憶と長期記憶があります。
- 海馬で短期記憶に合格がもらえると脳の中に長期記憶として刻み込まれます。
- 脳は覚えるよりも忘れることが得意です。
- 記憶力を上げるには脳をバグらせてひたすら覚え続けて長期記憶にすることが必要です。
今回のテーマは『記憶の仕組み』です。
記憶の仕組みを理解することは記憶力を高めることにつながります。
人生において記憶について悩まされる最初の関門はなんといっても「テスト」でしょう。
なんて経験したことがきっとあるはずです。
テストを作る先生は自分が「ちゃんと教えた」という確信があるので何の躊躇(ちゅうちょ)もなく自信たっぷりに問題を出してきます。
もしテストの結果が良くなければ「学習義務を果たしていなかった」としてダメ生徒とのレッテルを貼られてしまいます。
たとえ努力してたくさん記憶していてもテストの時に思い出せないと始めからまったく覚えていない人と同じ「0点」がつけられてしまいます。
テスト準備をどんなに頑張ってもテストでいい点数を取れないと「怠慢」「無能」の烙印を押されてしまうのですからテストはなんとも残酷です。
テストでいい点数を取るにはテストの前にどんな問題が出されるかを予想してきちんと答えが導き出せるように記憶しておく必要があります。
“誰でも簡単に記憶力を上げる方法の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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ではそもそもなんでテストなんてものが存在するのでしょうか?
それは「記憶」に原因があります。
記憶は見た目には影も形もありません。
ですから先生が生徒を眺めているだけでは自分が教えた知識が生徒の頭の中にちゃんと入っているのかわかりません。
ですからテストをして記憶を実態あるものに変換させて確認作業を行う必要があるのです。
脳の中身をうまく確認して記憶しているものを映し出せればテストなど必要ないはずです。
「頭脳明晰」とか「記憶力抜群」なんて表示できるようになればテストに悩まされることもなくなるはずです。
実は現代の脳科学では徐々にではありますが脳に記憶されたことを写真のように写し出すことができつつあります。
記憶自体には形がなくとも脳の中で記憶として残っている限り脳に何らかの情報としての痕跡は残っているはずです。
ですからその記憶の痕跡に何らかの処理を施せば記憶の情報を見ることができるはずです。
これが実現すればテストなんてなくなるうえにテストでは測り得ない潜在能力までも映し出すことが可能になるでしょう。
しかし皆さんが生きている時代にはそこまでの技術の進歩はまだまだ無理でしょうから頑張ってテストを受けるしかなさそうです。
記憶のメカニズムに迫る
記憶力はテストでしか測れない話をしましたがそれではそもそも「記憶」とはいったい何者なのでしょう?
記憶のメカニズムを順を追って探っていきましょう。
記憶の正体はどこにある?
記憶を脳科学的に表現すると次のようになります。
「記憶とは神経回路のダイナミクスをアルゴリズムとしてシナプスの重みの空間に外界の時空間情報を写し取ることによって内部表現が獲得されることである。」
簡単に言ってしまえば「記憶とは新たな神経回路を作り出すこと」ということになります。
ヒトの脳の中には1000億個もの神経細胞があると言われています。
ひとつひとつの神経細胞は独立して存在しているわけではなくそれぞれ別の神経細胞と神経線維というケーブルを介して繋がっています。
この神経細胞の全体のネットワークが神経回路の正体です。
脳の中も家や店などをつないでいる道路が網の目のように張り巡らされている都市と同じような構造になっているわけです。
脳では神経回路を通して神経信号が飛び回っています。
この神経信号を使って脳はあらゆる情報を処理しているのです。
記憶とは新たな情報として脳に入ってきた神経信号つまり「記憶すべき新たな情報」が脳の中を自由に飛び回れるように新しいネットワークを作り出す作業なのです。
短期記憶と長期記憶の関係
記憶の正体は「新たな神経回路を作り出すこと」ですが実はそんなに単純ではありません。
記憶には大きく分けて2つの種類があります。
皆さんにも当たり前のように覚えている記憶と覚えても覚えてもすぐに忘れてしまう記憶があるのではないでしょうか?
