なぜわざわざ行例に並んでまでラーメンを食べようとするのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- わざわざ行列に並ぼうとする理由を探るため「同調バイアス」についてわかりやすく脳科学で説き明かします。
わざわざ行例に並んでまでラーメンを食べようとする理由
同調バイアスの脳科学
- 日本人は基本的に行列が大好きですしあまり苦なく行例に並びます。
- 空いている店よりも行列ができている店にわざわざ並ぼうとするのは「同調バイアス」が働くからです。
- 他人がどう行動するかに影響されて自分の行動を変えることを「同調バイアス」と言います。
- わたしたちの生活にはたくさんの「同調バイアス」が働き良くも悪くもわたしたちの行動に影響をあたえています。
人気のラーメン店に行ったところ長蛇の列でした。
ラーメンにたどり着くまでは相当な時間がかかりそうです。
ネットで調べてみるとすぐ近くに似たようなラーメン店がありました。
行ってみると誰も並んでおらずすぐに入れそうです。
よくありそうな状況ですがある意味“究極の選択”かもしれません。
急いでいる時であれば“これ幸い”と客が少ないラーメン店に入るかもしれません。
しかし多くの人はこんなふうに考えるのではないでしょうか?
同じ商品であれば早く買えた方がいいはずなのにわざわざ一方だけに列をなしているとなれば誰も並んでいない店に対して不安を感じる人は少なくないはずです。
そんな人々が行列のある店を選んだ結果行列はさらに長くなるのです。
同調バイアス
このように「まわりに他者がいる場合にその人がどのようにするのかを参考にして同じ行動をとること」を「同調バイアス」と言います。
わざわざ行例に並んでまでラーメンを食べようとするのはこの「同調バイアス」が大きな要因になっています。
あなたは行列をどう思う?
行列を見るとそれが何の行列かわからないのになんとなく並んでしまう人さえいます。
行列については多くの調査が行われています。
インターワイヤード株式会社が運営するネットリサーチのDIMSDRIVEが2017年に行った「行列」についての調査です。
モニター3,811人にアンケートを行い行列に並んだ経験、その理由やどのくらいの時間並んだか、時間の潰し方などについてまとめています。
詳細についてはこちらの『「行列」に関するアンケート』をご参照ください。
結果をまとめると以下のようになります。
行列に並んだことがある1位は「テーマパーク・遊園地」。
並ぶ価値がある1位は「新作発売」。
待ち時間は最大30分までがほとんど。
長時間頑張って並ぶのは「テーマパーク・遊園地」。
行列後の満足度が高いのは「スイーツ・菓子店・パン屋さん」。
行列に並んでいる間の時間つぶしでは「同行者とのおしゃべり」が75.9%。
行例で困ったことは「列が進まない」「待ち時間が分からない」「トイレに行きたい」。
飲食店(ラーメンなど)なら30分まで待ってもいいと考えている人は71.1%。
この結果をどのように受け取るかは人それぞれです。
また他の行列に関するアンケートで「どんなときに行列に並んでしまいますか?」という質問をしたところ以下の回答が上位でした。
おいしいもの、いい物など並ぶ価値があるとわかっている時
評判を聞いたり、流行ったりしていて自分も試したい時
限定でそのときにしか手に入らない時
どうしても食べたい、買いたいと思っている時
こう見ると行列に並びたくはないけれど並ぶ際には「強い意志を持って行列に並んでいる」、「確信をもって行列に並んでいる」と言えるでしょう。
行列には「期待感を膨らませる」、「手に入れたものがより価値があるように感じる」というプラス効果があります。
しかし一方で並んだ結果「おいしくなかった」、「あまり価値がなかった」と感じる場合には「せっかく並んだのに…」「評判倒れでまずい…」といった不快感や不満からみなす効果を増幅させることもあります。
ではどうしてそのように思ってしまうのでしょう?
