効率の良いおすすめの学習法ってありますか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合いに勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 勉強効率を脳科学で説き明かします。
勉強効率の鍵となる脳のメカニズムを探る
勉強効率の脳科学
- 勉強効率を上げるには脳の海馬が刺激されて活発に活動する現象:LTPを引き起こすことが鍵となります。
- LTPを引き起こすには復習がもっとも効果的ですがなるべく少ない労力で復習するには「好奇心」と「感情」を利用するのが有効です。
- 学習にストレスは大敵であり脳にストレスがかかると勉強効率は低下します。
- 効率の良い勉強法は動物からも学ぶことができて「空腹」「歩行」「温度」がキーワードです。
- ちょっとした工夫で勉強効率を上げることは可能ですのでぜひいろいろ試してみてください。
ただがむしゃらに努力しても勉強効率は上がりません。
勉強の根幹を支えているのは記憶力です。
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ですから脳の記憶の性質を理解することが勉強効率を上げる鍵となります。
脳の中で記憶にもっとも関係しているのは「海馬」という部分です。
海馬の活動が活発になりしかもそれが持続すれば記憶力はアップし勉強効率は格段に上がります。
この海馬が長期間増強される現象のことを”long-term potentiation”通称LTPと呼び古くから多くの研究がされてきました。
T.V.P.Bliss, et al, J Physiol 232(2): 357–374. doi: 10.1113/jphysiol.1973.sp010274, 1973
ですからLTPを奪われると記憶は出来なくなりますしLTPがより活動的になると記憶力は上がります。
つまりLTPが刺激されるような状態を作り上げれば記憶力がアップして勉強効率が上がるというわけです。
LTPをどう操るかが脳科学的な勉強効率の鍵なのです。
それにはLTPの好みを理解する必要があります。
LTPはそもそも繰り返し海馬が刺激されることで発生する現象です。
ですから何度も何度も海馬を刺激してあげればよいのです。
そのために大切になってくるのが「復習」です。
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復習は何度も繰り返し学習しなおすことです。
脳が復習を好んでいるのであればもはや勉強効率をあげるには復習は避けられません。
復習をしないで何かを習得しようとする態度は脳科学的に間違えていると言わざるを得ません。
しかし復習にばかり時間を費やしていては決して効率的とは言えません。
これから探ろうとしているのは正しい勉強法ではなく効率的な勉強法です。
できることなら復習の回数を何とか少しでも減らして勉強効率を上げたいところではないでしょうか。
実際に復習を少なく済ませても勉強効率を上げる秘策は存在します。
それには「好奇心」と「感情」が大きく関わってきます。
好奇心が勉強効率を向上させる
脳の海馬でのLTPを活性化させるための復習を減らしつつも勉強効率を上げる秘策の1つ目は「好奇心」です。
好奇心とは初めてのモノに出会ったり未知の場所に来たりした時のように興味をもって対象に向かう時に自然に脳に生じる感情です。
ワクワクしたりドキドキしたりすることで好奇心はさらに高まります。
逆に飽きたりマンネリ化したりして興味が薄れると好奇心は消え去ってしまいます。
さまざまな研究でおもしろいことが証明されています。
それは脳が好奇心を感じている時には脳の中の海馬では少ない刺激でもLTPが活性化しているのです。
特に好奇心が高まっている状態では通常の十分の一程度の刺激でもLTPは充分に活性化されます。
つまり興味を持っている物事は復習の回数が少なくても覚えることが可能であり学習効果が上がりやすいことがわかります。
皆さんも苦手な科目の暗記よりも好きなアーチストの曲の歌詞の方が楽に覚えられますよね。
覚えようとする対象にいかに興味を持つかということが勉強効率を上げるためにはとても大切なのです。
つまり勉強を「つまらない」と思いながらすると結局復習の回数が余分にかかりしかも覚えられないという悪循環にはまって時間の無駄になるだけです。
なんてともっている人も少なくはないでしょう。
確かにテストは楽しいものではありません。
しかしテストのことを考えなければどんな教科でも興味を惹かれるところが1つや2つはあるはずです。
物事は外から眺めているだけでもそのおもしろみが伝わりにくいものはたくさんあります。
やってみて初めて分かる楽しみがありその道を極めれば極めるほどおもしろみが膨らんでいくものです。
ですから「つまらない」という言葉は脳科学的にはその物事に深く関わっておらずそのおもしろみを理解していないという自らの無知を暴露していることになります。
最初は何でもつまらないと感じがちです。
しかしその中におもしろみを見つけることはできるはずです。
その時に好奇心が湧き上がるようであれば勉強効率は一気にアゲアゲです。
同じ勉強をするのでも考え方次第で勉強効率は雲泥の差になります。
何にでも好奇心を抱いていた子供のころの童心を持ち続けていたいものです。
感情が勉強効率を向上させる
脳の海馬でのLTPを活性化させるための復習を減らしつつも勉強効率を上げる秘策の2つ目は「感情」です。
喜び、悲しみ、不安などの感情は脳の中の扁桃体という場所で生み出されます。
扁桃体が活発に働いてさまざま感情が湧き上がるとLTPの活動も活発になります。
つまり感情が盛んな時は物事を覚えやすく勉強効率が上がりやすいということです。
楽しかった行事や悲しかった事件などなんらかの感情が絡んでいるできことが多いのではないでしょうか?
