視野が狭くなって特定のものだけに注目してしまうのうはなぜなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 視野が狭くなって特定のものだけに注目してしまう「フォーカシング・イリュージョン」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
あなたはどこに住んだら幸せですか?
「フォーカシング・イリュージョン」の脳科学
- フォーカシング・イリュージョンとは、ある特定のことについて集中して考えているあいだは、それが人生の重要な要素のように思い込んでしまう脳の本能です。
- フォーカシング・イリュージョンにはまると、「~すれば幸せになれるはず」と思い込んでしまいます。
- フォーカシング・イリュージョンにおちいらないためには、特定の要素だけを過大評価しないように、広角レンズを通して全体を眺めてみてください。
あなたは、冬になると大雪が降って一、面銀世界になるような地域に住んでいたとしましょう。
スキーやスノーボードはし放題です。
銀世界はとても美しく、見慣れた景色でもつい見とれてしまいます。
しかしそうはいっても雪国での生活は大変です。
道路は雪解けのぬかるみだらけで歩きづらいですし、靴もすぐに汚れてしまいます。
ちょっと買い物に行くだけで大仕事です。
顔も指も針で刺されたように冷たく痛みます。
もしあなたが、太陽がさんさんと降り注ぎ、穏やかな海風が吹く常夏の地域に移り住んだとしたら、あなたの幸福度はどのくらいアップするでしょうか?
10段階(0=まったく幸福度は変わらない~10=はてしなく幸福度がアップする)で点数をつけてみてください。
今度は、あなたは大都会でオフィスビルが立ち並ぶ地域に住んでいたとしましょう。
あなたの住んでいるマンションは、ショッピングセンターや駅に直結していてとても便利です。
夜になると、マンションの窓から見える大都会の夜景は最高です。
しかしそうはいっても大都会での生活も大変です。
電車はいつもぎゅうぎゅうに混んでいて、職場に着くと大量のメールと上司のお小言が待っています。
永遠に終わらないのではないかと思ってしまう会議がようやく終わると、また次の会議です。
毎日家にたどり着くのは日が変わるころです。
それでも、週末はショッピングや食事を楽しんで、夜は自慢のホームシアターでお気に入りの映画鑑賞です。
もしあなたが、太陽がさんさんと降り注ぎ、穏やかな海風が吹く常夏の地域に移り住んだとしたら、あなたの幸福度はどのくらいアップするでしょうか?
この違いはいったいどこから来るのでしょう?
いったいどこに住むのが一番幸せなのでしょう?
フォーカシング・イリュージョンのワナ
フォーカシング・イリュージョン
『フォーカシング・イリュージョン』
「フォーカシング・イリュージョン」とは、人生において特定の要素だけに意識を集中させると、その要素が人生に与える影響を大きく見積もりすぎてしまう傾向です。
フォーカシング・イリュージョンは、アメリカの心理学・行動経済学者で、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが提唱した言葉です。
脳はある特定のことについて集中して考えているあいだは、それが人生の重要な要素のように思い込んでしまいます。
しかし実際には脳が感じているほど重要なことでもなんでもなく、ただの錯覚にすぎないのです。
“思い込みの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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先ほどの話で、最初の「寒い地域」と「温暖な地域」では話の焦点が気候にだけ集中しています。
つまり、気候というひとつの要素だけが2つの地域での生活満足度を評価する際の基準になっているのです。
ところが、次の「大都会の地域」の話では気候の要素はまったくでてきません。
朝の通勤から仕事の話、そして週末の過ごし方が幸福度の重要な要素となっています。
つまり、気候はその日全体の幸福度のほんの一部の要素にすぎず、特に大都会では気候などほとんど関係ないのです。
ですから、大都会から常夏の地域に移り住んでも幸福度はたいして変わらないわけです。
もっと広い視野で見てみるとよくわかりまず。
一週間、一か月、一年、一生と長い目で見てみると、気候など人生の幸福度においては、ほとんどとるに足らないことであることがわかるはずです。
フォーカシング・イリュージョンの対処法
たとえば車を購入する時、就職先を決める時、夏休みにどこに旅行するかを決める時、など何かを比較して選択しなければならない時は特に「たった一つの要素」だけに注目して、その他の要素をなおざりにするフォーカシング・イリュージョンにおちいりやすくなります。
「たった一つの要素」が決断の重要なポイントだと必要以上に思い込んでしまいます。
“意思決定の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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車の性能はさておき、車の色にばかりこだわってしまう…
仕事の内容はさておき、仕事の時の服装や髪形など外観の規則ばかり気になってしまう…
ホテルのまわりの観光地はさておき、泊まるホテルの評判ばかりに気なってしまう…
後から考えれば「なんでそんな細かいことにこだわってしまったんだろう…」というようなことでも、その時はそのことで頭がいっぱいでまわりが見えなくなっています。
ではフォーカシング・イリュージョンにおちいらないようにするにはどうすればよいのでしょう?