コンピューターではデータを長期間保存しておくハードディスクというものが必ずあります。
ハードディスクには大量のデータが記憶されています。
しかしそれだけではコンピューターはうまく機能しません。
データを蓄えているだけではダメで蓄えたデータを使うことができて初めてコンピューターは役に立つのです。
そのためハードディスクの中から必要な情報だけをRAMに呼び出します。
RAMとはRandom Access Memoryの略語で「作業用の領域」です。
コンピューターでは大量のデータの一部をRAMに持ってきてRAMで作業を行います。
当然机が狭いと作業はしにくいですが広ければ作業はしやすくなります。
つまりRAMの容量が大きいと作業スペースが広くなり多くのソフトやアプリを開いて作業がしやすくなるというわけです。
作業が終われば再び情報をハードディスクに記憶させます。
RAMは情報の一時的な保管場所であり脳でいえば「短期記憶」になります。
一方でハードディスクは脳でいえば「長期記憶」になります。
このように記憶には2種類あるわけです。
脳でもコンピューターでも短期記憶は長期記憶から情報を引き出して処理を行い長期記憶に保存しているのです。
記憶を長期間蓄えるには短期記憶を経由する必要があります。
記憶の仕組みは2段階になっているのです。
短期記憶で注意すべきは容量があまり大きくないことです。
ですから机の大きさはある程度制限されているのです。
あまりにたくさんの情報を同時に短期記憶として処理することはできません。
しかもその情報はすぐに消えていってしまいます。
長期記憶として留めておけるのは短期記憶の一部のみです。
たとえばカップラーメンでも食べようかとお湯を沸かしている最中に友人から電話がかかって来て話をしていたら脳の中からお湯を沸かしている意識は薄らいで消えていってしまいます。
なぜお湯を沸かしていたのかを忘れてしまいます。
つまりお湯を沸かすというのは一時的な短期記憶なのです。
コンピューターでいえば書いている文書をハードディスクに保存しないで電源を落とすとデータが消えてしまいますよね。
脳にしてもコンピューターにしても短期記憶とはそういうはかない記憶なのです。
つまり長期記憶を作るためには短期記憶をいかにうまく使いこなすかがカギになってくるわけです。
情報を長期保存する時にしっかりファイルに名前をつけて分類整理しておかないと次にその情報が必要になった時にどこに行ったか分からなくなり引っ張り出せなくなってしまいます。
脳の中に情報は入っているのにテストの時に思い出せない…なんて悲劇が起こるのはこのためです。
いい加減に記憶をしていると脳の中では情報がごちゃごちゃになって混乱してしまい有効な情報として記憶されないのです。
脳の記憶のメカニズム
コンピューターでは「短期記憶」はRAM、「長期記憶」はハードディスクでしたが脳ではどうでしょう?
脳においてハードディスクの役割を果たしているのは「大脳皮質」です。
大脳皮質の容量がどれほどなのかは正確には分かっていません。
しかしコンピューターと比べると驚くほど少ないのが現実です。
ですから長期記憶として蓄えている情報量としてはヒトはコンピューターには到底かないません。
ヒトの脳がAIに敵わないのはこのためです。
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皆さんが見たり聞いたりし感じたりしている全情報を細部までもれなく大脳皮質に刻み込もうとしたらわずか数分で大脳皮質はパンクしてしまいます。
コンピューターではハードディスクのメモリを増設することで長期記憶の領域を増やすことができますが脳ではそのようなことは当然できません。
限られたメモリをうまく活用するためにはそれなりの工夫が必要です。
そのため脳では「必要な情報」と「必要でない情報」の仕分けが必要になります。
「必要な情報」だけを選別して大脳皮質に長期記憶として保管するのです。
それは脳の中の「海馬(かいば)」という部分です。
よく海馬は記憶の中枢で脳の中ではとても大事な場所…なんて言われますが海馬で記憶しているわけではありません。
海馬は記憶の仕分けをしているだけです。
しかしこの記憶の仕分けがとても重要なのです。
海馬では脳に一時的に刻まれた短期記憶を仕分けして長期記憶となる資格があるかを判定するわけですがその猶予期間はだいたい1か月くらいです。
この期間に審査が行われるのですが審査基準はとても厳しくよほどのことがない限り1回で合格することはありません。
不合格のままですと短期記憶は消えてなくなってしまいます。
何度もチャレンジしてようやく合格すると長期記憶として脳に刻み込むことが許されるのです。
明日のテストに出る英単語でしょうか?
歴代の総理大臣の名前でしょうか?