「同調バイアス」の脅威
他人がどう行動するかを参考にして自分の行動を変えることを「同調バイアス」と言います。
「同調バイアス」には脳で2つのメカニズムが働いています。
1つ目は「情報として他社の行動を利用する」ことです。
これは先ほどのラーメン店のように他者がたくさん並んでいればきっとおいしい店なのだろうと推測して自分もそこに並ぶ…などが当てはまります。
2つ目は「他者の行動や考え方を規範として用いて同じように振る舞う」ことです。
この場合他者の行動や考え方は行動を制限するような圧力として働きます。
たとえば就業時間をすぎて今日中にしなければならない仕事は終わったのに誰も帰らないので仕方なく自分も残業する…などが当てはまります。
このように周囲から受ける圧力を「同調圧力」と言います。
同調圧力は個人よりも集団になるとより強くなり意見が片方に集中しやすくなります。
これを「集団極性化」と呼びます。
みんながそうするから…
みんながそう言うから…
だからみんなに合わせてやってみた、言ってみた
うまくいくかどうかは別にしてそもそもみんなと同じ意見なのだから正しいに決まっている。
脳はそのように思い込むのです。
ちなみに同調圧力によってみんなの意見に流されて無条件に物事を受け入れることを「バンドワゴン効果」と言います。
“バンドワゴン効果の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考【みんなって何人?】購買心理の法則(バンドワゴン効果、スノッブ効果、ヴェブレン効果)から数の不思議を脳科学で探る
みんな買っているから自分も買う! みんな買っていないから自分は買う! 高価なものでみんな買えないから自分は買う! そんな購買心理によく出てくる“みんな”って一体何人なの? そのような疑問 ...
続きを見る
「同調バイアス」ではこの「同調圧力」がとても強く影響しています。
日本人は欧米人とくらべて自分の意見を述べるよりも集団の和を保つことを重視する傾向があります。
そのような文化の中で自分が本当は違う意見であるのにまわりの意見と異なるがために言うことができなかったり意見を曲げたりした経験はきっと誰にもあることでしょう。
これはとても有名な実験でさまざまな場面で引用されています。
実験参加者に対して長さの違う3本の直線が書かれたカードを見せます。
同時に直線が1本だけ書かれたカードを見せます。
最初のカードのどの線と同じ長さだと思うかを順に口頭で答えてもらいます。
しかしこの実験ではある仕掛けをします。
実はこの実験の参加者は1名だけで残りは協力者(サクラ)です。
協力者たちは最初の2回は正解を答えますが3回目の課題では全員が同一の間違えた選択肢を回答します。
ちなみに実験参加者は最後から2番目に回答するように設定されています。
1人であれば間違えるはずがないほど線の長さにははっきりした違いがあります。
しかし実験の結果誤答率はなんと36.8%でした。
何回か実験繰り返した結果協力者に一度も同調せずに正解を答え続けた参加者は25%でした。
直線の長さというはっきり違いの分かる事柄でさえ他人の回答に影響を受けずに正解を言える人は4人に1人だったのですからもっと複雑な事象になった場合さらに同調しやすくなるのは想像に難しくないでしょう。
これほどまでに「同調バイアス」は脳を無意識的にあやつっているのです。
わたしたちの生活にひそむ同調バイアス
わざわざ行例に並んでまでラーメンを食べようとするのはまさに「同調バイアス」の影響です。
「同調バイアス」は特に本人以外の全員の意見が一致している場合はより強く働くことがわかっています。
ですから長い行列を目の当たりにするとついつい行列している人たちに同調してしまい並んでしまうわけです。
「同調バイアス」の影響が顕著にみられるのは災害が起こった場合などの緊急時です。
たとえばたくさんの人が集まった場所で火災が発生したとしましょう。
パニックを起こして会場から脱出しようとする人がいると同調した人たちが出口に殺到して将棋倒しになってさらに被害が大きくなるのは「同調バイアス」の影響です。
このように聞くと「同調バイアス」はなんだか悪い作用のように思われがちですが必ずしも悪いものではなく使い方によっては良い結果を生むこともあります。
某テーマパークでは大きな地震が発生した時にパレード中だったキャラクターたちが頭を守ってその場にしゃがみ込むように客に求め混乱を介したという事例もあります。
この場合はキャラクターたちに同調した客の行動がよい方向に働いた例と言えるでしょう。
重要なのは正確な知識とそれを適切に用いるテクニックを身につけていることです。
それができていないと「同調バイアス」に飲み込まれてしまいます。
わざわざ行例に並んでラーメンを食べようとすることは決して悪いことではありません。
大切なことはなぜわざわざ行例に並んでまでラーメンを食べようとしているのかを自分なりに理解しているかどうかです。
“同調バイアスの脳科学”のまとめ
わざわざ行列に並ぼうとする理由を探るため「同調バイアス」についてわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 日本人は基本的に行列が大好きですしあまり苦なく行例に並びます。
- 空いている店よりも行列ができている店にわざわざ並ぼうとするのは「同調バイアス」が働くからです。
- 他人がどう行動するかに影響されて自分の行動を変えることを「同調バイアス」と言います。
- わたしたちの生活にはたくさんの「同調バイアス」が働き良くも悪くもわたしたちの行動に影響をあたえています。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
最後にポチっとよろしくお願いします。