ある決断をするためには、無数にある要素すべてについて比較して考えられればよいのですが、それはいくらなんでも効率が悪すぎます。
しかしその中のたった一つの要素にだけ注目してしまうとフォーカシング・イリュージョンにおちいってしまいます。
あるものを比較する時に最も良い方法とは、特定の要素だけを過大評価しないように、十分な距離をおいて、それぞれを大きなまとまりとして認識して比べることです。
そうは言っても、距離をおいてものごとの全体像を見渡すことはそう簡単なことではありません。
たとえば幼い子どもは目の前にあることしか考えられません。
子どもからおもちゃを取り上げると、この世の終わりであるかのように泣き叫びます。
おもちゃは他にもたくさんあって、そのうえ今取り上げたおおもちゃは少し前まではほったらかしにしていたものだとしてもです。
しかし脳は年齢を重ねていくうちに、目の前の状況から意識をそらす術を身につけていきます。
暑い夏の夜、仕事から帰ってビールを飲もうと冷蔵庫を開けてみたら、ビールが1本も入っていない時に泣き叫ぶ人はいないでしょう。
空っぽの冷蔵庫から受ける精神的ダメージを最小限にするために、ビールから意識をそらすことができます。
ですからビールがないという事実だけでその夜を台無しにされることはありません。
他にも暑い夜を快適に過ごすためのアイテムはいくらでもあるはずです。
このくらいの小さなイベントであれば、ほとんどの人がフォーカシング・イリュージョンにおちいらずに対処できます。
とはいえ、残念ながらほとんどの人の脳は他のことにもこうした考え方を応用する能力に関しては未熟です。
あなたの人生もフォーカシング・イリュージョンの渦の中にある
フォーカシング・イリュージョンは、車を購入する、就職先を決める、夏休みにどこに旅行する…などの日常の些細(ささい)なことに限らず、あなたの人生にも影響しています。
もし他の仕事を選んでいたら、もし別の場所に住んでいたら、もし結婚していなかったら…自分の人生はどのくらいよくなっていただろうか?
確かに少しは違った人生になっていたかもしれません。
しかし何か一つの要素が変わったとしても、その結果生まれる新しい人生はきっと現在の人生とほとんど変わらないはずです。
そう思えない人はフォーカシング・イリュージョンの渦に巻き込まれています。
今とても重要に思えるものが、人生の全体図にはほとんど影響を与えないほどの小さな点であることがわかるはずです。
よい人生を手に入れたければ、時には広角レンズを通して人生の全体を眺めてみることが必要です。
「人生に“たられば”はない」…と言いますが、人はついつい「もし~していれば」と考えがちです。
人生において特にフォーカシング・イリュージョンの影響を受けやすいのは「お金」です。
そのように考えるからこそ当たる確率の極めて低い宝くじを買うわけです。
“宝くじの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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しかし実際に億万長者になった多くの人の生活は、意外にも一般市民の暮らしとあまり変わりがありません。
わたしたちと同じように、人生の三分の一の時間をマットレスの上で寝てすごし、わたしたちと大して変わらない値段の服を日常的に買っています。
普通の机と普通の椅子を使って仕事をして、好きな飲み物も好きな食べ物もわたしたちとほぼ一緒です。
お金をたくさん持っているからといって、実際には日々の暮らしにはほとんど影響はないのです。
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そうは言っても、当然お金をたくさんもっていて裕福である人と一般市民がすべてにおいて同じという訳ではありません。
たとえば旅行で飛行機に乗る時には、わたしたちはエコノミークラスの狭い座席に押し込まれますが、富裕層の人はファーストクラスでゆっくりとくつろぐか、人によってはプライベートジェットを持っているかもしれません。
乗っている車も、わたしたちは街中でよく見かける国産車ですが、富裕層の人は日本の狭い道路には明らかに大きすぎる高級外車でしょう。
しかしこれらの要素は人生のたかだか0.1%程度しか影響をおよぼしません。
飛行機の座席の狭さや車の小ささよりも、狭く小さいものにこだわったフォーカシング・イリュージョンにおちいっている脳のほうがよほど始末に悪いと言えるでしょう。
つまらないことに意識を集中させていては人生を浪費するだけです。
“「フォーカシング・イリュージョン」の脳科学”のまとめ
視野が狭くなって特定のものだけに注目してしまう「フォーカシング・イリュージョン」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- フォーカシング・イリュージョンとは、ある特定のことについて集中して考えているあいだは、それが人生の重要な要素のように思い込んでしまう脳の本能です。
- フォーカシング・イリュージョンにはまると、「~すれば幸せになれるはず」と思い込んでしまいます。
- フォーカシング・イリュージョンにおちいらないためには、特定の要素だけを過大評価しないように、広角レンズを通して全体を眺めてみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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