残念ながらそのどちらでもありません。
記憶の審査の判定基準は「生きていくために必要不可欠かどうか」です。
テストの前に英単語を覚えられなくて切羽詰まっていても別に命に別状はありません。
いきなり海外で生活することになって英語を使いこなさないと生きていけない…なんて状況にならない限り英単語は早々簡単には短期記憶から長期記憶へ移動する許可は下りないのです。
テストのために覚えなくてはならない知識のほぼすべては生きていくのに必要不可欠とは判定されないでしょう…
腐ったものを食べたら食中毒になって死ぬかもしれない…
石が飛んで来たら逃げないと頭に当たって死ぬかもしれない…
そんな情報が「生きていくために必要不可欠」な情報です。
ヒトはそもそも動物でありどんなことがあっても生き延びていかなければなりません。
動物にとっての学習とは危険な状態に置かれた経験で得た情報を長期記憶として保存して再び同じ目に合わないように回避して環境に上手に適応していくことなのです。
ですからそう簡単には長期記憶として脳には刻み込まれないのです。
しかしそうは言ってもテストではいい点数を取りたいものですよね。
記憶力を上げる方法は存在する
記憶が長期記憶として脳に刻み込まれるかのカギは海馬であります。
海馬は生命の存続に役立つかどうかといういわば「ものさし」で情報の取捨選択をしています。
学校で学ぶ情報など所詮生きていくことだけを考えればどうでもいい情報です。
「右耳から入って左耳に抜けていく。」
なんて言いますがまさにそんな具合に海馬ではさまざまな情報をどんどん切り捨てて消去しています。
なんて嘆きは脳の記憶のメカニズムを考えると仕方ないことです。
なぜなら脳はそもそも「覚える」ことよりも不必要な情報を「覚えない」ことを重要視しているからです。
長期記憶として保存できる情報には限界がありますし情報を蓄えるためにはそれなりのエネルギーが必要です。
不要な情報を脳に蓄えることは脳の容量の無駄使いでありエネルギーの無駄使いです。
せっかく苦労して覚えたことを忘れてしまってもくよくよ悩む必要なんでないのです。
自分の脳だけが特別に覚えが悪く忘れやすいわけではなく誰の脳でも同じことなのです。
しかし学校で教わる知識を脳に覚え込ませてテストでいい点数をとることも現代の世の中では時には生きていくために必要なこともあるでしょう。
脳のバグが記憶力を上げる
記憶力を上げる方法はちゃんと存在します。
それは脳をバグらせることです。
特に海馬をダマすのです。
海馬に「必要なもの」として認めてもらうには何度も何度も繰り返し海馬に情報を送り続けることで海馬が
「そんなにしつこく送ってくるなんてしつこいなあ…」
「そんなにしつこく送ってくるんだからきっと必要な情報なんだろうなあ…」
と最後は勘違いして長期記憶として合格の判定をしてくれるのです。
「学習とは反復の訓練である」と言われますが脳科学的には正しい意見です。
ですから学習したことを忘れてしまってもいちいち落ち込んだり気にしたりする必要はありません。
何度も覚えなおせばよいのです。
覚えたものをまた忘れてしまってもそれでもまた覚えなおすのです。
そんな具合に何度も繰り返し覚えなおしているうちに脳はその情報を長期記憶として刻み込んでくれるのです。
答えは同じです。
また覚えなおせばよいのです。
脳は出来るだけ早く多くのことを忘れて新しい記憶を刻み込むような仕組みになっているので忘れてしまうのは仕方ありません。
懲りずに何度も覚えなおすのです。
テストで成績が良い人は忘れても忘れてもめげずに海馬に繰り返し情報を送り続けている努力家なのです。
「忘れて」こそ「覚えられる」
努力して何度も繰り返し「覚える」ことが脳にバグを起こさせて記憶として脳に刻み込まれるようになる。
これが「記憶力を上げる」確実な方法です。
などと嘆いた人も少なくないでしょう。
しかし単純で簡単そうに思えるこの方法は意外とすごいことなのです。
コンピューターでも長年使っているとだんだん動きが悪くなって買い替えが必要になりますよね。
しかし脳が使い物にならなくなっては困りますよね。
しかも脳を交換することはできません。
ひたすら使い続けるしかありません。
そのために脳はあえて記憶の容量を小さくしてなかなか覚えられないようにしているのです。
もし一度覚えたことをすべて永久的に忘れないでいたら人はうまく生きてはいけません。
脳には不思議な病気が存在します。
記憶力が抜群で何でも見たこと知ったこと経験したことのすべてを記憶できる病気があります。
一見するとなんとも羨ましい感じもしてしまいますが高い記憶力は実際に生きていくためにはとても不都合です。
「忘れる」ことのない記憶力を持っていると次々と生じる現実によって脳の中であやふやな記憶から生まれる想像の世界が妨げられ現実と想像の世界の区別を失い幻覚の世界に彷徨いこんでしまいます。
あえて消去ボタンを押さなくても勝手にどんどん忘れてくれてよほどのことでない限り長期記憶として留めようとしない脳の記憶の仕組みにわたしたちは感謝すべきなのです。
「忘れる」からこそ新しいことを次々と「覚えられる」のです。
ですから「覚える」ために脳をバグらせ続けることは決して悪くないことですしそのための努力は惜しんではいけないのです。
「一番ダマしやすい人間は…すなわち自分自身である。」
なのです。
「記憶力を上げる方法」は「どうしたらうまく覚え続ける努力ができるのか?」にかかっているのです。
一口に「脳をバグらせる」と言ってもそう簡単なことではありません。
しかしちゃんとしたコツがあります。
そのコツこそが効果的な勉強法の秘訣です。
このコツを習得し海馬を上手にダマすことができる人が世間一般では「頭が良い人」なのです。
「脳をバグらせる」ためのコツについてはあらためて探っていきましょう。
“記憶の仕組みの脳科学“のまとめ
記憶のメカニズムを脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 記憶には短期記憶と長期記憶があります。
- 海馬で短期記憶に合格がもらえると脳の中に長期記憶として刻み込まれます。
- 脳は覚えるよりも忘れることが得意です。
- 記憶力を上げるには脳をバグらせてひたすら覚え続けて長期記憶にすることが必要です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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