人はそのような感情が関わっている記憶を「思い出」という特別な言葉で呼び心の中に大切にしまっています。
その実態は脳の中で扁桃体が活動したことでLTPが活性化されて記憶力が高まって強い記憶として脳の中に刻み込まれたのです。
ではなぜ感情が関わると記憶は強化され勉強効率が上がるのでしょうか?
そこにはちゃんとした理由があります。
理由を考えるにはまずは人類の進化を考える必要があります。
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現代の都会生活をしている人間とは違いまだ野山を駆け回り狩猟をしていた原始生活の時代を想像してみてください。
大自然の中での生活は常に生命の危機にさらされています。
命を落としかねない恐ろしい体験もあるでしょうが食糧を確保しなくてはなりません。
多くの危険を効率よく回避して生きていくためには敵に会って感じた恐怖や食糧にありついた場所をしっかりと脳に記憶しておく必要があります。
しかもそのような情報は何度も復習して学んでいるわけにはいきません。
たった1回の経験であっても生命にかかわる重要な情報は確実に記憶しておく必要があります。
そのための作戦が「感情による記憶能力の促進」なのです。
つまり脳は感情が絡んだ経験をしっかりと覚えて勉強効率を上げるようなメカニズムになっているのです。
進化の過程で培われたこの能力は現代の人間の脳にもしっかりと残っています。
「思い出作り」というとなんだか心温まる人間味あふれた言葉に聞こえますが実はその真実は命をかけた生き残りのための戦術の名残りなのです。
ストレスを解消して記憶力アップ
ここまで「脳の海馬でのLTPを活性化させるための復習を減らしつつも勉強効率を上げる秘策」を2つご紹介しました。
秘策とは「好奇心」と「感情」を利用した学習法です。
たとえば
「本能寺の変」は1582年6月21日京都本能寺に滞在中の織田信長を家臣の明智光秀が謀反を起こして襲撃した事件である。
という知識もそれを単に丸暗記するのではなくそこに好奇心と感情を交えて覚えてみたらどうでしょうか。
あと一歩で天下統一を達成できたであろう織田信長の無念さ、織田信長にさまざまな思いを巡らせて謀反に至った明智光秀の複雑な心境を実際に思い浮かべてみてください。
なんて思う人もいるかもしれませんが歴史好きの人はきっと感情移入して感情が高まるような経験をしたことがあるはずです。
またそうすることで本能寺の変の真相をいろいろ探ってみたいという好奇心も湧き上がってくるのではないでしょうか?
このように好奇心と感情が関わってくると脳は強く記憶しようとする性質が備わっているのです。
そんな不安感や危機感で普段ではとても覚えきれない量の知識を一気に詰め込もうとすると意外と覚えられたりしますよね。
これは感情がLTPを刺激して記憶力が爆発的に増強されている状態です。
しかしこのように刻み込まれた記憶はあくまでも一時的でありテストが終わって安心してしまうとすっかり忘れてしまいます。
それどころか無理に詰め込んだ知識はそれ自体が消えてしまうだけでなくその他の記憶も一緒に道連れにして消去してしまう危険性さえあります。
一夜漬けの勉強がお勧めできない理由はさらにもう1つあります。
それはストレスです。
そのような状況は不安感や危機感を抱かせる一方で大きなストレスを脳に発生させます。
ストレスが過度にかかるとLTPは減弱して記憶力は低下してしまいます。
LTPはストレスにとても弱いのです。
ストレスを自分なりに解消して学習する方がずっと勉強効率は上がります。
しかしだからといってテスト前に余裕のありすぎるスケジュールを立ててしまうのもまた考え物です。
緊張感が持続せずモチベーションが下がってしまい記憶にとっては良い状況とは言えません。
「油断こそが人間のもっとも身近にいる敵である」
そんな名言がありますが
勉強効率の脳科学-その1
適度な緊張感を保ちながらもストレスを解消し好奇心と感情を湧きたてながら学習する
これこそが脳科学的にお勧めの効率の良い学習法です。
動物から学ぶ学習法
私たち人間は動物から多くのことを学んでここまで成長してきました。
記憶力もその1つです。
たとえばあなた自身がライオンになったと想像してみてください。
ライオンが野生の世界で生きていくにはどんな記憶を必要としてそのために何をする必要があるでしょうか?
そのように考えると何が記憶に良いのかを理解しやすくなります。
まず1つ目は空腹感です。
動物にとって空腹は危機的状況です。
ライオンであれば空腹になったら狩りに出かけます。
狩りはまさに記憶力が重要視される時間です。
実際に空腹時は満腹時と比較して記憶力が高いことは脳科学的に証明された事実です。
食事前の空腹時間は脳が適度に危機感を感じている状況です。
なんて言いつつ気づいたらウトウトしてうたた寝してしまう…なんて人いますよね。
脳科学的には食事前の空腹時間こそが恰好の学習時間なのです。
狩りを終えたライオンも胃が満たされてしまうとたとえ獲物が目の前に現れても知らんぷりして木陰で昼寝をしますよね。
人間も同じで満腹になると眠くなるのです。
ですから逆に満腹時は多少の仮眠をとった方が勉強効率は上がります。
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2つ目は歩行です。
ライオンは狩りをする時に歩いたり走ったりします。
脳科学的には歩くと海馬のLTPが活性化されて記憶力が高まるとされています。
つまり歩くことは記憶力アップのスイッチになっているのです。
皆さんの中には歩きながら暗記すると覚えやすいことに気づいている人も少なくないはずです。
机に向かって暗記している時よりも部屋の中をぐるぐると回りながら暗記するとなぜか覚えられる…なんて感じたことありませんか?
実際に自分の足で歩くことが記憶力アップにはより効果的ですがそうでなくても例えば乗り物で移動していてもLTPは活性化されることが分かっています。
バスや電車で揺られていても移動しているという事実を脳が感知すればLTPは活発に働いてくれます。
3つ目は温度です。
動物は寒くなると危機感を感じます。
冬になると獲物にありつけなくなることを本能的に知っているのでしょう。
危機感がつのればLTPは活性化されて記憶力は上がります。
ですから部屋の温度は若干低くした方が勉強効率は高まります。
夏なら冷房の効いた涼しい部屋、冬であればあまり暖房を利かせすぎずうっすら寒いくらいが勉強をするにはちょうど良いでしょう。
また温度が高くなると危機感が減るだけでなく脳の思考力が低下します。
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勉強効率の脳科学-その2
動物から学ぶ学習法はまだまだありますがとりあえず空腹、歩行、温度の3つでも充分に勉強効率を上げることは可能です。
動物が長い進化の過程で培ってきた学習法ですので効果は保証済みです。
いずれもすぐに取り入れられる方法ですので試してみてください。
楽しく努力しなければモチベーションは上がりませんし勉強効率も上がりません。
何も難しいことをしなくてもちょっとした工夫でいくらでも効率の良い学習法は可能です。
“楽しく努力してモチベーションを上げるための脳科学“のまとめ
楽しく努力してモチベーションを上げる方法を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 勉強効率を上げるには脳の海馬が刺激されて活発に活動する現象:LTPを引き起こすことが鍵となります。
- LTPを引き起こすには復習がもっとも効果的ですがなるべく少ない労力で復習するには「好奇心」と「感情」を利用するのが有効です。
- 学習にストレスは大敵であり脳にストレスがかかると勉強効率は低下します。
- 効率の良い勉強法は動物からも学ぶことができて「空腹」「歩行」「温度」がキーワードです。
- ちょっとした工夫で勉強効率を上げることは可能ですのでぜひいろいろ試してみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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